残された者のために今できること。残された者たちの争いを予防するためにできること。遺言を作ろう!
公正証書遺言にするか?自筆証書遺言にするか?
以前私が実父に「遺言を残しておいてな」と言ったことがあったのだが、その時父は「H(弟)が公正証書遺言を作るといいぞって言っていたから作ったぞ」と言っていたことがあったので、ついこの前までそれを信じて私は油断していた。
ところがどうも、まだ公証役場に行って作成していなかったらしい。
「遺言のたたき台」を作っただけであって、それはどうもタンスの中に入っているようだ。
「・・・」絶句だった。
私が「遺言を残しておいてほしい」ことを伝えるよりもだいぶ前に、遺言を作っておくことのメリットをあんなに散々言ったにもかかわらず、その時は私の意見を聞いていたのかいなかったのか、スルーしてたよね??
私の弟のHは弁護士をしているのだが、Hが一言「公正証書遺言を作っておけよ」と言っただけで、ずいぶん気持ちがそちらに傾いて、原案まで作ったくせに、その勢いで公証役場に予約をして遺言作成をしなかったのか??
この弟への態度と私への態度の差へ、イラっとしたのも確かだが、一応私の父は後期高齢者だ。長生きしそうな感じはあるが、人の命はいつ終わるかわからない。
お父さんよ! 貴方の今までの行動力をもう一度思い出してくれ!
その後、もう一度尻を叩いたのだが、「じゃあ、おかあと一緒に遺言作るわ!」なんて言っていた。
やめてください!遺言は一人で作ってください。
たとえ夫婦仲が良くても、2人以上の者が同一の証書でする共同遺言は禁止されている。違反した遺言は無効なのだ。
「二人の者の遺言が容易に切り離すことのできる1通の証書で記載されている場合は有効」という判例があるにはあるが、これは最高裁まで争って有効とされたものであって、そういう危険のあることはいくら有効とされていてもおすすめできない。
さて、遺言は自分には関係ないと思われている人も多いだろうが、意外に遺言をしておいたほうが良い若い人だっているのだ。
例えば「片親で未成年の子がいる場合」「子供がいない夫婦の場合」「内縁の配偶者がいる場合」遺言を残しておくか、残しておかないかにより、その後の手続きが変わってしまうのだ。
例えば「片親で未成年の子がいる」場合、未成年後見人を遺言で指定しておくことにより、自分の信頼できる方にお任せすることができることがある。
「内縁の配偶者がいる」場合は、自分が亡くなった場合の相続財産は相続人に分配されてしまい、内縁の配偶者には何も残らない。住まいさえ失うことがあるのだ。内縁の配偶者と相続人は不仲なことが多いので、せめて住まいの心配はないようにしてあげてほしいと思う。
遺言を残しておくことにより、死後の財産を自分の意思で処分できる。
「この不動産は内縁の妻へ遺贈する」この一言で、内縁の配偶者が救われることがある。
相続財産の分配の指定も、アンバランスに指定したい場合もあるだろう。
「自分の面倒をたくさん見てくれた長女に少し多めに残したい」その希望を叶えるために遺言を残すことは有意義だ。
ただし、バランスよく遺言を残さなかったがために、争いになる場合もなきにしもあらずなので、その場合は遺言にその理由を記載すれば、相続人の理解も促せると思う。
例えば「このようにしたのは、〇〇(配偶者など)が生活に不安の無いように多めの財産を残すことを考慮して遺言をしました。そのことを理解してもらいたい」という一言を残すとよいと思う。
この一言には法的効力はないが、その一言があるのとないのとでは、読んだ者のとらえ方が違うはずだ。
遺言の内容は法定されており、「相続や遺産に関する事項」「身分上(認知)に関する事項」「遺言執行に関する事項」などの法律行為だが、法律行為に関係のない「事情」や「理由」を一言添えることにより、争いを少しでも防ぐことができると思う。
「遺言能力」をご存じだろうか?
遺言をするとき、一般的に「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」の選択がされることがあるが、それをするにも「遺言能力」が必要なのである。
「遺言能力」は「遺言をすることができる能力」。15歳以上であれば単独で有効な遺言をすることが可能なのだ。
ただし「意思能力」があることが条件。
「意思能力」とは「意思表示などの法律上の判断において自己の行為の結果を判断することができる能力」である。
「認知症」などの疑いがある場合、「意思能力がない」として無効とされる場合がある。
遺言で「自筆証書遺言」は自分だけで手軽にできる分、紙とペン、印鑑があるだけででき安く済むが、遺言の方法が厳格に決められており、法律で決まったようにできていなければ無効になってしまうし、亡くなった後遺言が見つかった場合、中身を見て自分に不利益な遺言と感じた相続人に破棄される危険もある。また、その遺言が「意思能力がない」となり無効とされてしまうこともある。
その場合、それを回避するために、医師の診断書があればよいかもしれない。また、相続人に破棄されたりしないためにも、今は「遺言書保管制度(法務局で保管してくれる)」もある。遺言者が希望した場合になるが、死亡した場合は希望したものに通知してくれたりする。(利用したい場合は調べてほしい)
「公正証書遺言」は公証人の面前で遺言を口述し、公証人と証人2人立ち合いの元作成するのだが、第三者が確認することで「意思能力がない」と判断されるリスクは低くなるように思われる。また公証人が作成に関与することにより、きちんとした遺言が作成される。手数料は高くなるかもしれないが、遺言が有効になる確率は格段に高い。(料金は日本公証人連合会のホームページに書かれている)
また、遺言者が亡くなった場合、全国どこの公証役場でも、遺言があるかどうか検索できる。
ただし、公証役場に予約を入れたり、公証役場へ何度か出向いたり、遺言が完成するまでに2か月はかかるとみていてほしい。
どちらもメリット、デメリットがあるが、自分はどちらで作成したほうが良いか考えて、是非遺言を残してほしいと思う。
また司法書士は遺言を作成するためのお手伝いができることを伝えたい。
手間を惜しまず、死亡後のことを考えることは大切だ。
最近は、段々にその意識がある人が増えてきつつあるようである。