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久保木 靖さんインタビューVol.1「チャーリー・クリスチャンとの出会い」

2018年5月号のギターマガジン「ニッポンのジャズ」を読んで以来、色々なジャズギター関連の書籍を買い漁っていたのですが、ふと巻末を見ると「編集:久保木 靖」と書かれたものばかり。

「あれ?自分はきっとこの方の本が好きなのでは・・・」というのに気づいてからというものの、久保木 靖さんが関連している本を探すようになってしまったのです。
ジャズギターを弾く方なら誰しも一度は手に取ったことがあるであろう本ばかりなんです。

そんな好きが高じて、今回は編集者:久保木 靖さんにインタビューの機会をいただきました。

ジャズとの出会い、編集者を目指したきっかけ、お仕事のポリシーなどなど、興味深いテーマについてたっぷりお聞きしています。
編集者という立場でジャズ最前線に関わる方のお話しを、全2回でおとどけします。

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[久保木 靖さんのプロフィール]

音楽雑誌・書籍・楽譜のエディター兼ライター。
得意分野はジャズ、ブルース、カントリーなどのルーツ・ミュージック系。著書に『レジェンド・オブ・チャーリー・クリスチャン』、『不世出の天才ジプシー・スウィング・ギタリスト ジャンゴ・ラインハルト』、共著・監修に『ジャズのすゝめ』や『ディスク・ガイド JAZZ Guitar』がある。
趣味は海外釣行、読書はミステリー一本槍、コーヒーはエスプレッソ党、そしてネコ派。

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[私物:久保木さん関連本の一部]

──音楽やジャズとの出会いはなんでしたか?

ざっくりでいいですかね。語り出すと止まらなくなっちゃうので(笑)。

子供の頃は、ピンクレディーが全盛期だったので、妹と2人で歌ったり踊ったりしてました。
中学に入った頃、友達の中で2人ほどものすごいビートルズマニアがいまして、その影響でビートルズを聴くようになって、それで中学3年生の時にギターを買ったんですよね。
フェンダーのストラトを親にねだって買ってもらって。
もともと家に1本フォークギターがあって、チューニングは母に教えてもらったんです。
で、ギターに夢中になってしまったがために、高校受験で第一志望には入れなかったですね(笑)。

ルーツに遡っていくのが好きな性格なので、高校時代はビートルズ、ローリング・ストーンズ、あとはビーチボーイズとかが好きで聴いてました。もちろんどれもリアルタイム世代ではないんですけど。
そういうのが好きな友達とバンドを組んだのですが、自分はギターを弾いていたので、ジェフ・ベック、クラプトン、ジミー・ペイジとか、ジミヘンとかを辿り、ブルースロックにハマるんですね。クリーム、ジェフ・ベック・グループとか、フリー、テン・イヤーズ・アフターも好きでしたね。

その中でも一番好きだったのはジェフ・ベックでした。当時茨城だったんですけど、来日公演があると武道館まで観に行きました。
彼の伝記本を読んでいたら、ブルースギタリストのバディ・ガイに影響を受けましたと書いてあって。
で、まずブルースにハマったんです。シカゴスタイルのマディ・ウォーターズやカントリーブルースのロバート・ジョンソンをはじめとしたブルース全体に。どっぷりハマって聴いてて。

その伝記本にジャズギタリストのチャーリー・クリスチャンやジャンゴ・ラインハルトもよく聴いていたということが書いてあって。
あーそうなんだ、と思って聴いてみたのが『ミントンハウスのチャーリー・クリスチャン』。

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そこですね、ジャズとの最初の接点は。高3の時でしたね。
だから大学行ってからはもう完全にジャズになっちゃったんですよ。

──ジャズへの入りはジェフ・ベックがきっかけだったんですね。

そうなんですよ。ジェフ・ベックってフュージョンぽいことやってるじゃないですか。『ワイアード』とか。
だけどフュージョンは正直そこまで好きにはなれず、チャーリー・クリスチャンみたいな古いジャズが好きになって、そこからジャンゴ・ラインハルトも聴くようになって。

──当時どちらかといえば流行りはフュージョンですよね。でもルーツ志向のほうが強かったということですか?

そうですね。大学時代はチャーリー・クリスチャンばっかり聴いてました。チャーリー・クリスチャンは1939年頃にデビューするんですけど、1920年代から1940年代の間にいたスウィング系のギタリストにもめちゃくちゃハマってですね。
名前を挙げると、最初のジャズギタリストであるエディ・ラングという人を始めとして、テディ・バン、アル・ケイシー、タイニー・グライムス、カール・クレスとかジョージ・ヴァン・エプスとかなんですけど。その辺もよく聴きましたね。

ライターとして、自分がどういうのを書くのが得意ですか?と聞かれたときに、戦前のジャズギタリストについて書くのが得意です、と何度か言ったことがあるんですけど、何の仕事も来ないですね(笑)。

──へぇぇ。(『ディスク・ガイド JAZZ Guitar』を開いて)この「Part6 原点〜スウィング」のあたりですかね?

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あぁ、そうですそうです。この本、私が監修してなければ、このコーナーはなかったんじゃないですかね(笑)。

──このパートの執筆者、久保木さんのお名前しかないですもんね(笑)。

一応冷静な自分もいるので、そのパートはそんなにページ数を多くしてないんです(笑)。

──なるほど(笑)。しかし、このパートに載っている音源、どうやって手に入れるんだろうと思うものばかりです。

そうなんですよね。CD化されてないLP紹介しても、どれだけの人に届くのかがわからないです(笑)。
でも、そういうギタリストがいるってことを届けたくて。

やっぱり古いジャズが一番好きなので、チャーリー・クリスチャンや、ジャンゴ・ラインハルトの本を企画して作れたのは大満足でした。

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──チャーリー・クリスチャンの本を読んで、『I Got Rhythm』を練習しました。なんでこんなに太い音出るんだろうって思います。

そうなんですよね。私同じギターを持っているんですよ。1937年のES-150。
アンプも同じEH-150持ってて。それで弾いた時は同じような音が出たんですよね。
でもその後アンプが壊れちゃってから、音が変わってしまって。真空管も交換したんですが。
もちろん弾き方もあるんでしょうけどね、近い音は出たんですよ、最初はね。

──大学時代もバンド活動されていたんですか?

高校時代のバンド仲間が何人か上京していたので、一緒に活動してました。ロックバンドです。
吉祥寺や荻窪のライブハウスにも何度か出てました。

ロックバンドって真面目にやればやるほど、オリジナルも作らなきゃ、という気になるじゃないですか?
完全コピーバンドと割り切っていればいいんですけど、心のどこかでプロになれるんならなりたいなって淡い希望があると、ちゃんとオリジナルを作らなきゃって気になりましてね。
そうすると歌詞でつまずくんですよ。で、カバー曲の合間に日本語のオリジナルの曲が混じると、すごい落差があって。ダサく聞こえる(笑)。
かといって、英語で書いたところで、これは本当に自分たちのオリジナルなんだろうか、日常使ってない言葉で歌詞を書くことがいいんだろうかって葛藤があって、バンドメンバーとホントに悩みましたね。

で、その時自分はすでにチャーリー・クリスチャンとかジャズを聴いていたので、逃げたわけでもなんでも無いんですけど、ジャズのインストの形態というのがすごく腑に落ちたんですよね。
日本人のミュージシャンを見ても、穐吉敏子さん、渡辺貞夫さんから今に至るまでのどなたを見ても、人種の壁を超えて自分のプレイの個性だけで表現していくというか、歌詞の壁を感じなくて済むというか、そこでまたジャズに親近感を持った記憶がありますね。
もちろん日本語でカッコいいロックをやっている人は沢山いるので、今ではそうは思わないですけどね。当時の自分は悩んでいました。

──ジャズギターはどなたかに師事していたんですか?

大学時代にアン・ミュージック・スクールというところに通っていたんです。
いまは閉校してしまったんですけど。
大学に通いながらなので、週1か2回で行ってまして。2年間。
そこに小島利勝さんという先生がいらして。その先生に習っていましたね。ジム・ホール的なプレイをされる方でした。
その小島先生の師匠が、鈴木“ポンちゃん”康允さんだったんです。大御所の。ポンちゃん先生もアンミュージックスクールの先生だったんです。

──へぇぇ。ポンちゃん先生も茨城の方ですよね?

そうですね。ポンちゃん先生といえば、『jazz guitar book』で「大和ジャズ・ギタリスト偉人伝説」というコーナーがあったんですよ。で、まだ先生がお元気なうちに取材しようと決めてて、いざ連絡しようと思った矢先にお亡くなりになったんです。
だからお弟子さんの方に原稿を書いていただいたんです。

──(『日本のジャズ・ギタリスト』を開いて)こちらの記事ですよね。

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そうです。その本にも収録されています。
小島先生に習っていた時に、ポンちゃん先生と小島先生がギターデュオでライブを演るということで、観に行ったんですよ。
まだ自分はジャズを聴き始めて間もなくて、ジャズのライブも初めてで。
お互い曲名も何も言わないでフッと演奏が始まるんですよね、あれが衝撃だった(笑)。どうなってんだと。当時の自分には衝撃でした。

──ジャズメン、カッコいいですよね。あえて曲名を言わずに始めることで勝負してるというか。

ええ、カッコいいですよね。
小島先生に聞いたんですけど、ポンちゃん先生から「次何演る?」って聞かれたそうなんです。でも必ずポンちゃん先生に決めてくださいと返したそうなんです。
というのも、万が一自分が弾き始めた曲が、自分の師匠にあたる方が知らないとかあると失礼にあたるので言わないと。その代わり師匠が選んだ曲には絶対についていくんだ、と仰ってました。
あー、そんな職人的な世界なんだなって感じましたね。

(つづきます)

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[2000年の写真。バップバンドでES-150を弾く久保木さん!]

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[『レジェンド・オブ・チャーリー・クリスチャン』出版時、付属CDでトリビュート演奏をした畑ひろしさん(名演!)と久保木さん]


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