ストリング理論に対する批判のまとめ

はじめに

重力と他の力を統一する「万物の理論」の最右翼といわれ続けて数十年のストリング理論(スーパーストリング理論、超弦理論、弦理論、超ひも理論、ひも理論とも呼ばれる場合もあり)ですが、決定的な成果を上げることなく、批判も大分前から出ています。有名どころとしては、ピーター・ウォイト, リー・スモーリン, サビーネ・ホッセンフェルダー等が、批判的立場の本を出しています。

Youtubeの科学解説系の動画でも、批判的見地からの解説や、批判者と擁護者の討論などが多数あります。しかしながら、日本語の動画に限ると、ストリング理論を持ち上げる動画ばかりで、批判的な解説は皆無といっていい状態です。なぜこうも偏りがあるのだろうかと思います。少なくとも一般人への啓蒙の場においては、バランスが悪いと感じます。

バランスが悪くなっている原因はともかくとして、ここでは、批判的な立場でストリング理論について述べている文献、動画へのポインタをまとめるとともに、批判の内容について簡単に紹介しておきたいと思います。なお、筆者は専門家でも何でもありませんので、ここで紹介する文献、動画の内容の真偽については判断できません。

ロジャー・ペンローズ

まずは、要点が明確なショート動画から。
誰もが知ってる天才、ロジャー・ペンローズ:
「予言できる理論なら、それが正しいか否か議論できる。それが物理学というものだ」、「ストリング理論は数学界にインパクトを与えたようだが、これは物理学ではない」

サビーネ・ホッセンフェルダー

そして、「数学に魅せられて、科学を見失う」の著者であるホッセンフェルダー。物理学者であり、 Youtuberでもあります。以下の動画は、ストリング理論の経緯と現状を彼女自身がまとめた動画です。

ちょっと長くなりますが、この動画の一部を引用します。「ストリング理論には、あまり評価されていない長所が1つあります。それは、ストリング理論は数学面が非常に豊かだということです。発見できることがたくさんありました。全く未知の分野であり、研究して理解し、論文にすべきことがたくさんありました。少し奇妙に聞こえるかもしれませんが、これが、ストリング理論コミュニティがこんなに大きくなった理由なのです。単に数学面が非常に豊かだったからなのです。しかし、これら論文は『万物の理論』を見つける役には立ちませんでした。あまりにも多すぎるストリング理論のバージョンは、今や10の500乗にも上りました。彼らはその中から標準理論と一般相対論を再構成するものを見つけられなかったので、これらすべてのバージョンが存在すると仮定しました。いわゆるストリング理論のランドスケープです。これは非常に馬鹿げた行為だと私は常々思っています。どの理論が現実かわからないからといって全部が現実になるわけではないからです。いずれにせよ、それでも問題は解決しませんでした。というのも、彼らは自分たちが探していた理論を実際のところ見つけられなかったからです。」、「超対称性、余剰次元、グラビトン等々の証拠のかけらもLHCで見つけられなかった結果、ストリング理論のうち、”万物の理論を見つける”という当初の目論見の最後の生き残りのブランチが、基本的に死にました。」

ピーター・ウォイト

そして、ピーター・ウォイトのインタビュー動画です。彼の著書「ストリング理論は科学か」の原題は"Not even wrong(間違ってすらいない)"です。ストリング理論は正しいか否か実験で検証できないことを揶揄した題名です。

同様に引用します。「ストリング理論というと、数学的にエレガントで、明確に定義された、独特の理論であると人は言います。しかし、これは完全な理論ではなく、理論の極限的な摂動(近似)にすぎません。本当に必要な回答を得るには摂動のない一般化されたストリング理論が必要です。それをM理論だという人もいます。しかし、M理論が何なのかは誰にもわかりません。M理論の特徴のリストを作ることはできても、M理論自体を提示することはできません。」、「ある理論があって、ほぼ全てがその理論の解になってしまい、結果何も予言できなければ、普通は『OK、これは駄目なアイデアだ』として他を当たります。しかし、『ああそう、ということは、これらの解はすべて現実のマルチバースに存在するんだ、それで人間原理によって我々はマルチバースのうち偶々この宇宙にいるんだ』となっています。なんでそうなるんでしょうか。」、「M理論の方程式を誰も持っていません、持っているものは、10の500乗個のおもちゃだけです。これらは、ストリング理論の解の近似かもしれないもののごった煮です。こういうのが大量にあること自体よりも更に問題なのは、これらを機械学習技術に適用しようとしていることです。入力するデータはごみです。問題が何なのかわかっていないのに、コンピュータに入力するデータを作っても、それはごみだとわかっています。処理の結果、より多くのごみを生産するだけなのに、それについて助成金をもらって、我々は宇宙を探求していると触れ回る。これが事実です。全くナンセンスです。」

その他

最後にちょっと毛色の変わった動画も紹介したいと思います。「ストリング理論専門家が真の科学者と論争する」というタイトルの動画です。日本の武道のデモンストレーションで(追記:大槻ケンヂが解説している?)、年配の武道家らしき人が謎の無双状態になっていて、次にその武道家が誰かと戦って怪我します。この動画がストリング理論と何の関係があるのか、筆者にはわかりません。



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