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迅速に行動すること、コツコツ積み重ねること

 研究を行う際には、研究課題に関する先行研究のレビューや研究対象者に対する倫理的配慮のなされた綿密な研究計画の立案・実施といったプロセスを経ることについては言うまでもありませんが、同時に、いま必要とされる研究課題に対し、いかに迅速に動くか、ということも重要ではないでしょうか。「エビデンス生成のスピードと組織力(2021年1月27日掲載)」でも示されたように、スピード感をもって研究を実施するためには個人の力だけでなく“組織力”もまた必要とされることでしょう。組織力を最大限に発揮するという視点で考えると、例えば個々の構成員の繁忙時間を共有することで業務分担の効率化を図り、調整できた時間を研究のために確保する、といった工夫も考えられるのではないでしょうか。

 コロナ禍といわれる状況下で1年が経ち、それぞれが感染拡大防止を念頭に行動し、工夫して生活を送る中で、順応し対処していこうとする気持ちの陰に「コロナじゃなかったら・・」なんて考えてしまうこともあると思います。個人的な話になりますが、今回私が1年以上帰省しなかったのは初めての経験で、やはり少し寂しいなとか、家族に会いたいなと思います。そんな中、以前は家族との電話ではほとんど使うことのなかったビデオ通話を利用するようになった今、目にとまったレビュー(Rapid review)があったので紹介したいと思います。
(Rapid reviewについては、「Rapid reviewとLiving Systematic review(2021年2月1日掲載)」をご参照ください。)

高齢者の社会的孤立と孤独感を減らすためのビデオ通話:迅速レビュー
Video calls for reducing social isolation and loneliness in older people: a rapid review (Review)
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD013632/full?contentLanguage=en

 COVID-19パンデミックにより多くの国で実施されている移動制限が、高齢者の社会的孤立や孤独感につながり、心身の健康を損なう可能性が考えられます。今回のレビューは、ビデオ通話を利用した65歳以上の高齢者は、ビデオ通話を使用しなかった高齢者に比べて孤独感が少ないのか、またビデオ通話がうつ症状や生活の質に影響を与えるかどうかを明らかにする目的で実施されました。結果としては、ビデオ通話が孤立感や生活の質に対してほとんど影響しないことやうつ症状が少し減少した可能性があるが差はほとんど認めなかったことが報告されました。今回は、研究対象者全員が介護施設で生活をしていたため自宅や他の場所で生活する高齢者には該当しないこと、参加した時点で孤独感や社会的孤立を感じていなかった可能性があること、参加者の少ない研究が少数のみ該当したことなどからも、ビデオ通話の効果に関するエビデンスは得られませんでしたが、本課題の現状の把握と今後の研究の必要性が示唆されました。

 今回は、エビデンスの信頼性としては課題が残るものの、コロナ禍で利用される頻度の増えたビデオ通話と健康の関連性、つまり、現在私たちが置かれている環境において必要な課題という点では価値があるものだと思い取り上げました。臨床や対象者に還元するために行う研究において、研究課題を見出すアンテナを張り迅速に行動に移すこと、そして信頼性の高いエビデンスを構築するために質の高い研究を積み重ねること。研究を続けていく中で大切にしたいことを考える機会になったように思います。

(文責:山田絵里)

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