バーベ・キュー
「バーベキュー味」というのは、結局何の味なのだろう。バーベキューといえば、皆で集まり、野外で肉を焼いたり、野菜を焼いたりするあれだ。それに味を付けて「バーベキュー味」。何だそれは。何を以ってバーベキュー味としているのだろう。
ファフトフード店でチキンナゲットを頼むときは釈然としない気持ちになる。「ソースは、バーベキューとマスタードどちらになさいますか」と訊かれて、「バーベキューでお願いします」と答えるが、バーベキュー味が何なのか自分で分かっていない。食べても「これがバーベキューなのかなあ。よく分からないなあ」と謎は深まるばかり。
食べ物でないバーベキュー。それに味が付いたよく分からないバーベキュー味。そんな味が許されるのなら、何味でも許されると思う。
「チキンナゲットのソースは、バーベキュー味、マスタード味、セレブのカクテルパーティー味がありますが、どちらになさいますか」
「えっ、えっとセレブのカクテルパーティーで」
「はい、かしこまりました。セレブのカクテルパーティー入りました」
ファストフードの店で手軽に味わえるセレブのカクテルパーティー味。世の中便利になったものだ。
「チキンナゲットのソースは、バーベキュー味、マスタード味、初めてのキスの味がありますが、どちらになさいますか」
「えっ、えっと初めてのキスの味って、やっぱりあれなんですか」
「はい、あの味を再現いたしました」
「それをお願いします」
「はい、かしこまりました」
ドキドキしながら、ファーストキスの味を注文した青少年。そして、甘酸っぱいと思ったら、意外とニンニク臭くてがっかりする味。青少年達の頬を殴打し、幻想を打ち砕くパンチの効いた味だ。
「ソースはマスタード味、バーベキュー味、あの味がありますが、どちらになさいますか」
「あの味って何ですか」
「もう、だから、あの味ですよ。私に言わせないで下さい。いじわる」
と顔を赤らめる若きアルバイトの女性店員。
「あっ、あの味下さい」
「はい、かしこまりました。ケチャップ味入りました」
騙された。
釈然としないが、夢だけは詰まった味がバーベキュー味なのかもしれない。
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