【第36号】映画『どうすればよかったか』(2025/1/16)
統合失調症schizophreniaと家族の映画『どうすればよかったか?』を見てきました。(ネタバレも含みます)
統合失調症のまこちゃん(お姉ちゃん)の生涯と、そのお世話をし続けた医師で研究者の両親(パパとママ)をカメラマンの弟(監督)が追った家族の記録映画です。が、これは「統合失調症という病気をテーマにした映画」ではなかったと感じました。
まこちゃんは成績も優秀で、努力の末医学部に入りましたが、2年の解剖実習の後から調子がおかしくなってしまい、統合失調症を発症した、と両親は言っています。監督である弟がカメラを回し始めたのはまこちゃんが40〜50代の頃で、それからおそらく50歳を過ぎるまで、両親の判断で実家に軟禁されていました。
私の心がすごくギューっとなったのは、
まこちゃんが誰にも相談せず、預金(年金?)を解約して、家から飛び出して、ニューヨークで保護された、というくだりです。
1人で家を飛び出して、ニューヨークに行くなんて、どれだけの決意、覚悟と勇気だったでしょうか。
きっと英語も得意だったのでは、と思いました。
その時のことを描いたであろうスケッチには、ハーバード大学に行ったが、「後戻り」を示すような矢印で "SORROW"と書かれていました。すごく悲しみが表現されていました。(別のシーンで、まこちゃんの描いた絵が出てきますが、それもとても素敵な絵でした。絵で表現するというエネルギー、すごいと思いませんか?)
私ごとですが、私は割と英語はわかる方ですし、このように仕事でも使わせてもらったり、情報を調べるときも英語の読み物も好んで読みます。しかし、実はこれまで1人で、自分の意思で海外に行ったことはありません。正直にいうと、行きたいと思ったこともありません。
だから、、、
軟禁状態だったまこちゃんが、どれほど家の外に出たかったのか、しかもアメリカまで行ってしまった事実が、とても重かったです。今思い出しても涙が出てきます。
上記のハーバードのスケッチを見せながら、ママは、嘲笑とも取れるような力無い笑顔で、まるで小さい子がやらかしたおもしろ失敗談のように、まこちゃんを迎えに行った思い出話をするのでした。そのアメリカへの逃亡がきっかけとなり、玄関には南京錠をかけることになったのだそうです。
まこちゃんは62歳で亡くなります。
晩年数年間は、精神科に入院できたことで、明らかに表情が明るくなったし、会話も自然になっていました。素人ながらに、こんなに良くなるならなんでもっと早くに、、、と思わずにはいられませんでした。でも、それが家族の生々しさなのかもとまざまざと見せつけられた思いです。問題から目を逸らしたくて逸らしているのではないのだろう、大事に思うあまりなのか、医師国家試験にこだわっているからなのか、みなくてはならないものは蓋をしづづけて、見えなくなってしまったからなのか、、、
弟(監督)さんの介入があるまで、ママの妹も、まこちゃんのことを気になりつつ、言葉をかけられずにいたことを後悔しているようでした。
それまでの時間は戻りません。
亡くなる時、心臓が止まった時、まこちゃんはビートルズの "While My Guitar Gently Weeps"を聴きながら亡くなりました。どうしてこの曲だったのか。。。
それと確か、"Hello, Goodbye" も挿入歌で出てきました。
まこちゃんはビートルズが好きだったんです。
まこちゃんがビートルズを知ったきっかけはいつだったんだろう。
まこちゃんが、ビートルズについて語ることはあったのかなあ。
医師である両親がまこちゃんを精神科に20年以上受診させなかった、適切な治療に繋げられなかった理由を、両親は、パパとママお互いの意見を尊重したからだと言いました。本当のところは分かりません。
まこちゃんが努力しなかったというパパ。まこちゃんのお葬式で「ある意味で、まこちゃんの人生は充実してたと言えるかもしれません」や「一緒に論文を書いた。共著で出したいと思っています。」と言っていたパパ。そうなんだ、、そう、、なの、、?
棺には論文が入れられていましたが、内容についてのテロップがなかったのは、どうしてだろう。(ビートルズについてもテロップはなかったですが、ビートルズ好きには絶対に引っかかるシーンでした。)
弟(監督)さんの、ガツンと、冷静に両親に向き合って話を切り出し、言葉一つ一つを選びながら話されている様子は、語弊があるかもしれないですが、素晴らしかったです。
統合失調症のことは一旦置いといて、
どのような病気でも病院(専門の医師)に診てもらうのは実はとても大事なことだと思いました。
肝心な「本人の思い」には蓋をして、親や周りが勝手に進めること、実は周りでいっぱい起こっていないだろうか、
子どもの好きなことには蓋をさせて、誘導して逃げ道を塞いでいないだろうか、考えさせられる映画でした。
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この記事を書いた人:小向もゆる
ジャズルスディレクター・講師、英語発音・歌唱トレーナー。元都内区立小学校ALT。
岩手県出身。小6・中1を米国カンザス州の現地小中学校で過ごす。
東京海洋大学卒業後、ボーカリストとして多くのステージ、テレビCMコーラス、英語ミュージカル歌唱指導等に携わる。
豪州発の英語プログラム「Sing to Read! Jazzlesジャズルス」に魅せられ早8年。Sing to Read!歌から派生する体系的な実践英語学習を多くの人に届けたく奮闘中!