8.アセクシャルと水商売
高校までの幸せな生活は戻ってこない。
恋愛主義のしんどい世の中から救ってくれたのは、意外にも水商売だった。
キャバクラで「あやちゃん」という名前で働き始めた。
アセクシャルかレズビアンかもしれないと悩んでいる山田は死んだことにして、男性と話すのが大好きなあやちゃんで過ごした。
お酒は嫌いだったし、男の人に色目で見られるのだって得意じゃない。
でも恋バナや下ネタが好きなお茶目な女の子として生きるのは、本当の私を忘れられて嬉しかった。
水商売で働くお友達の中には、風俗関係やパパ活と兼業の子も多かったし、お客さんの中には妻子持ちで平気で女の子とワンナイトや不倫関係にある人もいた。
私自身が男性が好きじゃないから、仲間に加わることはなかったけれど、すごく安心したのを覚えている。
専門時代、恋や愛を強制され、それが何より素晴らしいという価値観を押し付けられたけど、
恋愛はそんな綺麗なものじゃない。
お金を稼ぐ武器でもあり、とても汚いものでもある。
私が手に入れられない感情が宝石だと言われていたとしたら、それが実は安いガラクタだったと教えてもらえた気がしたのだ。
だから今でも恋愛脳の少女漫画のような人よりも、性と恋愛を武器だと割り切って稼ぐ人のほうが人として好きだ。
浮気も不倫もワンナイトも身体を売ることも
良しとされないのに、
恋愛だけは素晴らしいわけないじゃない。
だからこの仕事は辞めたくなかった。
需要の寿命が尽きるまで。
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