映画「シンプルな情熱」について語ります(富澤えいち)
2021年7月2日から公開の映画「シンプルな情熱」試写を観たので、その感想と思い付いたことなどを動画で撮りました。それをテキスト化したものを掲載しておきます。
この映画は、フランス現代文学の作家であるアニー・エルノーの原作で、待望の映画化ということになります。
大学で文学を教える主人公と、モスクワからパリに来た年下の既婚者との恋愛を描いています。
年下の色男は、ロシア高官役のセルゲイ・ポルーニン。
セルゲイ・ポルーニンは、かなり有名なバレエダンサーですね。
彼のためのプロモーション・ヴィデオのような映画であったと、ボクとしては最初はそういうふうに受け取っていました。
映画の中で主人公は、「彼は私と世界を結びつけてくれた」と言っていて、これがキーワードとなっているようです。
しかし彼は、姿を現さなくなってしまうのでした。
その結果彼女は、自分に逢いに来てくれない彼の姿を求めて、パリからモスクワへ向かい、彼と同じ空気を吸う──という行動に出たりします。
まあ、ほとんどストーカーのような行為なんですけれど。
ボクの頭のなかでこれは、能で演じられる鬼女のような役割になっていたのではないかと感じていました。
フランス文学のなかにはこのような、幽玄の世界をモチーフにしたような作品があるので、ここでもそういうものを意識していたのではないかと感じたわけです。
監督のダニエル・アービッドは、1997年レバノン・ベイルート生まれ。1987年のレバノン内戦のころに17歳でパリへ来ています。
また、この映画の原作となっている「シンプルな情熱」は、1992年に発売されて、自己の性愛体験を語ったものとして、大反響を呼び、ベストセラーとなっています。
著者のアニー・エルノーは、1940年フランス北部ノルマンディー地方イルボンヌ生まれ。かなりフランスの北のほうの都市のようです。
1974年に作家としてデビューして、その著書のほとんどが自伝的小説だと言われています。
ノーベル文学賞の候補でもあります。
この『シンプルな情熱』でも、自己の性愛体験を語っているとされています。
余談なんですけれども、この「シンプルな情熱」という映画を見ていて、なにかに似てるなと思ったんですが、それで思い出したものがありました。
この原作の出版は1991年ですけども、思い出したというのが渡辺淳一『愛の流刑地』で、こちらの初出はは2004年11月から2006年1月まで日本経済新聞の朝刊に連載されていたもの。
かなり類似点があるように感じました。
ただし、『愛の流刑地』のほうは、愛するあまり相手を殺してしまうというような内容で、より過激になっていて、そのへんの作風が韓流ドラマにも共通するではないかと推察したりしているのですが、果たしてどうでしょうか。
では、この「シンプルな情熱」というのはどう観ればいいのかを考えてみました。
内容的に僕が感じたのは、「自分探しのバリエーションである」というものでした。
自分探しのバリエーションではあるのですけれども、就活=リクルート的なアプローチのなかで考える「自分探し」ではない、と。
ではなにかというと、むしろ終活=End of Life Plansのほうの要素が強いように感じました。
人生がむなしいままで終わってしまっていいのだろうかと悩んだ結果、なにかを求めて自分探しをしていくというような、自分にとっての快楽=存在意義みたいなものを探していくという内容ですね。
このように言葉化すると、哲学的な内容の映画なのかなという気がしてきます。
まぁ、哲学的だとこじつけないと、ただのラブロマンス的な不倫映画で終わってしまうのですけれども。
そこにひとつ、哲学的な要素をかませているところが、現代文学の映画化たるゆえんなのではないでしょうか。
結論ですが、この映画「シンプルな情熱」というのは、“生き甲斐”でタブー視されがちな“色欲”に真正面から取り組んだ映画ではないか、としてみました。
7月2日から各映画館で公開されていて、インフォメーションのリンクを貼っておきますので、興味がある方はご覧になってください。
【7/2(金)公開】映画『シンプルな情熱』本編映像
7・2公開『シンプルな情熱』特別予告編 セルゲイ・ポルーニンバージョン
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