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8.6平和式典の規制拡大 法的根拠はなし 広島市が認める

 広島市の8・6平和記念式典は、今年から入場規制エリアが、平和公園全体に拡大されます。これまでは、式典の会場となる原爆慰霊碑の周辺だけが部分的に規制対象でしたが、元安川を挟んで対岸にある「原爆ドーム」周辺を含め公園全域が規制対象になるのです。その法的根拠を市当局に尋ねると「法的根拠はありません。市民にお願いしているのです」と答えました。発表資料や新聞、テレビの報道では「法的根拠はない」とは書いてありません。ちょうど1年前、G7広島サミットでも宮島や広島市の宇品地区で厳しい規制がかかりました。そのときも実は法的根拠はなかったのです。最近こういう行政姿勢が目立ちます。法治国家である以上、規制の根拠を明示すべきだし、それができないのなら市民へのお願いとはっきり言うべきです。どう行動するかは市民の良識に任せればよいと私たちは考えます。
                       (難波健治、藤元康之)

原爆ドーム周辺も規制区域 手荷物検査を実施

 
5月7日付の広島市の報道資料によると、昨年8月6日に起きた「衝突事故」を受け、「安全対策の強化」を名目に、警備等の強化策を次のように説明しています。

令和6年(2024年)平和記念式典(広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式)について(5月7日時点) - 広島市公式ホームページ|国際平和文化都市 (hiroshima.lg.jp)

◆8月6日午前5時から午前9時までの間、利用者の平和記念公園(式典会場)への入場を規制する。
・午前5時時点で公園利用者に圏外への移動を要請する。
・午前6時30分:式典参列者の会場への入場を開始する。その際、参列者は、式典会場入場口で、手荷物検査を受けて公園内に入り、参列者席(メイン会場)入り口で、金属探知検査を受ける。
※上記規制時間中に慰霊碑への参拝を希望する者は、午前5時から7時までの間に設ける専用出入口と専用通路を利用して慰霊碑参拝ができる(手荷物検査と金属探知検査は不要)

ビラ配りやゼッケン着用も禁止


◆平和記念公園(式典会場)では、午前5時から午前9時までの間、次の行為を禁止する。
・危険物、大きな音を発するもの(マイク・拡声器・楽器類等)
・プラカード・ビラ・のぼり・横断幕等、式典の運営に支障を来すと判断されるものの持ち込み
・ゼッケン・タスキ・ヘルメット・鉢巻等の着用
・小型無人機(ドローン等)の飛行
・物を投げる、大きな音声を発する、立入不可エリアに無断で侵入するなど、式典の妨げになると判断される行為
・他の公園利用者の通行その他の公園の利用に支障を来すと判断される行為(具体例3点を挙げている)
・公園の利用者間の調整を図るために市職員等が実施する警備に支障を来すと判断される行為(具体例2点を挙げている)

 この発表を受けた報道は、上記の内容を要約しながらもできるだけ詳しく知らせようとするもの、簡略化してポイントだけ報道するもの、などさまざまです。ただ、昨年の「衝突事故」を受けて、今年から規制が大きく強化される、という式典主催者・広島市の「決定」をそのまま知らせる報道になっているように思います。
「衝突事故」とは、5月8日付の中国新聞によると「昨年の式典当日にドーム周辺でデモ参加者の一部が市職員に集団で体当たりしたとされる事件」です。

法的根拠はないと担当課職員は明言

 
私たちは、5月18日午前10時半ごろ、広島市役所市民活動推進課に電話し、以下のようなやりとりをしました。

質問者:8・6の日の平和記念式典で、今年は、平和記念公園への入場規制が拡大すると知りました。このような規制拡大を広島市がする法的な根拠を教えてもらえませんか?

市民活動推進課職員:しばらくお待ちください。(3~4分待つ)。お待たせしました。今年からは入場規制を平和記念公園全域に広げるということです。

質問者:規制の内容については知っています。そのような規制をする「法的な根拠」が知りたいのです。行政がやることには何事も法的な根拠があるはずだと思います。法律とか条令とかに基づいて執行するはずです。その法的根拠が知りたいのです。

職員:お待ちください。(2~3分、待つ)。このたびの平和記念公園の規制拡大には、法的な根拠はありません。協力要請です。市民の方たちに、協力をお願いしている、ということです。

質問者:わかりました。「法的根拠はない」「協力をお願いしているだけ」ということですね。報道を見ても、市のホームページを見ても、そのようには受け取れないのですが、そういうことでいいんですね。
ちょうど1年前のG7広島サミットの際、宮島の入島規制が行なわれましたね。その時、廿日市市や県民会議、外務省などいろいろ尋ねてみたが、やはり、「法的根拠はない」ということだった。ならば、ということで、入島規制がかかった時間帯に宮島フェリー乗り場に出向き、その場で外務省職員と話し合った結果、「法的根拠がない」ということをあらためて確認し、外務省職員が見ている前で、「では、宮島に渡ります」と言ってフェリーに乗り、島を訪ねた。そういうことが実際にあった、私自身が経験したことだけれど、さきほど言われたように、今回の件で、広島市も「法的根拠はない」「市民に方々にお願いをしているだけ」ということでいいんですね。

職員:少し時間をください。後ほど、こちらから電話をさせてもらっていいですか。

同日午後1時、市民活動推進課のさきほどの職員から電話が入る。

職員:お待たせしました。さきほども申し上げた通り、このたびの規制拡大に、やはり、法的根拠はありません。市民の方々に、規制について、協力の依頼をする、お願いをするということです。

質問者:わかりました。ありがとうございました。

 8月6日は静かにお祈りしたいという市民感情は尊重されなければなりませんが、式典会場からかなり離れた原爆ドーム前も規制対象になり、手荷物検査を受けたうえで、「核兵器廃絶」や「憲法9条を守ろう」などのゼッケンやビラも禁止、しかもその法的根拠はない。何かおかしくありませんか? 

田村和之 広島大学名誉教授の論考

連載第24回やぶにらみ「行政」談義  広島自治体問題研究所「ひろしまの地域とくらし」2024年6月号
8.6平和記念式典時の平和公園入園規制
広島大学名誉教授 田 村 和 之

規制のあらまし
 広島市は、今年の8月6日の平和記念式典(平和式典)の際、平和記念公園(平和公園)の全域の入園規制(以下「8.6規制」という)を行う。具体的には、当日の午前5時時点で公園内にいる者に園外への移動を要請し、同9時まで入園を制限する。同6時30分に公園への入り口を6カ所開設し、式典参列者の入場を開始する。その際、手荷物検査と金属探知検査を実施する。これとは別に、午前5時から同7時まで、元安橋東詰より慰霊碑を訪れる専用コースを設ける(手荷物検査などは実施しない)。

 8月6日午前5時から同9時まで、平和公園内では次のような行為が禁止される。すなわち、危険物、拡声機、プラカード、ビラ、横断幕などの持ち込み、ゼッケン、タスキ、ヘルメットなどの着用、大声を発するなどの「式典の妨げとなる」行為である。

 昨年との違いは、昨年の規制範囲は平和公園のうち元安川、本川及び平和大通りに囲まれた区域の南半分(以下「公園の南半分」という)であったが、今年は原爆ドームのある区域を含めた公園全域に拡大されることである(式典を行う区域は公園の南半分で、昨年と変わりない)。また、今年は、禁止行為が具体的かつ詳細に示されている。

都市公園としての平和記念公園
 平和公園は都市公園法上の都市公園であり、地方自治法244条にいう公の施設である。公の施設の設置・管理は条例を定めて行うが(244条の2第1項)、都市公園の設置は、設置者が区域、名称及び位置並びに供用開始の期日を公告して行う(都市公園法2条の2、同法施行令9条)。平和公園については、設置者の広島市が区域、名称などを公告しており、平和公園設置条例は制定されていない。公の施設である都市公園の管理は条例事項であり、「広島市公園条例」(以下「公園条例」という)が制定されている。したがって、平和公園の管理は、公園条例の定めるところにより行われる。

 都市公園は、いわゆる自由使用・一般使用が原則である。すなわち、都市公園に行き、散策し、休憩したりするのは、市民の自由である。これらの行為を行うにあたり、許可を得る必要はない。平和公園も同様である。

 広島市は8月6日に行う平和式典(平和推進基本条例6条2項)のために平和公園を使用するのであり、必要な範囲で平和公園の利用が制限されるのはやむを得ないとしても、制限は平和式典を行う上で必要な範囲内にとどめるべきであり、不必要又は過剰な利用の制約をしないようにしなければならない。

 以上のような観点から、今年の8.6規制について、利用(入園)時間の規制、平和公園の全域を規制対象区域とすることの妥当性などについて検討する。

入園時間の制限
 
公園条例6条の2第3項は「市長は、有料公園及び有料公園施設の供用日、供用時間その他その供用について必要な事項を定めることができる。」と定め(「有料公園」「有料公園施設」は同条例別表第1~第4に定める)、これ以外に公園の供用日、供用時間について定める規定はない。したがって、有料公園でない平和公園は、いつでも自由に利用・使用できる。

 公園条例6条は、公園の損壊などにより利用が危険である場合、公園工事のためやむを得ない場合その他管理上必要がある場合、「公園の利用を禁止し、又は制限することができる」と定めているから、この規定に該当する場合、平和公園の利用・使用を禁止・制限できる。しかし、8.6規制がこの場合に当たらないことはいうまでもない。そうであるとすると、今年の平和公園の入園時間の規制は、公園条例によらずに行うものであり、問題である。

平和公園全域の規制
 昨年と同じように、平和式典は平和公園の南半分の区域で行われる。昨年の規制範囲は公園の南半分の区域であったが、今年のそれは平和公園全域に広げられる。その理由について広島市市民局市民活動推進課は、「安全対策の強化」として、昨年の「衝突事故を受け、再発防止に向けて警備体制を見直し、規制範囲を平和記念公園全体に拡大する……」と説明している(2024年5月7日報道向け文書)。同じことを2024年5月8日付の「中国新聞」は、「従来は原爆慰霊碑周辺が規制対象だったが、昨年の式典当日にドーム周辺でデモ参加者の一部が市職員に集団で体当たりしたとされる事件が起きたのを受け、『安全対策の強化』を打ち出した。」と報じる。

 この場合の「安全対策」とは、暴力行為から市職員や市民の身体の安全を保持しようとすることである。行政法学によれば、生命・身体の安全の保持を目的とする行政活動は「警察」と呼ばれるが、都市公園(平和公園)・公の施設の管理者(広島市)に「警察権限」が与えられていないことは、地方自治法、都市公園法からみて明らかである。今年の8.6規制は、平和公園の管理とは別の目的(警察目的)から、平和公園の全域の規制(入園制限)を行おうとしているが、都市公園の管理権限を越えるものであり、適切でない。

 昨年の暴力行為事件は、原爆ドームのある区域で発生した。広島市は再発防止を目的として同区域の利用を制限しようとするが、この種の刑事事件の取り締まりは、警察権限によるべきであり、都市公園の管理者である広島市の権限外である。また、刑事事件発生の一事をもって、市民の公園利用を制限する理由にはならない。

 原爆ドームのある区域は、平和式典の行われる公園の南半分の区域から元安川を越えた「遠隔」にある。そのような区域の利用制限(入園制限)が、平和式典を行う上で必要な範囲内であるか疑わしい。実際、昨年発生した事件によって平和式典の催行が妨げられたとの情報はない。
 なお、同様のことは、公園の北側の区域(韓国人犠牲者慰霊碑や原爆の子の像などがある区域)の規制についても言える。

おわりに
 地方自治法244条2項は、「正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」と定める。このたびの8.6規制は、この法規定に反する事態を発生させる可能性があり、場合によっては、法的紛争になるかも知れない。
 事態の推移を慎重に見守りたい。

G7入島規制の宮島に渡る





 

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