第3回 【目からウロコのジャズ・ギター】菅野義孝さんインタビュー 「プロになること。」
[菅野義孝さんのプロフィール]
菅野義孝(かんのよしたか)岩手県出身
潮先郁男氏に師事しジャズギターの基礎を学ぶ。
'98年 キングレコード「ジャズ新鮮組」でプロデビュー。
'03年 初リーダー・アルバム「Introducing Yoshitaka Kanno」発表。
'05年 セカンド・アルバム「Movement」では、ニューヨークにてメルビン・ライン(オルガン)、グラディ・テイト(ドラムス)と共演し好評を得る。
'12年 アルバム「JAZZ GUITAR」発表。
'13年 アルバム「JAZZ GUITAR 2」発表。
演奏活動の他に、教則本「目からウロコのジャズギター」、スタンダード曲集「ジャズ・スタンダード・コレクション100」の執筆、ジャズセミナーなど、「ジャズの楽しさ」を広める活動に力を注いでいる。http://www.kannoyoshitaka.com/
(第2回はこちら)
── (刺身をつまみながら)すっごく素人っぽい質問なんですけど‥‥
はい。
──プロにはどうやってなったのでしょうか?
プロは、最初は全然なるつもりなくて。
普通に会社員で、ギターが上手くなれればいいなって思って。
でも、練習してるうちに、弾けるようになってくると、やっぱりね、目指したくなったんですね。
まさかまさかとは思ってたんですよ。でも練習してくうちにだんだん変わってきて。
あぁやっぱりやってみたいって。
できるかも、って思ったんでしょうね。
だからそういう目標になったんだと思います。
で、どうすればプロになれるかというと、ほら何も試験も資格もないので、「今日からプロです」って、手を挙げたらプロなんですよ。
でも、ほんとの意味で、どうしたらプロとして認められるかっていったら、「同業者に認められた時」がプロだと思います。
たとえば、同業者から「この日空いてる?ちょっと代わりの仕事頼みたいんだけど」みたいな連絡もらった時に、「あぁー!おれ、プロなんだ!」って実感が湧きましたねぇ。
それまでは、プロですって名乗って、自分でブッキングして、勝手にライブやってたけど、セミプロやアマチュアと変わらなかったわけですよ。
プロになった、って実感したのはその時でしたね。
電話もらって、それはもうすんごい嬉しかったですよ。
プロかプロじゃないかの境目って特にないと思うんですけど、同業者に認めてもらったらプロ入りだって、ぼくはそういう風に感じましたね。
よく、プロかアマチュアの境目としては、お金をもらうかどうかを判断基準にする人はいますけど、そうはいってもねぇ、セミプロでもみんなお金もらってますもんね。金額の多寡は関係なく。
ただ、ギターが上手い、ジャズが上手いかどうかに、プロアマは関係ないと思う。
他に仕事してようが、何をしてようが、どんな人だって、ギターが上手くなることは出来るんです。
レコードに合わせて練習してれば上手くなるんですよ。だからそれはまったく関係ない。逆にプロをどんどん追い越してほしいです。
そしたらプロが危機感持って練習するようになるから、全体的にレベルが上がるじゃないですか。
だからプロかプロじゃないかって、正直どうでもいいんです。上手くなればいい。
とはいえ、自分の演奏の方の現実を、考えることもあります。
やっぱり20代の頃のようには練習してないですから、段々落ちてきてるわけです。
これが落ち続けてはいけないから、あとは現状維持、あるいは伸びていかなきゃいけないのだけど、なんだかんだいま現状維持すらできてない。
年々下手になってるんですよ。わかるんです。
味が出るっていうけど、確かにあるかもしれないけど、下手になってる。
下手になることが味だっていうのは違うと思うんで。なんというか。
テクニックが落ちてきて、その落ちた分を味で補うのは、まぁそれは歳によって衰えがあるから、スポーツ選手でも間違いなくあるし、いいと思うんですけど、だからって練習しなくていいかっていったらそうじゃない。
練習をやめたら落ち方が、とんでもない角度で落ちていく。それこそ本人が日に日に気がつくくらいの角度で。
だから、プロで居続けたいなら、何歳になっても練習しなくちゃいけない。
それは、強く思ってますね。
練習しないプロはもう引退していただくと。
どれだけ、どんな名前を持ってる人でも、プロで居続けるならば、練習をしなくちゃいけない。
ある程度のレベルは保ってなきゃいけないんです。
80、90歳でも現役大賛成です。
渡辺貞夫さんが、今でもものすごく練習していて、リハーサルもガッツリやるっていうのを聞いて、あぁ、素晴らしいなって思いました。
プロとしての、現役としての心構えとして、すごいな、見習いたいなと思いました。
もう86~7歳ですよ。それでもなお練習してるって、そうできない。
──私の祖母がそれくらいの歳です。それを考えるといまだに現役プロってほんとにすごい・・
──菅野さんの目指すギタリスト像はなんでしょうか?
歌も歌えるギタリスト。ギターも弾けるボーカリストですね。
サイモン&ガーファンクルのポール・サイモンて、歌がすごく上手いかって言うと、それほど歌唱力で聴かせるタイプではないんですよ。
でもすごく大好きで。
プレイヤーとしては、ぼちぼちでいいんですよ、ぼく。50年後、あぁこういう人もいたねって言われるようなね。
そのかわりハーモナイズドベースラインは誰にも負けないですけどね。潮先先生がいるけど。
──セミナーで弾いていただいた、300bpmの『Just Friends』の演奏、超高速で「なんじゃこりゃ!」って思いました。
切れ味なんです。別にどんな包丁使っても切れるけど、良い料理人が見るとわかりますよね。切れ味が違うっていうのはそういうことで。
だからあれは今でも訓練してます。
そこしか売りがないんですよ、プレイヤーとしては。でも一個でもね、売りがあれば。
カッコいいし。ギターデュオであれやったらお客さんに注目してもらえるし。
目立っちゃうから、ゲストの時はあまりやらないように気を付けてますけどね。
──ハーモナイズドベースラインのことは、ウロコ本にもたっぷり書いてありますよね。
書いてますね。出し惜しみしないです。
だって書いたところで、習得まで時間掛かるし。 どんどん追い越してほしいし。
師は弟子に追い抜かれてナンボですよ。それはめちゃくちゃ嬉しいですよ。
[ハーモナイズドベースラインが載ってるウロコ本]
──文章を書くことは得意だったんですか?
いえいえ、昔から全然読書しなかったですし、作文が得意というわけでもなく、文章といっても会社でレポート書くくらいで。
でもやってみたら、好きなこと(ジャズ)についてだから、どんどん思ったことが出てきた。
思ったことをバーっと打ってたんです。タイピングも得意だったし。
で、朝起きて読み返したら、面白かったんです。「あれ?面白いじゃん」って。
書くことって面白いなって思うようになりました。
それと、必ず次の日に読み返します。1日寝かして。
──1日寝かすんですね。
書いてる時は頭がゾーンに入ってる時だから。
でも、読む人ってみんな普通の状態じゃないですか。だから自分も普通の状態で読みます。
あ、ここはくどいなとか。普通の人が読んでどう思うかって意識して。
ゾーンに入ってる時って、濃い目になるんですよね。ちょっとくどいな、もっと簡潔にならないかなって。そんなのを意識してました。
これはアドリブに通じるなって思いましたね。
聴いてる人に楽しんでもらいたい、っていう気持ちがあるから。
普通の人が聴いて楽しめてるかな?って。いいバランスが取れてるかな?って。
だから演奏中は大変ですよ。ゾーンに入りつつも、冷静になる自分もいるわけですよ。
1日寝かせられないからその場その場で。ゾーンに入りつつも別の冷静な自分が3メートルくらい上から見下ろしているんですよ。
客観的にみて、くどくないかとか暴走してないか、とかね。
興奮して、ゾーンに入って沢山弾いてる時にふっと気がついて、音数減らしてみると、お客さんから「イェー!」ってリアクションがあって。
音数減らしたことで伝わり方が変わるんですよ。
それまでこっちがずーって喋ってて、あっちは受け取りきれないやつが、シンプルになったら、あっちは100%受け取れる。
キャッチできるようになって。伝わり方がそっちのほうが大きいわけです。
こっちがバンバンバンバン投げてもキャッチできなくてこぼしてたら伝わってないんですよね。
少ない音で大事に大事に弾いたら、キャッチしてくれるわけで。
そっちのほうが伝わるんです。それに気がついて。いろんな発見がありました、文章書いてたら。
だから上手い人、すっごく上手いけど何してるかわからないっていうのは、伝わってないんです(笑)。
この球はどうだ?とかコースは、球種は、って色々投げてみて、おー取れた、じゃあこれはどうだ?ってやると楽しいんです。
常にキャッチボールのイメージでやってますね。相手に取ってもらう意識。ちゃんとキャッチしてくれることを意識して。
いまの表現いいですね、ぼくも今度コラムに載せるのにメモっておこ(笑)。
(つづきます)