記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【推しの子ネタバレ】カミキヒカル・星野アクア・雨宮吾郎・赤坂アカ

はじめに

私はあんまり頭がよくないので、物事を纏めるのが下手です。でも頑張って書きました。読みにくかったらごめんなさい。

このnoteで【推しの子】を取り上げはじめたのは最終回2回前(2024年11月)であり、それからたまにカミキヒカルについて取り上げることがあった。
私はまずメタファーの観点からとらえることにした。この作品には繰り返し行われている表現があるからだ。
当noteで取り上げたメタファー解釈一覧
ナイフ=拒絶→アイとルビーが刺された構図が同じ
歩道橋=人生の分岐点→あかねは自ら仕込んでいたナイフを星野アクアに暴かれる。
アイ無限推しキーホルダー=無念→海に沈んで行方不明
15=苺=苺の花言葉。斉藤壱護の苺プロ、45510。
それではカミキヒカルのメタファーは?に対する私のアンサーは
無理解と理不尽を詰め込まれて産まれた無理解の怪物。
姫川の奥方はどんな理由があれ少年に手を出していいわけじゃないし、歪んだカミキだって「会いに来ない?」というアイの無垢な誘いに乗らずリョースケを送り込んだ時点で星野アイを理解することを拒絶し、更には星野アイを超えようとする存在を殺め"させ"て、自己肯定感を強め、自らの観測する世界を作り続けてきたからである。

次に紹介するのは読者の反応、私の印象に残った他者のカミキ評である。
カミキヒカルに対して
・ラスボスの割にしょぼい
・殺さなくてもよかった
・星野アクアには生きててほしかった
など、過小評価する声がチラホラ見られた。
私からすればカミキヒカルは絶対に殺さないといけないし、何より星野アクアも死ななければならない。でもなぜか?を答えることは出来なかった。特に後者。強いて言うならラブコメの観点から"回収しない"という形も一つの答えとして尊重されるべきでしょう、という個人の死生観から来るものしか出せなかった。
今なら出せる。星野アクアが何故拒絶のメタファーであるナイフを自分にも刺したか。

というわけで今回の正式なタイトルは

カミキヒカルへの解答と、星野アクアは何故死ななければならなかったのか

である。


作品の持つ特徴から結論だけ先出し


まぁ~長くなったので結論だけ言うと
カミキヒカルは2020年代に生みだされた悪役であり、特徴は教唆犯。これは今、オールドメディアと馬鹿にされるメディアではなく、私がガキの頃から常に流行の先端とされ持て囃し人々を騙し続けたネットがモデルになると考察している。ネットは、一般人でも情報と見栄えさえ良ければカリスマになれるから。
 ・クリックベイト問題や、まとめブログ問題(俺的、は〇まなど)
 ・コ〇コ〇・ガ〇シ〇、滝〇〇レソなど、暴露による情報屋という側面   とタレコミ先として動いている人々
 ・……の彼らの常連客となっている者達が持ち上げ情報を拡散する現象
 ・有名人への誹謗中傷問題
 ・反転アンチによるデマなどの拡散
 ・扇動のメタファーなどを背負っていると思われる。

カミキ過小評価問題について。まず私は殺人を正当化するつもりはないけど、これフィクションなんだ。つまり、現実では生きられなかった人達を生かすことは出来るし(天童寺さりな)、現実では殺せないやつを殺したっていい。「殺さなくてもよかった」「どうにかできるのでは」などについてですが、これは見事カミキヒカルが勝利したな~って思う。情報戦を見事に制してみせた。

【推しの子】第16巻第154話15年の嘘

「責任逃れするつもりなんて微塵もないけれど」←ここで誠実さを飾り
「まさか殺すなんて想像だにしてなかったんだよ」←被害者面してる
「少し位は怖い目を見て僕の絶望を理解して欲しかっただけ」←本当に理解して欲しかったら会いに行けよ。ここで自ら会いに行かなかったのが全てだと私は思うんだけど。
「命を投げ打てる程愛してた彼女に 愛せないと言われた時の僕の絶望を」
ここでカミキヒカルは、自分に憐憫を抱かせるような話し方をしている。悪い言い方をすると、"僕も辛かったアピ"してる。取り返しのつかないことになっちゃった……。みたいな。
ここで星野アクアの前世の記憶が生きる。
リョースケは病院の場所知ってたよね?雨宮吾郎の殺害は?なんでリョースケは病院の場所をしってたの?地方の病院で偽名使って入院してたよね?
もし雨宮吾郎が死ななかったらリョースケは何をしにいったの?ニノ連れてるから「様子見に来て~」って言い訳は、不可能ではない……。
という思考が出来る。カミキは本当に理解って欲しかったのなら、アイに自分で会いに行って、自分で糾弾すればよかった。思いの丈をぶちまければよかった。でも会いに行かなくて、結果雨宮吾郎は殺されてしまった。

カミキヒカルは常に一歩引いた場所から情報を漏らした"だけ"。

これを現実で例えるなら、Twitterで悪趣味なインフルエンサーが特定の場所に関するタレコミを拡散して、バズって、ポストを見た人々が迷惑電話を鬼のようにかけて、そこで働く人々が疲弊したという出来事が起こったとする。あなたのツイートが発端なんですけど?と聞いても「そんなことさせるつもりはなかった、するとは思わなかった」って言ってるようなものでは?私はこういう人せこいと思うな。

カミキヒカルは星野ルビーの命を、新野冬子を使って狙う。カミキは冬子を止めることが出来る唯一の人物だったかもしれない。(冬子が止まれてたかは別問題である)私は上手に表現できないけど、例えるなら
「僕の愛したアイに似てる、血が繋がっている。大事にしたい」
とかなんとかうまく言えた筈なんです。
でも現実は違ったじゃないですか。アイの友達だったはずの新野冬子も、父親のカミキヒカルも、星野ルビーを受け入れようとはしなかった。

【推しの子】第14巻第132話ニノ

最初は無理でも、時間をかけて理解することは可能だった。でも拒絶の道を選んだ。のがカミキヒカルと新野冬子なんです。


星野アクアは優しい人間だが復讐者に"された"人間である。環境で人は育ち、人は変わる。彼は自らの持つ才能や自らのやり方を嫌悪し、自らが生きる理由を問い、自らの転生に否定的な考えを星野アイの死後持つことになった。

復讐から"カイホウ"され、瞳から星が消えていた時代の星野アクアより。
黒川あかねは使えると判断した場である今ガチの炎上とその治め方を、星野ルビーが真似したらうまくいった~みたいなこと言ってる回だ。

【推しの子】第10巻第93話リーク

星野アクアは「その先」を知っている。その先には何があるのだろうか。
カミキヒカルは対峙して星野アクアの性質を見抜いたか、はったりをきかせる。

【推しの子】第16巻第160話eye

それに対するアクアからのアンサーがこうだ。

確かに僕らは
自分の為に人の心を動かし
騙し従わせる醜い存在だ

星野アクア-【推しの子】第16巻160話eye

読者も周りの人もきっと、アクアのことを醜いなんて思っていないのにね。でもそれをアクアに伝えても本人の呪縛から解放されることはないと思われる。「醜い」と思っているからこそ、アクアは美しいダークヒーローだったのかもしれない。
ここでトロッコ問題をする。「自分の為に他人の心を動かす信頼できない存在を生かしておく(※ただし何らかの方法で妹殺しに来る)」or「愛を謳える存在を生かす為に信頼できない存在を殺す(※実妹で前世の事情を知っている)」。星野アクアなら後者の選択肢を取るだけの動機が山のようにある。
決して赤坂アカ先生は星野アクアが嫌いだったわけじゃあないんだ、でも確かに役割を託したんだと思う。どんな理由があっても人を利用したり、人を言葉でたぶらかして自らの益にしてはいけないという願いを。

そして海に沈んだ後の星野アクアのモノローグ。

一度死んだ俺が 生まれ変わりなんてズルを
神が許した理由
僕の生きた理由 それは
きっと復讐の為なんかじゃない

自分の妹を守る為だ

星野アクア-【推しの子】第16巻162話星野アクア

・【推しの子】という作品ではメディアとその観衆を批判する文脈が繰り返されてきた。
【推しの子】はリョースケから始まり、情報に扇動された人間達と被害者を描き続けてきた。炎上、ゴシップ……。
これは毎巻紹介すると引用の量がとんでもないことになるのでハイライトになる。
第1巻。星野アイ殺害事件後のネットの反応を見た星野ルビー。

有名税って何?お客様は神様みたいな事言ってさ
それはお前等の使うセリフじゃねーんだよ!
傷つけられる側が自分を納得させる為に使う言葉を
人を傷つける免罪符に使うな……!!!

星野ルビー【第1巻】第10話星野アイ

第2巻。有馬かなをまなざすネットの反応。

【推しの子】第16話演技力
【推しの子】第2巻第17話演出

これらはまとめブログというものの見た目をしている。概ね掲示板に書き込まれたことを転載してあたかも世論かのように錯覚させる性質を持つ。15年くらい前?アラサーの私が中高生の時に全盛期を迎えていたし、今も本質は変わらず形を変えて生きている。読むな。運営してる奴の金になっちゃうから。

第5巻。作品ファンによる脚本家への誹謗中傷問題。GOAの台詞より。

脚本家の地位って君等が思ってるよりずっと低いんだ
上の人がなんか言ったら簡単に首をすげ替えられる
こんなのはね よくある事なんだ
良いもの作ろうと真面目にやっても
原作者の趣味と少し違えば憎まれ嫌われ……
つまらなかったらファンから戦犯のように晒し上げられて
面白かったら全部原作の手柄

プロデューサーの趣味を捻じ込まれて
大手事務所には出演時間(でじろ)を増やせと圧を掛けられて
それでも作品として成立するように作らなくちゃいけない
リライティングってのは地獄の創作だよ

GOA-【推しの子】第5巻第45話伝言ゲーム

これはメディアミックスにおけるオタクの罪です。私にも心当たりがあります。表現の自由の名の基過剰な表現にならないようお互い気を付けていきましょう。

飛んで第9巻。オタクの悲鳴がオタク達を呼ぶ現象。

【推しの子】第9巻第90話コンプライアンス

ネットにハマった人はTVをオワコン扱いするのが通過儀礼がち。15年以上前から2025年の現在に至るまで全然変わってないです。


第10巻ではメイヤの持つ悪癖や、リークについて語られる。

【推しの子】第10巻第93話リーク

ファンによる攻撃は、ネットスラングで"ファンネル"と呼ばれる。元ネタはガン〇ムの武器名そのままにファンを合わせたもの。基本ファンネルは勝手に飛ぶものだが、"飛ばされた"という文脈での使われ方が多い。(相手を叩きたいから)。メイヤは意図的に「飛ばす」人間だったようだ。こういう人も居ます。ちなみにルビーがメイヤの性質を知る事は可能か?と問われると、可能と答えられる。男性オタクの事情は知らないが、女性オタクには何かしらコミュニティに関する情報交換の場が存在する。

近頃はそこかしこで暴露だの晒しだのってやってるけど
私はあんなのおかしいと思う
リークって上手く使えば世の中を良く出来るかもしれないけど
その殆どが個人攻撃の手段じゃん

星野ルビー【推しの子】第10巻第93話リーク
【推しの子】第10巻第93話リーク

ネットは私のガキの時代からも変わってないし、ガキの頃より派手にやる奴が増えた印象がある。

第10巻より。有馬かなをシマカンに推す先輩女優。(有馬かな曰くモラルの壊れた人)これなんか思ってると思うんだよね。実写ドラマ版でも印象に残ったな。

【推しの子】第99話飲み


カミキヒカルの厄介さは、単に"囁き"でしかないということかもしれない。ネットはスクショ・録画・魚拓など証拠が取れるけど、人のささやきには魚拓がとれない。メディア関係の仕事というアドを持ち、理解者面をし、芸能人に取り入る

【推しの子】第11巻

そして情報収集をする。ただ、人の生死に自分の言動が関わってることからおかしくなったように『15年の嘘』では描かれていたのと、星野アイが""命の重さ"というキーワードを出しているので、当時のカミキヒカルが相当限界で、彼なりのヘルプサインを漏らしていたことが察せる。

【推しの子】第15巻146話役柄

ここで上原清十郎が激昂して奥さんを殺さなければ、カミキの未来も変わったかもしれない。

【推しの子】第16巻フィクション

まぁそもそもアイもカミキもまだ10代で、間違いだらけで。星野アイはカミキのことを思うあまり、誰にもカミキのことを相談できなかった。

【推しの子】第16巻第161話未来

糸がありますね。この先には彼の操り人形になってしまった人たちがいるんでしょう。「人の命を奪わせる事で自らの欲を満たす」クレイジーだ。
彼にとって壊れた世界の後は、遊び場でしかなかったのかもしれない。他人を動かして奪った人の命の重さでしか、自分を認められない、そんな歪な感性だったのかもしれない。
このツリーの最上位にいるのがカミキヒカルだが、法で彼を裁くことは出来ないとされた。

【推しの子】第16巻より

作品全体及び赤坂アカ作品の持つ構造より
かぐや様は告らせたい・恋愛代行を読んで思ったのだが、【推しの子】含む3作の終着点は全て『個人の呪縛からの解放及び新たな門出』である。それは家庭環境や過去のトラウマ、人間関係や己の感情など多岐に渡る。なので【推しの子】最終話のルビーが晴れやかな「いってきます!」で終わるのは、ドーム公演という星野アイ・旧B小町及び斉藤夫妻の無念を晴らし、想い人への無念を抱えつつも前向きに捉え、新たに、「星野ルビー」の人生を彼女らしく歩んでいくという締め方がされていると個人的には考えている。
それでは「星野アクア」にとっての解放だが……アクアファンにとっては残念な形だが死の直前に自らが転生した理由を悟るという形で成し遂げられた。

「演じる事は僕にとっての復讐だから」

星野アクア-【推しの子】第1巻第9話星野アイ後編

確かに僕等は自分の為に人の心を動かし
騙し従わせる醜い存在だ

星野アクア-【推しの子】第15巻160話全肯定オタク

僕等、つまり自分をも醜いと思っていたアクアは、カミキにナイフの先を向けた後、自分の腹に刺した(=己を拒絶したとも取れる)。そうして殺人未遂を偽造し、カミキヒカルを巻き込み海へ投身。

メディアと世間は真実を求めない
なら騙しきってやるさ

星野アクア-【推しの子】第161話

そんな彼を見守るのはツクヨミである。満月が輝く海の上で見守るのは、星野兄妹を徹頭徹尾子供扱いし続けた存在。道案内しか出来ない何らかの上位存在。月と海は、女性や母の代名詞やメタファーとして使われることが多い表現だ。星野愛久愛海は、前世から抱えてきたであろう「何故己は生まれて来たのか」を理解しそこで眠りに就いた。

妹を守る為、は前世での生き方も重なっていると思うし、結果的に雨宮が死んでしまったことでリョースケと冬子の手は出産後の星野アイに届くことはなかったとも思える。

……と私個人は考えている。

ここから深堀りスタートです。

星野アクア:人物像について

星野ルビーがメイヤや危うい制作現場を持つ番組の炎上を利用した際に、星野アクアはこう咎めている。

【推しの子】第10巻第93話リーク

本来はアクアは復讐の為に何でも利用すると決断した彼だが、復讐から一度解放された後には、自らの行いに否定的な発言をしている。
が、
星野アクアはカミキヒカルを見つけてから度々言動がおかしくなっている。
まずこれはおかしくない例だが、いよいよ映画の製作が動き出す前に、星野アイの墓に向かって語りかけるアクアである。

アイ やっと始まるよ
君の本当の願いを 僕が叶えてみせる

星野アクア-【推しの子】第11巻110話それが始まり

星野アクアは雨宮吾郎の前世があるので、星野アイのことを他人に紹介する時以外はずっと「アイ」と呼んでいる。母さんやママと呼んだことが一度も無いので、東ブレ編にて魘されている際にアイと呼び、無意識化で黒川あかねに星野アイと星野アクアを結びつけることになった。

次に第12巻。ヒロイン達を通じて闇を見せる星野アクアである。
まず、不知火・ルビーと共に個人オーディションを終えたあかね(破局済み)が、アクアと再会するシーンにて。

あかね「アクアくんの企みは私が止める」
アクア「……あっそう」

【推しの子】第12巻116話責任
【推しの子】第12巻116話責任

有馬かなが自身の卒業ライブについて話したあとに、アクアの言動に動揺する有馬かなへの様子を見た時。

【推しの子】第12巻第117話パンダ

なかなか矛盾してるんだよな。でも人間って矛盾の塊だから。復讐は心を鬼にしないと出来ないと思うし、自分の力に溺れてるか、自嘲してるか。どちらともとれるよね。

【推しの子】第12巻118話始動

ここ、目が見えないというのがポイント。何を思っているのかわからない。

次に第13巻の締め、第14巻で星野アクアがいよいよカミキ役で撮影に参加する前の話での姿がこう。

【推しの子】第13巻第130話基本戦術

やり切ってみせる、には自分に言い聞かせてるように見えるし、口元には笑みを浮かべている。

そして兄妹キスが目立つ第15巻第143話全肯定オタクでは、アクアはこう言っている。

ごめんねさりなちゃん
俺はもう君の知ってる先生じゃないんだよ
昔みたいに能天気に目の前の事だけ精一杯やったり
馬鹿なこと言い合ったり
自分のしたい事だけするなんて
出来なくなった
いつも生きてる事に罪悪感を覚える様になった
もう上手く笑えなくなっちゃったんだよ

星野アクア-【推しの子】第15巻143話全肯定オタク

ルビー「別に笑いたい時には笑えばいいんだよ?」
アクア「無理だよ」

【推しの子】第15巻143話全肯定オタク
【推しの子】第15巻143話全肯定オタク

ここで思い返しているのは、上から
星野アイ=バーター記事事件。アイの愛である嘘を暴いたこと・これでルビーを傷付けたこと。
有馬かな=私なんか酷いことした?←多分これを謝れてないこと、言葉で動かして嘲ったこと
黒川あかね=復讐相手を見つけてくれることを期待してGPSをつけた。
姫川大輝=腹違いの兄でずっと父が悪いと思っていた姫川(※母の姓を使っている)に、母親の負の側面を伝え、世間に開示することになった。

復讐の場を沢山の人が見る作品にする為に、沢山の人を巻き込んできたということに、罪悪感を抱いていたのではないだろうか。第1巻で復讐を生きがいにしてみたものはいいものの、実際の道は良心の呵責があったのかもしれない。復讐の為として正当化し、人を動かし利用し続けてきた。少なくとも父親は法では裁けない、なら世論で、でも……。星野アクアが何を思い返しているかは知らずに、星野ルビーは前世からの感情が籠った言葉をかける。

私もせんせーが好き
勝手に全部抱え込んで
弱いくせに強がって
いつもちゃんと傷ついて しっかり苦しんで
でも
それでも前に進もうとする貴方の全てが 大好き
せんせーの苦しみも 弱さも優しさも
・・・・・・・・
せ ん せ ー の 全 て
 を肯定してあげる

星野ルビー【推しの子】第15巻全肯定オタク

雨宮吾郎が優しい子であるとは、前世の祖母から言われていたことだ。

産医になるのね!
お母さんの事があったから…
やっぱり貴方は優しい子ね……!

雨宮吾郎の祖母-【推しの子】第8巻75話母親と母親

少し話を戻すと、星野ルビーがとうとう前世の想い人の魂が兄に宿っていることを知り、胸中を吐き出す回は大変感動的だが、サブタイトルは"悪手"と不穏である。これは不親切な語り手であるツクヨミが言う台詞が由来。

でもそれは悪手だよ
分かってるだろうけど
これは君の甘さが招いた明確な失敗だ
結局君は復讐に向いている性格じゃないんだよ
ちょっとだけ同情してあげる
君からしたら 嫌われてた方が楽だった筈なのに

ツクヨミ-【推しの子】13巻123話悪手

これ長年何が悪手?誰にとって悪手?と考えていたのだが
君は復讐に向いている性格じゃない、ことから星野アクアにとっての悪手だったとすることが出来る。何故か?彼が優しい性格であることは、作中人物から何度も強調される。

星野アクア:
ごめん ずっと
黒川あかね:
うん 知ってたよ
やっと分かった 私の気持ちをやっと言語化出来そう
君は優しくて 全部しょい込もうとするから

【推しの子】第8巻第78話利用

(前世からの)心臓外科医の夢を語るアクアに対する有馬かなの反応。

良い!良い!向いてると思う!
きっとアンタなら多くの人の命を救って
多くの人の人生に希望を照らす
良いお医者さんになれるでしょうよ

有馬かな【推しの子】第15巻151話キャッチボール

有馬かなは、アクアと本人と限られた人しか知らないが、バーター記事事件でアイドルと女優声明、つまり"有馬かな"ブランドを救われることになったし、彼が黒川あかねの人生を救ったことも知っている。

次に、第150話、ハッピーエンドより、斉藤ミヤコ。
その前に興味深い台詞がある。カミキを追おうとするルビーに対して向けた台詞だ。「俺の復讐……いや お前の復讐はもう終わったんだ」
話を戻すと、帰ってきた二人を斉藤ミヤコがご飯を作りながら迎えてくれ、星野兄妹を抱き締める。

分からないけれど
分かってるわよ
そうやって気持ちを抑えつけて
自分を曲げて 傷つきながら
誰かの為に頑張ってきたのでしょう?
いつもみたいに ずっと
不器用で優しい 私の自慢の息子
誇らしいわぁ

斉藤ミヤコ-【推しの子】第16巻第150話ハッピーエンド

最後に死の直前に不親切な語り手であるツクヨミからの総評。

『君』は大人としての記憶を抱き
さりなちゃんとアイを救えなかった苦しみを背負って
誰かが苦しむのに耐えられず
つい自分の特にならない手助けをしてしまう様な
救いようもないお人好しだったじゃないか

ツクヨミ-【推しの子】第16巻第163話『君』

ここで一度切る。ここでは前世の雨宮吾郎と結びつけられた星野アクアに対する評価である。
次のページから始まるのは、星野アクアに対する評価だ。

世の中の理不尽と不条理に怒り 人並みに恋愛に興味があって
挫折に苦しみながら
ひたすらに努力する若者で 親譲りの嘘つきだけど
自分の妹や 周囲の人間を愛していた
そんな 18歳の子供だったよ

ツクヨミ-【推しの子】第16巻第163話『君』
ツクヨミ-【推しの子】第16巻第163話『君』

私はツクヨミのことをdisではないが「道案内しか出来ない神」「不親切な語り手」などそう捉えていて、ツクヨミは雨宮吾郎と天童寺さりなを愛しながらも、見ているだけしかできない。子供の身体が与えられたのも、非力さの表れだと思っている。じゃあ非力な子供の身体で何が出来る?というなら星野アクアと同じように「子供とは思えない気味の悪い喋り方をする」だったりする。
星野アクアの最期に会いに来て、彼女はアクアを抱き締めた。最後の最期で許された感情の発露である。ツクヨミが何故ゴローとさりなを愛していたかについては、第15巻の第145話子供たちで明かされている。
あと最終回にもいるから。ドーム公演を会場の外からカラスの姿で聞いてるよ。探してみて。

カミキヒカル:作中の構造より


『15年の嘘』の製作

15年の嘘のホンを読んだ不知火フリルの感想がこうだ。

アクアさんはこの作品でお父さんを殺そうとしてる
五反田監督とアクアさんは復讐の為にこの映画を作ろうとしてるんだね

不知火フリル-【推しの子】第12巻116話責任

そしてカミキヒカルもこう評した。

【推しの子】15巻第147話願い

だが実際は半分そうで、半分は違った。
試写会の後、カミキヒカルと星野アクアの対峙の場で明かされるのは、アイからのビデオレター。

大人になった君達へのお願い
彼が今も迷ってるなら
彼を救ってあげて欲しいんだ
私と一緒に

星野アイ-【推しの子】第154話15年の嘘

この映画は、あの時突き放してしまったアンタへの アイからの時を超えたラブレターだ
そしてアイを理解しなかったアンタへの
僕達からの復讐だ

星野アクア-【推しの子】第154話15年の嘘

こうして星野兄妹は復讐を終え、斉藤ミヤコの元へ帰った。

【推しの子】第157話で、興味深い演出が取られている。

【推しの子】第16巻第157話

ここで終わっておけば、【推しの子】はハッピーエンドの作品だ。
だがそうならなかった。

【推しの子】154話では、15年の嘘前半で行われたルビー成長物語の伏線が回収されはじめる。新野冬子の異質さである。

これらの死に直接関わった人物がもう一人いる
アイの失墜を誰よりも願い誰よりも憧れた信者
元「B小町」『ニノ』こと 新野冬子

星野アクア-【推しの子】第154話15年の嘘

第158話「宝石」でいよいよ新野冬子が動き出す。カミキヒカルが干渉したからであり、それを黒川あかねが予見して防刃ベストを着て自らの身を危険に晒しながら受け止めた。その後に何が起こってたかの結果を先出しすると、こうなった。

【推しの子】第16巻第164話

カミキヒカルを理解するには、新野冬子への理解へも不可欠だと個人的には考えている。

新野冬子-序章

ではこの新野冬子の作中での扱われ方なのだが、厳密な初登場はちょっとわからないのだが、爪痕を残す登場したのは第14巻第132話ニノ。有馬かなに怖がられて"愛憎の人"と表された後に、カミキヒカルとの繋がりが提示されて終わる。あとはカミキと冬子が話す回だと【推しの子】15巻第147話願い。終盤展開では、156話の終わりに異常性の一部が再度提示された後に、一度引っ張られる。157話はMEMちょと不知火フリルが主役の話になっている。サブタイは"MEMe"。ちなみにこれはミーム(meme)という言葉の綴りで、MEMの名前の由来が正式に明かされることになった。(ネットミームという言葉聞いたことあるよね?猫ミームとか)ここで何故取り上げるかというと、Youtuberという新しめの職業をしているMEMちょに週刊誌の記者がつけられている所から始まる話であり、作中でトップ女優として扱われる不知火フリルによる以下の台詞が要点だからだ。

週刊誌に所属してるライターが
ネットで集めたシロート使って人海戦術でタレント追ってるみたいな?
ああいう人はプロ意識ないから余裕で私有地入って来るし
平然と裏取りしてない情報ネットに流したりするし迷惑なんだけどね
通報しても警察は動いてくれないし
法律も私達を守ってくれない
ますますタレントの私生活と平穏が守られない世の中になってきたねぇ

不知火フリル-【推しの子】第156話MEMe

"ネットで集めたシロート"っていうのは、恐らく8割ほどが金目的で、残りの2割でゴシップが好きなやつ・ストーカーレベルに対象に執着している人間の可能性も、無くはないと思う。それでは何故ここで金目当てで追われることになるMEMちょを出したか、と言う話だが、ネットで集めたシロートと新野冬子の動機が正反対だからだ。新野冬子の動機は、信仰。星野アイ、何より"カミキヒカル"の信者である。

もう貴方も私も――
ふざけないでよ
もう戻る事は出来ないのに
良介を死なせたあの時から
私はもう……

新野冬子【推しの子】第16巻第158話宝石

信仰の動機は以下になると思われる。

・自分の人生を狂わせた星野アイに責任を負わせたい=自分のやったことを受け止めきれない、"言霊"の呪いという心情的罰が彼女を縛っていた

そんなアイがもし何者でもないただの女の子だったら
私達ってなんだったの?ってなるじゃないですか
私はただアイに特別であって欲しいだけなんです

【推しの子】第16巻第159話共振
【推しの子】第14巻第132話ニノより
【推しの子】第16巻第159話共振

少なくとも、カミキヒカルだが、彼氏に友人だった子を殺された上に彼氏も自分の言った通り死んでしまって、取り返しのつかない出来事の目前で泣いてる女性の前で、こんな顔してるの、普通じゃないと私は思う。

【推しの子】第16巻

弱って絶望している冬子に対して、カミキヒカルは何を吹き込んだのかはわからない。一種の信仰という『正当化出来る理由』を抱かせた(のかもと思う)。彼女の行動力は狂信者のそれだ。片寄ゆらを殺す為にわざわざ命がけの登山をしているのだから。熱心な信仰者が傍にいない人には信仰、特にカルト信仰の信者及びその上に立つカリスマ及び取り巻き達がいかに厄介かピンと来ないだろう。"頭のわるい人がハマるもの"。"自分とは違う。""自分はハマらない。"他人事……。
だから、信仰がどれほど人の背中を押し、時には心をきつく縛るかわからないだろう。そういう人は以下の私の実体験を読んで検討してみてほしい。けど、長くなったわ~ごめん。これの下で端的に表すので読まなくていいです。

ざっくりいうと、長年信仰で作った人生を自ら否定するのは、お前らの想像よりもずっと難しい、です。少なくとも新野冬子は、雨宮・アイ・良介・片寄という、人の生死の瞬間に関わってしまったのだから。カミキは法律的にはセーフなんだけど、新野は星野ルビー(黒川あかね)殺害未遂でアウトです。文字通り(人の)生命がけで新野冬子は自分を正当化しようとしてきてしまったのだった。でも彼女の中では完璧な星野アイというアイドル像を守るためにやってきた、という事になっている。だから星野アイを超える星野ルビーの存在を拒絶する為に、ナイフで刺しに行ったのだ。そして斉藤壱護との対話や、カミキヒカルが星野アクアと死んだことにより信仰の呪縛から解かれ、彼女は自らの罪を償い始めた。

新野冬子について-with有馬かな

新野冬子役を15年の嘘で演じることになる有馬かなに、実はある共通点がある。一つは近くに星野ルビーという眩しい存在が居ること(売り出し中のアイドルなのにいきなり主演に抜擢されてるし)そして死ねと口に出しちゃうところである。(※キャラネガではない)
序盤でルビーに自分の演技(※プライド持ってやってる仕事)をdisられた時はこう。

アンタの妹そんな事言ってたの!?
死ねよあいつ!

有馬かな-【推しの子】第2巻

黒川あかねと星野アクアのカップリングが成立した時。

あーあ…
マジさいあく
死んじゃえばーか……

有馬かな-【推しの子】第3巻第30話

死ねとは言ってないけど消えてとは言ったことがある。母を理解したい、いい演技がしたいと泣く星野ルビーの為に。いい演技がしたいという気持ちだけは身が引き裂かれそうな位よくわかったからだ。彼女の人生がかかった重いものだ。

私がアンタの為にしてあげられる事が
一つだけある

有馬かな-【推しの子】第14巻第133話芝居
【推しの子】第14巻第133話芝居

友情が崩壊しても、役者として渡したかったバトンが有馬かなにはあった。

ルビー
悪いけど仲間だなんて思ってるのはアンタだけよ?
私がアイドル辞めるって決めたのは アンタが居るからなのよ?
アイドルとしての有馬かなは
星野ルビーをどうやったって超えられない
(中略)
結局私達って「B小町」のオマケでしょ?
星野ルビーの引き立て役でしょ?
妬みや嫉妬なんてない そんなワケがないでしょ?
~以下モノローグ~
ほら それがアンタの母親が抱いてた感情
本物の妬みと嫉妬 失望と孤独
理解したいんでしょ母親を 良い演技がしたいんでしょ?
その気持ち誰よりもわかる だから
墓まで持っていこうと思ってた
アンタへの悔しい程みっともない嫉妬の気持ち
全部隠さず見せてあげる

有馬かな-【推しの子】第14巻第133話芝居
【推しの子】第14巻第133話芝居

有馬かなはこの行動で自らも傷つき、葛藤を抱き、ニノの精神を理解することが出来た。そうしてそれは、二人の演技に生かされることになる。

【推しの子】第14巻第136話喧嘩

上に、当時まだ少女だったニノが当時置かれていた苦しい状況を読者が理解することが出来る二重構造になっている。このニノの死ねと言っちゃう癖は、リョースケにも止めを刺すものになってしまった。

リョースケは自らが刺したアイドル:アイからの歩み寄りを受けて、動揺して逃亡する。自分の中でこねくり回し想像していたアイ像と違い、自分は取り返しのつかないことをしたと思ったのだろう。そこに恋人の冬子からの「死んでよ」という強い拒絶で、彼は死を選んでしまった。冬子はアイとリョースケにどんな会話があったのかを知り、でも受け入れることが出来なくて、恐怖で「死んでよ」としか言えなかったのだろう。不器用な人だと思う。その不器用さで星野アイも、リョースケも亡くしてしまった。そこに付け入ったのが、カミキヒカルである。

"命の重さ"がキーワードになるんだが
うまく言語化できない(何らかのトラウマにはなってる)

【推しの子】第11巻第109話夜

僕の命とか言ってるけど手汚したのは実は新野冬子だったと考えると大変セコい奴だし、これはミスリードである。新野冬子に対して『僕が背負った数々の命と共にね』と言う台詞があるのだが、これも普通の感覚では新野冬子が受け入れてるのがおかしいんだよな。

星野アクアが作ったカミキヒカルの造形

カミキヒカルの人物像を星野アクアがどう捉えたか、五反田と黒川あかねが評したセリフがある。
五反田監督

星野ルビー『ごめんね』
五反田(ここだ)
ルビー『私は君を愛せない』
五反田(このセリフ これはアクアが渡されたDVDの中でアイが実際に発したセリフらしい。それをアクアはアイがカミキヒカルの本質を見抜き 決別の言葉として脚本に起こした それをルビーは兄と同じく決別の言葉として解釈し演じた
だけどそれは…)

第13巻128話本読み

黒川あかね

きっと最初からアクアくんはある程度の答えまで辿り着いていた
自分の父親が誰なのか具体的な特徴や名前は分からないけれど
その人間性や本質を既に知っていた
だからこそ 上原清十郎が自分の父だという話をすんなり信じた

【推しの子】14巻131話贖罪

でもここラスト一行、個人的にちょっと引っかかるんだよな。黒川あかねの評。何故かというと、黒川あかねは星野兄妹が前世持ちって情報を持っていないから。
・犯人は死ねば影響力は亡くなると見抜いていた
・星野アクアは心底では復讐からの解放を望んでいた
両方ありえるから、後者の説の方が取りやすい。何故ならアクアは復讐からの解放で瞳の星が消え(第7巻第68話カイホウ)、斉藤壱護の情報で復讐の道へ引き戻された時に相当苦しんでいた。

【推しの子】第95話盲目
【推しの子】第95話盲目

だから根が優しい彼は、本当は、自分が組み立ててしまった復讐の方法をやりたくなかったんじゃないかな?と思う。

あのストーカーと俺を殺した男は同一人物だ
何故アイが入院した病院を突き止められた?
何故引っ越したばかりの新居に来た?
犯人の男は何のスキルも無い学生だった
そんな探偵みたいな事が出来たとは到底思えない
それも アイの相当近い所に
(中略)
僕等の父親
(中略)
俺達の父親は芸能界に居る
アイをあんな目に逢わせた奴が 芸能界に居る
(中略)
俺はまだ死んでられない
必ず見つけ出して
俺の手で殺すまでは

星野アクア-【推しの子】第1巻第10話

でもやらざるを得なくなった。
実際のカミキヒカルは初登場のインパクト(演出協力:新野冬子)、言葉の力を巧みに利用して、読者からの過小評価を得ることが出来た。かつての恋人の子供から母親を奪い、娘のこと、しかも星野アクアにとって前世からの大事な人を2回も手にかけようとしてるのに。

星野アクア:雨宮吾郎

産科危機的出血とは、血液が2.5リットル以上妊婦の身体から流れ出た時に出る宣言である。

血の海から生まれし者、雨宮吾郎。そんな彼は、研修医時代、天童寺さりなと出会う。雨宮吾郎にとっての天童寺さりなを深く理解する為には
【小説版】一番星のスピカを読めばわかる。としか言えない。
漫画では有馬かなへのエスコート凄すぎワロタ(※前世でやってた)という形で描かれているが小説版ではこんな感じ。(読んでない人もわかりやすく、かつ損なわない範囲で情報を出す)
・さりなと出会うまではアイドルを推してなかった
・さりなとの出会いから別れまでの心情が克明に描かれている
・ゴローの女遊びについての情報がある

ゴローは一時期、このあたりで飲み歩いていたこともある。東京の医大を出た後、研修で宮崎に帰ってきたばかりの頃だ。彼女は、そのときに親密になった女性のひとりだったかもしれない。心当たりが多くて、断定はできないが。
「まあ、ゴローちゃんが忙しいのもしょうがないか。なんたってお医者さんのタマゴだもんね。女の子たちが放っておかないだろうし」
「別にそういうんじゃない」
そういえばここ最近、女性との遊びはご無沙汰だった気がする。

【推しの子】一番星のスピカ-田中創

そんな雨宮吾郎を基に星野アクアとして人生、彼の仮面(ペルソナ)は成長していき、人格の分裂を起こした。そして星野アイの死・罪悪感というトリガーで、雨宮吾郎は星野アクアにとっての足枷となる。

【推しの子】第5巻第50話感情演技 

カミキヒカルとの対峙をする前に、雨宮吾郎は星野アクアの中から成仏する。第15巻第150話、ナイフで起こることだ。

【推しの子】第15巻第150話 ナイフ
 

これは星野アイに向けられたナイフだと思われる上に、母親と血=産科危機的出血の中、父親が分からない状態で産まれ落ちた雨宮吾郎の前世を私は連想する。

……俺は全部を失くしたと思っていた
俺が愛した人間は皆この手から零れ
それが悲しくて悔しくて
復讐に生きる意味を見出していた

だけど さりなちゃんは生きている
ルビーとして夢だったアイドルになった

雨宮吾郎-【推しの子】第15巻第150話 ナイフ

さりなが転生して生きていることが確定したことを持って、報われた雨宮吾郎は星野アクアへの干渉や縛りを放棄することを宣言する。

お前はもう雨宮吾郎の役を降りて良い
もう演じなくて良い
人を愛しても良い

雨宮吾郎-【推しの子】第15巻第150話 ナイフ
【推しの子】第15巻第150話 ナイフ

この場面は雨宮吾郎にとっての星野アイ、及び推し活の動機が鍵になるのだが、それを書いているのが「小説版:一番星のスピカ」なので、読んでください。

赤坂アカ作品の構造より行う推測

赤坂アカ3作品の終着点は先程書いた通り、全て『個人の呪縛からの解放及び新たな門出』で終わる。ちなみににもう一つ特徴がある。時事ネタを、面白く扱える。『恋愛代行』がとくにわかりやすい。代行業者が流行ってたからね。宿題代行に退職代行。かぐや様もそう。【推しの子】の観衆の描かれ方もそうだと思う。

【推しの子】というストーリーは、星野ルビーの新たな門出で決着する。
ここで【推しの子】が、天童寺さりなだけで始まってたらどうなってたかを考えると、【推しの子】のストーリーが成り立たなくなってしまうレベルで一気に破綻する。生まれ変わってもカミキヒカルによって星野アイを失い、想い人も行方不明。見つけられないまま、消化不良で、斉藤ミヤコも面倒を見てくれたかはわからない。(星野アイの干渉による)世間知らずで元気のいい身体を得たさりなはどう生きようとするだろうか?そんなさりなのストッパーになっていたのが、星野アクアであった。ちなみに"さりな"はアクアのことをシスコン呼ばわりしていたので、相当干渉していたのだと思われる。四文字でわかる干渉っぷり。

【推しの子】第二巻第14話

15年の嘘編では、星野アイの死が訪れるまで大して興味がなかったと取れる情報が明かされる。推しの子供として生まれ変われたもんな。

【推しの子】第15巻145話子供達

【推しの子】は、星野アクアがアイドル:星野ルビーを大切にしてくれる人々を導いてくる形で話が進む。五反田、鏑木、有馬、フリル、黒川、MEM、メルト……姫川など。星野アクアだけ転生して生きる意味を「復讐」だけに見出していたのなら、それはかなり陰惨なものになるし、【推しの子】という作品の雰囲気は大きく違っていた。陰惨なものにならなかったのは、雨宮吾郎の持つ優しさとこれ以上の目の前の誰かを失いたくないという願い、そして、星野ルビーという守護対象(天童寺さりな)が居たからだ。
それに、"さりな"が星野ルビーとして最終話で羽ばたいていけたのも、星野アクア/雨宮吾郎が居て、芸能界の闇を自ら先陣を切って進んだおかげだし、時にはさりな時代の親からの呪縛を乗り越える鍵となったからだ。

【推しの子】デジタルコンテンツギャラリーより

 【推しの子】最後、星野ルビーが想い人の魂が宿る兄を失っても何故立ち直れたか?を描かなかったことに疑問を抱く人々は多いが、私からすれば、前世では叶わなかった元気な身体に恵まれた人間関係、叶った夢、待っているファンがいる……これだけで十分説明は事足りる。最終話近辺は読者の想像にお任せします、という表現技法がとられているので頑張って想像しろ、思い出せ、星野アクアと彼らの関係を……って思う。閑話休題。

では、そんな奇跡の星野ルビーに纏わりつく理不尽は何かというと、父親、カミキヒカルである。【推しの子】全体の特徴として、主要登場人物の家族関係が結構悪い人が多い。黒川あかねや鳴嶋メルト、不知火フリル等以外は基本何らかの特徴を持つ。大きく目立つのは姫川大輝だが。MEMちょが年齢詐称するきっかけになったのも、母子家庭が出発点になっている。星野アイも母親が不器用な人で、そのしわ寄せを受けた形になったことが15年の嘘制作中に明かされる。【推しの子】は"親により齎された呪縛からの解放"もテーマの一つに間違いなくある。カミキヒカルは星野アイが子を宿した時点で壊れてしまった。星野兄妹の生まれ変わりの代償と言うべきか、実の父親が母親に執着している為に、娘が殺されるという運命が待っているようになっている。カミキヒカルが存在している時点で。父親殺しは古より繰り返されてきたテーマである上に、星野アクア/雨宮吾郎は父親の存在を強く憎んでいたと考える。雨宮吾郎の母親は産科危機的出血で死に、父親が不明。雨宮吾郎にとって大切な推しであり、星野アクアにとっての母親である星野アイはファンに刺されて、その情報は父親がもたらしたものだと推理した。
それでは雨宮吾郎の父親が不明な理由を考えると、父親に当たる男性に"性交渉"や女性の妊娠への理解が無かったからだと思われる。

過去作~かぐや様は告らせたいより~

ここで突然かぐや様のネタバレを放って御免なのだが、かぐや様は恋愛に関するあらゆる事象をネタにしており、その中の一つに性交渉も存在する。私が読んだ感想としては、教科書に出来るかもしれないと言えるレベルでド健全なものだった。あるあるギャグ・うら若き男女の勢い(という名のエモ)を含みながら倫理観や日本における価値観に基づき非常に慎重に描かれていると読んでいて感じた。

【推しの子】へ戻る


それが反転した世界が【推しの子】である。つまり現実、性交渉に慎重さが無い上に消費されるものとして描かれた。(芸能界は常に性の消費が行われている)カミキヒカルだって星野アイの妊娠で酷く動揺したし、結婚を軽率に提案していた。女性にとっての妊娠結婚ってそんな簡単なものじゃないのよ。そもそも星野アイはアイドルだしな。カミキヒカルのつぶれそうな様子を見て、星野アイは自らの少ない人生経験(15か16年)に基づき、カミキヒカルを突き放す嘘を吐くことを選択した。けれどそれにより、カミキは壊れてしまった。突き放した後も星野アイは彼女なりにカミキに接触していたのであろう。病院の場所は知っていてリョースケとニノを向かわせたから雨宮吾郎は死んだし、それを知らなかった星野アイは新居の住所を教えてしまった。星野アイは、カミキヒカルと再びわかり合い、生きる道を用意して待っていたように思われる。でもその想いさえ届かないほど、カミキヒカルは妄執に囚われ、新野冬子やあらゆる人々と共に独自の価値観に基づき人を殺め続けてきた。

でも、そのカミキヒカルの妄執があったからこそ雨宮吾郎は死ねて星野愛久愛海に転生出来たとも言える。別作者で恐縮なのだが、メイドインアビス(作:つくしあきひと)という冒険ファンタジー漫画にボンドルドというキャラがおり、有名な台詞の一部にこのようなものがある。ネタバレになるのですべては引用できないが、参考にしたい一文を引用したい。

溢れんばかりの呪いと祝福を

ボンドルド-【劇場版】メイドインアビス深き魂の黎明

星野アイ、カミキヒカルはルッキズムの祝福と呪いを受けてきた。カミキヒカルは11歳には性的虐待を受けるようになり、星野アイも本人が知らない所で母親が突き放さなければ、義父の歯牙にかかっていたかもしれないと想像できる台詞がある。星野アイの実母の台詞だ。

当時つき合ってて結婚も考えていた男がね
アイに色目を使い始めたのよ
当時あの子は8とか9とかよ?
あの子はその頃にはもう女性らしく育ってて
恐ろしい位 美人に育った
毎日気が気じゃなかったわ 男に怒る気持ちも 娘に嫉妬する気持ちも抱えて

星野あゆみ-【推しの子】第15巻第131話贖罪

これ星野アイも家から出さなければカミキヒカルと同じように義父からの性的虐待を受けることになった可能性も普通にあり得るんだよな。母子家庭、子供を抱えて労働していれば、結婚したいと思う気持ちも何ら不思議ではない。しかも彼女は情緒が不安定で星野アイに心の傷を残したことがある。しかも思い人は星野アイに下心を抱いてしまった。その男を拒絶出来なかった結果、娘を突き放すという選択をしてしまった不器用な母親の愛情と呪いが、斉藤壱護との出会いに繋がるのであった。彼は星野アイを実の娘のように可愛がっていた。だからアイを殺した父親を殺す為にミヤコを残して失踪してしまう位、強い殺意を抱いてしまった。

アクアにとってのトリプルヒロイン

これからヒロインに関する持論を展開するから、カプ厨、怒るな。お前の愛するカプを誇っていけ。私誰かの大切なカプを否定する為にこのnote書いてるわけじゃないから。あくまで【推しの子】ファンとして書きたいのだ。

この作品、男によって女が泣くシーンが多い。(逆がないわけではない。アクアも泣いてるぜ!どこかわかるかな?)有馬かなは泣きながら星野アクアへの恋を諦めきれないし、黒川あかねは星野アクアの復讐を止められなかったことで泣く。星野ルビーは恩師の魂との再会で大泣きする。斉藤ミヤコが何も言わず行方知れずになった壱護に「私はまだあきらめてないのに」と泣きながら訴える場面もある。

【推しの子】ではトリプルヒロインの恋愛模様が非常に面白かったね。
・有馬かな→星野アクア
幼少期からの初恋の相手。諦められない。ギリ幼馴染枠に入れられる。
萌えで見ると、ツンデレ属性が基になっている。
アニメ入れて恐縮なのだが

これ歌詞有馬→アクアへの心情だろ。月は女性を表すことが多いんだよな。
・黒川あかね→星野アクア
生命の恩人。救いたい人。
萌えで見ると、ヤンデレ属性が基になっている。
・星野ルビー/さりな→星野アクア
すげえ過干渉な兄→前世からの想い人!?
妹萌え。

じゃあ星野アクアにとってのヒロイン達はどうだったのか?という争いの火種になりかねない話をします!怒るな!ただの個人の偏見や!お前の推しカプを誇れ!二次創作で殴っていけ!オールを他人に任せるな!自分で持って漕げ!(※宙船

・有馬かな
星野アクアにとっての初恋の人。
・黒川あかね
対等な異性の友人として大切にしたい。
・星野ルビー
大切な妹として愛している。

愛しているという言葉=優劣をつけたいわけじゃない。私は、ここで誰かの愛したものに対して優劣をつけたいわけじゃない。
失うかもしれないくらいなら、命を投げ打ちたくなるほど相当大切に想っているから"愛している"ということだ。執着とも言えるかもしれないが。有馬かなは同年代の異性としての愛を、あかねには対等な友人になりたかったという愛を彼は抱いていた。星野アクアは有馬かなの情緒をめちゃくちゃに振り回したし、黒川あかねは"使える”から始まった関係だった。だから下心のない関係を築きたかったし、贖罪もしたかったのかもしれない。
ルビーは一緒に生まれ変わった同担だったけど、「もし、彼女がさりなちゃんだったら」という小さな希望を抱きながら長年接して世話を焼いたことが明かされている。

さいごに

私の【推しの子】の推し台詞発表します。

【推しの子】第15巻第142話責任
【推しの子】第15巻第142話責任

これ【推しの子】にもあてはまるんですよね。
赤坂アカ先生も、星野アクアのファンを傷付けるものだと理解って、これを描いていたのではないかと思う。めちゃくちゃグッズ出たよな~。世は大推し活時代。殺したら現実の皆がどうなるか分かった上で、自分のしたかった表現を貫いたんじゃないかと、過剰に賞賛しちゃおっかな。

実際【推しの子】って生々しい暴露本みたいなところがあって、どこまでが本当かはわからないけどアイドルやキャスターのリーク合戦とか色々あったんだよねとかさらっと書いてある。ファクトチェック引っかかったらアウトだよな。でまぁ実際、現実にて、星野アクアの死とは別の話で実在する誰かが傷付いて泣いてしまったこともあったんだよ。それでも責任を持って描き続けると吉祥寺の口から発表した先生を、私は応援したい。
無責任にネットで他人を扇動して金を儲ける奴より、覚悟が出来る表現者の方がずっとかっこいいと思う。

また別作品(な上に出版社が別)で恐縮なのだが、諌山創の進撃の巨人より、とあるキャラの好きな台詞を紹介して贈りたいと思う。

心も体も蝕まれ 徹底的に自由は奪われ
自分自身をも失う…
こんなことになるなんて知っていれば
誰も戦場になんか行かないだろう
でも……皆「何か」に背中を押されて
地獄に足を突っ込むんだ
大抵その「何か」は自分の意志じゃない
他人や環境に強制されて仕方なくだ

ただし
自分で自分の背中を押した奴の見る地獄は別だ
その地獄の先にある何かを見ている
それは希望かもしれないし
さらなる地獄かもしれない


それはわからない
進み続けた者にしか…わからない

進撃の巨人第24巻-諌山創


私は赤坂アカ先生の次回作も、楽しみにしている。横槍メンゴ先生もね。
【推しの子】ほんとによかったな。