医療現場での手指衛生のコンプライアンスに関するエビデンス
新型コロナウイルス感染症の流行も、とうとう第3波を迎えようとしています。厚生労働省からは、新型コロナウイルス感染症の予防のために、手洗いや咳エチケットの感染症対策が呼びかけられており、感染リスクが高まる5つの場面が新たに提言されました(1)。そして、感染症対策の呼びかけとして、ウルフルズのトータス松本さんがギターを弾きながら歌声を披露し、「ガッツだぜ!!」のメロディーにのせて「ウォッシュだぜ!!パワフル手洗い ウォッシュだぜ!!指も手首も」と熱唱し、最後に真面目な表情で「こういうこと」とつぶやいた動画は、ウルフルズ世代の私にとって、非常に印象的でした。
しかし、感染症対策のために、手洗いが重要なことは皆さんがご存じの通りですが、日常生活の中で手洗いを確実に実施することは意外に難しいのではないでしょうか。今日は医療現場での手洗い(=手指衛生)の確実な実施(=コンプライアンス)について探ってみたいと思います。
手指衛生を行うタイミング(2)
・患者に触れる前後
・手袋の有無に関わらず、侵襲的器材を扱う前
・体液、浸出液、粘膜、正常でない皮膚、創部ドレッシングに触れた後
・同一患者のケアの間に、汚染された身体の部位から他の部位に移動する場合
・患者周辺の環境や物品(医療設備を含む)に触れた後
・滅菌手袋または未滅菌手袋を外した後
手指衛生に関する推奨すべき実践
・石けんと流水による手洗いは、有機物などによる手指の汚染を取り除くために実施する(全行程時間:40-60秒)。(2)
・手に目に見える汚れがない場合は、擦式アルコール手指消毒薬による手指衛生を行う(全行程時間:20-30秒)。(2)
・石けんと流水による手洗いには、洗い残しや手荒れの問題があり、除菌効果は擦式アルコール手指消毒剤よりも劣る。(しかし、アルコールが効かないウイルスも存在するので注意!)(3)
医療現場での手指衛生のコンプライアンスに推奨されるベストプラクティス
・スタッフ教育:手指衛生の重要性や方法に関する講義(4,5)
・注意喚起:ポスターの掲示 (4-6)、患者による注意喚起(7)
・フィードバック:病棟や個人に対する手指衛生のパフォーマンスのフィードバック(8)
・施設レイアウトの変更:スタッフの作業動線を考慮し、手指衛生製剤へのアクセスを改善する(2)
・手指衛生製品の利用可能性:手指衛生製品が使用できる環境や必要物品を整える(9)、スタッフに受け入れられやすい製品を選択する(10)
・チームリーダーまたはマネージャーのサポート:上司が手指衛生を遵守する、病院では各部署で適切に手指衛生を行っている職員が評価されている(11)
日常生活の中で手指衛生を確実に実施するためには、我々一人一人の努力ももちろん重要ですが、手指衛生に必要な物品を必要な箇所に準備するといった手指衛生が実施できる環境を整えること、そして、他者からの承認も重要なようです。
(文責:松中)
引用文献
1. 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症について 感染リスクが高まる「5つの場面」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html (アクセス日:2020年11月16日)
2. WHO Guidelines Approved by the Guideline Review Committee. WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care: First Global Patient Safety Challenge Clean Care Is Safer Care. 2009. file:///C:/Users/matsunaka/Downloads/9789241597906_eng.pdf (アクセス日:2020年11月18日)
3. Centers for Disease Control and Prevention. Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings: Recommendations of the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee and the HICPAC/SHEA/APIC/IDSA Hand Hygiene Task Force. MMWR 2002;51(No. RR16). https://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5116.pdf (アクセス日:2020年11月18日)
4. Harbarth S, et al. Interventional study to evaluate the impact of an alcohol-based hand gel in improving hand hygiene compliance. Pediatr Infect Dis J. 21(6):489-95. 2002.
5. Won SP, et al. Handwashing program for the prevention of nosocomial infections in a neonatal intensive care unit. Infect Control Hosp Epidemiol. 25(9):742-6, 2004.
6. Huis A, et al. Impact of a team and leaders-directed strategy to improve nurses' adherence to hand hygiene guidelines: a cluster randomised trial. Int J Nurs Stud. 50(4):464-74, 2013.
7. Davis R, et al. Systematic review of the effectiveness of strategies to encourage patients to remind healthcare professionals about their hand hygiene. J Hosp Infect. 89(3):141-62, 2015.
8. Doronina O, et al. A Systematic Review on the Effectiveness of Interventions to Improve Hand Hygiene Compliance of Nurses in the Hospital Setting. J Nurs Scholarsh. 49(2):143-152, 2017.
9. Pittet D. Improving compliance with hand hygiene in hospitals. Infect Control Hosp Epidemiol. 21(6):381-6, 2000.
10. Barbut F, et al. Comparison of the antibacterial efficacy and acceptability of an alcohol-based hand rinse with two alcohol-based hand gels during routine patient care. J Hosp Infect. 66(2):167-73, 2007.
11. 桐明孝光, 他. 看護師の手指衛生に関する組織風土尺度の開発研究. 日本環境感染学会誌. 34(2): 95-105, 2019.
参考文献
植木慎悟, 山川みやえ. JBI: 推奨すべき看護実践 海外エビデンスを臨床で活用する. 日本看護協会出版会, 東京, 14-22, 2020.