緊急集会に100人以上参加 8・6平和公園の規制撤回を求める
「8・6ヒロシマで何が起きようとしているのか」集会は7月21日、広島弁護士会館で開かれ、会場参加80人、オンラインでも30人が視聴しました。昨年のG7サミットを転機に変質があらわになった広島市の平和行政。今度は原爆投下の8月6日に、平和公園での集会や表現の自由を大幅に規制しようとしています。集会では「規制は市民の表現の機会を奪うもの。言論・表現の自由がない社会の行き着く先がアジア太平洋戦争であり、原爆投下であったことを思い起こそう」とのアピールを採択、規制の撤回を広島市に求めました。集会の様子を伝えるJCJ広島会員の宮崎園子さんと井上俊逸さんの記事を転載します。
「表現の自由侵害」市民集会で訴え相次ぐ
(この記事は反戦情報8月15日号から転載しました)
ヒロシマに8月6日がまた巡り来る―。原子爆弾の投下によって10万以上の人々の命が奪われた、あの日から79年。広島市が開催する平和記念式典は今年、会場となる平和記念公園への入場規制を従前より格段に強化して営まれようとしている。「安全対策」を名目に、規制エリアを公園全域に広げたうえ、手荷物検査を受けないと入場させず、プラカードやのぼりなどの持ち込みに加え、ゼッケンの着用までも禁止する市の方針に対し、市民の中から「表現の自由を侵害する行き過ぎた規制」などと疑問や反発の声も上がっている。
広島市が、今年の平和記念式典に関し例年とは大きく異なる入場規制をする方針を明らかにしたのは5月。これまで式典は主に公園の南半分のスペースを会場にして行われてきたのを、今年はそれを北半分にある原爆ドーム周辺も含む公園全域に「会場」を拡大し、入場規制の対象エリアとした。当日、式典開催の前後4時間(午前5時~9時)、式典参列者を含め、公園内に立ち入ろうとする者は6カ所あるゲートで手荷物検査を受けて入場することになる。その際、拡声器やプラカード、のぼり、横断幕などの持ち込みのほか、ゼッケン、たすき、ヘルメット、鉢巻などの着用も禁じ、従わなければ退去を命じることがある、とした。
これに対し、地元新聞社や放送局の元記者らでつくる日本ジャーナリスト会議(JCJ)広島支部は、行政法が専門の田村和之広島大名誉教授の「自由使用の都市公園での表現活動の制限などは、いかなる見地から見ても違憲・違法だ」との指摘をもとに6月3日、松井一実市長に対し公開質問状を提出し、この規制についての法的根拠やいくつかの疑問点を質した。所管の市民活動推進課との事前のやり取りでは「(規制に)法的根拠はない。公園を訪れる人に協力のお願いをするものだ」という答えだったが、この日のヒアリングでもほぼ同様の説明に終始。本来、誰でも出入り自由のはずの公園に規制をかけることの明確な法的根拠は示さず、理由としては昨年の式典開催当日、原爆ドーム周辺で起きた「衝突事故」のようなことの再発を防ぎ、「安全・安心な式典にするため」を繰り返した。
この衝突事故とは、いったい何だったのか。原爆ドーム付近でデモをする中核派の関係団体とそれを妨げようとする右翼団体の行動があり、その現場にいた市職員1人が巻き込まれた事案のようだ。発生から半年以上過ぎた今年2月28日に中核派系の活動家5人が暴力行為等処罰法違反容疑で逮捕、起訴されたもので、警察や市によると5人は集団で市職員に体当たりをしたという。
5人の弁護人を務める工藤勇行弁護士は、7月21日にJCJ広島主催で開かれた「8・6ヒロシマで何が起きようとしているのか 平和公園での表現規制を考える」緊急集会に登壇。数年前から、平和記念式典開催中の周辺デモ隊の拡声器による騒音対策などを求めて市や市議会に働きかけてきた右派勢力の動きが当該事件の背景にあると説き起こした。特に、逮捕前日に市議会で「『広島市平和推進基本条例』に明記されている厳粛な平和記念式典の開催を実現するために、広島市は実効性のある対応に取り組むこと」を求める請願が採択されたこととの関連性に言及。「現行犯逮捕ではなく、被害者とされる市職員がけがをしたという事実はなく、本人から被害届もない。にもかかわらず、7カ月近くたってこの請願が採択された翌日の逮捕と、その件を理由に市が今年の平和記念式典での規制強化を打ち出したことはあまりに不可解だ。市がこんな対応をするのは、市民の思想・良心の自由や表現の自由よりも式典の静謐、厳粛を最優先しているからではないか」と指摘した。
続けて、田村名誉教授も規制の法的問題点を解説。「たった1件の事件が起きたことによって、公園の使用を全面的に制限するというようなことは聞いたことがない。式典が整然と安全に行われることに異論はないが、それを理由に表現活動を禁止するというのは途方もない論理の飛躍だ」と批判した。
集会では、2019年に札幌で起きた「ヤジ排除」事件をテーマにしたテレビのドキュメンタリー番組をもとに、映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』を制作した北海道放送報道部デスクの山﨑裕侍さんが「どんな声もかき消されてはならない! 『ヤジと民主主義』は何を暴いたのか―」と題して講演。札幌の事件で明らかになったのは、公の場における意見表明を法的根拠なく警察や行政機関が強権的に規制するというのがまかり通っていることだと論じ、これは広島で今起きている問題に通底していることであり、断じて許してはならないとの認識を参加者が共有し、今後の取り組みを考えるうえで重要な示唆を与えるものになった。(井上俊逸)
8・6ヒロシマで何が起きようとしているのか
平和公園での表現規制を考える
7・21集会アピール
79年前の8月6日午前8時15分、晴れあがった広島の上空に現れた米軍機が投下した1発の原子爆弾は14万人の命を残忍に奪いました。3日後の9日には長崎に投下された原爆で7万人が亡くなりました。人間に初めて使われた核兵器による大虐殺です。生き残った人々も放射線の後遺障害や生活苦などで人生を狂わされ、多大の苦しみを味わいました。
8月6日は原爆の犠牲になった人々を追悼し、その無念の思いを忘れず、犠牲者が一番願ったこと、核兵器が三たび使われないよう核兵器の廃絶と戦争のない世界の実現を誓う日ではないでしょうか。
今、世界ではロシアのプーチン大統領やイスラエルの閣僚らが核兵器使用を公言するなど核戦争の危機がかつてなく高まっています。ウクライナやガザでは子どもを含む多数の市民が殺されています。今年の8月6日はこれまでにもまして被爆地ヒロシマから「NO NUKES」「NO WAR」の声を世界に訴えていかなければなりません。
今年8月6日の平和記念式典で広島市は平和公園の全域に入園規制をかけようとしています。これまで式典会場ではなかった公園北側や元安川対岸の原爆ドーム区域も「式典会場」に含めて、「安全対策の強化」を理由に午前5時から9時まで手荷物検査を受けて許可されないと入れなくなります。ゼッケン、たすきの着用やプラカード、のぼり、横断幕、ビラの持ち込みは禁止されます。
平和式典で発言できる人は限られています。出席者も限られています。
例年、海外も含め広島市内外の多くの市民が8月6日8時15分を中心に原爆ドームや平和公園のあちこちで犠牲者を追悼し、「核兵器廃絶」「戦争のない世界」をさまざまな表現で世界に訴えています。
今回の市の規制はそうした市民の表現の機会を奪うものであり、憲法の保障する「言論・表現の自由」の封殺です。民主主義の根幹である言論・表現の自由がない社会の行きつく先がアジア太平洋戦争であり、原爆投下であったことを思い起こしてください。8月6日のヒロシマの核心的時間・空間でそのような暴挙が行われることを見過ごすことはできません。
私たちは今回の平和公園の入園規制の撤回を求めます。
2024年7月21日
7・21集会 参加者一同
集会アピールのPDF版です。拡散してください。
集会で配布した資料です。