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釜揚げ師走【毎週ショートショートnote】

「しわす。しわす。」

 師走。

 私の育休期間も終わろうとしている。
 年明けからは亮太を保育園に預け、再び、朝から苛立ちを満載した電車の中に立たねばならない。

 しかし、2年間の育休がもらえたことは有り難いことだった。
 亮太は予定よりも早く生まれて、心配も苦労も多かった。

 最初から、食が細いのが心配だった。
 でも最近、そこに救世主が現れた。亮太はシラスごはんをよく食べる。シラスは栄養分も優秀だ。シラス万歳。

「しわす、すき。」
「シラスね。『ら』。」
「わ。」
「ふふふ。ママもシラス好き。」

 そのままでは塩分が強いので、亮太に食べさせるシラスは釜揚げのようにして、もう一度湯を通す。
 シラスごはんができると、亮太は自分で子供用の小さな椅子に座った。そこに、小さなテーブルを取り付けてやる。椅子も、机も、どちらもそろそろ小さくなってきた。
 昼だ。二人で一緒にシラスごはんを食べる。

 師走の太陽は、低い角度から陽だまりを投げかける。
 釜揚げしわすは、幸せの味がした。



(本文427字)

 表ッ!


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