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【小説】タシカユカシタ #17

 ティラノは、しゃがみこんでひくひくしながら、しばらく笑っていた。

「後悔の泉?」

「小僧、悪いがお前に呪文を教えることは出来ん」


「えっ?何故ですか?」

「俺の知ってる呪文は、俺の主人専用のものだ。お前に教えても、お前は使えない」


「えつ、そんな…じゃあ、僕は、どうすれば…」

「さあな…悪いが、小僧」


 ティラノは、すっと、立ち上がった。

「お前の境遇には同情するが、俺も時間が無いんだ。お前にかまっているひまはない」


「そ、そんな…」

「俺は、ジャックと違って、主人に媚なぞ、売らん。自分の力で《統べる竜》まで登りつめてみせる」


 そう言って、ティラノは、また走り出そうとした。

「あ、待って」

「アクアに…アクアに聞いてみろ。何か知恵を貸してくれるだろう」


「アクア?」

「俺たちと同じ《夢語り》だ」


 それだけ言うと、また運動場をランニングし始めた。
 もうこれ以上、ティラノから聞き出させそうもない。
  もくもくとランニングを続けるティラノを目で追いながら、浩太はため息をついた。

(とりあえずアクアっていう《夢語り》を探し出すしかない)

 ジャックの話によれば、《夢語り》は《夢語り》を生み出した主人が大人に近づくと主人から分離し、長い旅路につく前の一週間、『惜別の部屋』と呼ばれる世界で主人のそばにいて別れを惜しんでいる。

(…てことは、高学年の教室をしらみつぶしに当たれば、見つかるはずだ)

 五年生の教室は本校舎、B棟の三階にあった。

(とりあえず、五年生の教室から行くか…)

 空のじゅうたんが動く気配があった。

(待った!)

 じゅうたんは、動くのをやめた。浩太が五年生の教室を、頭に思い浮かべたので、また、さっきみたいに、じゅうたんは一足飛びに五年生の教室に飛ぶところだった。

(危ない、危ない。また、さっきみたいのはごめんだ。普通に歩くときみたいに、順番に思い浮かべればいいんだ)

 歩くとき、意識して歩いているわけじゃないので普通に歩くように、なめらかに動くのはなかなか難しかった。
 でも、だんだん慣れてきて落ち着いてくると、スムーズな動きが出来るようになった。

(よし!こつを、つかんだぞ)

 五年生の教室に行く前に、行かなければ、いけない場所があった。
 それは《宵闇》が棲んでいるという大楠の根元にぽっかりと空いている大きな洞だ。
 そこは子供たちの遊び場だった。隠れたり秘密の基地ごっこをしたり…
 だが去年の台風で一部亀裂が入り、今は立ち入り禁止になっていた。
 浩太は、五年生の教室に行く前にそこへ行ってみようと思った、
 もしかしたら必死に頼めば呪文なしでも《宵闇》が出てくるかもしれないと思ったのだ。
 

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