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You Must Believe In Spring / Jazz de 恋バナ No.68

Way Out West 2024.2月号

 暦の上では春が立つ二月。波乱の幕開けとなった2024年、この曲を届けたい。

 心が孤独の氷に閉ざされている時こそ、春の訪れを考えて欲しい。雪下に潜む薔薇は、やがて春が来ることを知っている。枯れた樹木も、春になれば再び芽吹くことを知っている。今の空虚さは、うつろいのなかの刹那であることを知っているのだ。凍てつく山は、鮮やかな四月の雪解けを夢見ている。愛を信じよ。まるで眠っている薔薇が待つ、五月のキスのように。静寂が包む雪の世界であっても、森羅万象は動いている。あなたが葛藤の中であったとしても、いずれ春はやってきて、愛が花開く。

 「You Must Believe In Spring」は、1967年に名優カトリーヌ・ドヌーヴ主演のフランスのミュージカル映画『ロシュフォールの恋人たち』のサウンドトラックとして初めて登場した。ミシェル・ルグランによって作曲され、アラン・バーグマンとマリリン・バーグマン夫妻によって歌詞が付けられた。

 なんといっても、同曲がタイトルとなっているビル・エヴァンス(p)晩年の作品(1977年録音)。内縁の妻エレインと実兄ハリーの死の直後に制作された背景もあって、情緒的なルグランのメロディを奏でるエヴァンスの感傷的な旋律は涙を誘う。

 人生がうまくいかず、塞ぎ込んでいる人もいるだろう。しかし、それは長い人生の中でのほんの刹那の出来事なのだ。私自身も家族の事情もあり、演奏活動が冬の時代だが、いずれ雪解けが来ることを信じている。

川本睦子



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Jazz de 恋バナ|川本睦子
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