久保木 靖さんインタビューVol.2「編集人として」
[久保木 靖さんのプロフィール]
音楽雑誌・書籍・楽譜のエディター兼ライター。
得意分野はジャズ、ブルース、カントリーなどのルーツ・ミュージック系。著書に『レジェンド・オブ・チャーリー・クリスチャン』、『不世出の天才ジプシー・スウィング・ギタリスト ジャンゴ・ラインハルト』、共著・監修に『ジャズのすゝめ』や『ディスク・ガイド JAZZ Guitar』がある。
趣味は海外釣行、読書はミステリー一本槍、コーヒーはエスプレッソ党、そしてネコ派。
(Vol.1はこちら)
──編集、ライターの仕事を目指したきっかけはなんでしたか?
子供の頃、釣りが大好きで。今でもやるんですけど。
当時釣り雑誌をよく買ってたんです。
その雑誌が好き過ぎて、小学生だったけど雑誌の特派員やってたんですよ。
地元の茨城で、釣りに行って原稿を書いて送るとそれが記事になると。
それで、あ、原稿を書くって面白いなと漠然と思ったんですよね。
──すごい小学生ですね(笑)。
その頃は、大学卒業したら釣り雑誌の編集部に入るんだって思ってました。
その後、思春期への移行とともに釣りはあまりしなくなって(笑)、音楽とギターにハマっていくんですけど、原稿を書くとか出版に携わるという希望は変わらなかったんですよね。
読んだり書いたりするのは子供の頃から好きだったんです。
──そうなんですね。特派員にはどうやってなったんですか?
最初は魚を釣って写真撮って読者コーナーになんべんも投稿してたんですよね。
そしたらある日、編集部の方から、「茨城の〇〇湖で釣りしてレポートしてみない?」って連絡がきたんですよ。
それで交通費とギャラをもらってやってたんですよね。何回も。
[数年前、南米ガイアナ釣行時のショット!(何の魚・・?)]
──すごい(笑)。小学生ながら仕事してたんですね。本を読むほうだとどういうものが好きですか?
小説大好きですね。
小学生の頃から今でも、何かしら小説を読んでますね。
ぼく、ミステリーしか読まないんですけど。
恥ずかしい話ですけど自分で小説を書いたこともあって。
ライブハウスで起きた密室殺人事件というのを書いたことがあって、それが、東京都の北区に北区ミステリー文学賞というのがあるんでけど、最終候補まで残ったんですよ。
──えー、すごい!!
どこか出版してくれないかな?って思いますけどね(笑)。
──ジャズとミステリー、好きなことが組み合わさってますね(笑)。
ええ。色々書きましたよ。最終候補に残ったのは、あるライブハウスで起きた密室殺人事件なんですけど、別の小説では、ジャンゴ・ラインハルトとチャーリー・クリスチャンが実は共演した音源が残っていたみたいなことを書いたことがあって。
──あぁ、そういうのいいですね!そっか、ミステリーって別に殺人だけじゃないですもんね。
そうそう、主人公が謎を解いていく、というところ。結局賞は取れなかったんですけどね。もうやめましたけど。
──大学卒業後はすぐに編集の仕事に就いたんですか?
そうですね。会社に就職して、企画・編集から制作までやっていました。
2016年からは独立してやっています。
会社にいた頃は、ジャズに関係なく色んな本を作ってたんですよ。ギター入門書とかピアノの楽譜とか。
そんなある時、シンコーミュージックさんから『jazz guitar book』という雑誌の編集をできないか?という依頼をいただいたんですよ。
その時点で自分は、編集はやったことがなかったので悩みましたね。
でも、ジャズギターの本を自分で編集するなんていう仕事は、もうね、なんだろう、天職が降ってきたなと思って。
これは「自分の人生において引き受けなきゃダメだろ」と思って。それでお引き受けしました。
3ヶ月に一度の季刊誌でした。
それを始めてから色んなミュージシャン、ライターさんたちと知り合って人脈が広がって。
『jazz guitar book』は2004年から2016年まで続いた日本一、おそらく世界でも指折りのディープさを誇るジャズギター雑誌です。
ある時、菅野(義孝)さんにインタビューする機会があったんです。
それで菅野さんから、こういうメソッドがあるんだけど、という話をいただいて。
潮先郁男先生のスタイルを受け継いで、ジャズの楽しさをどんどん広めていきたいとね。自分はこういうメソッドがいいと思っているというのを聞いて。まず言葉を憶えるように決まり文句を憶えていくことが大事なんだというね。
おっ、面白いと思ったんですよ。
じゃあまず連載しましょうということになり、今でも憶えてますけど、新宿の喫茶店で菅野さんと会って、タイトルは目からウロコにしませんか、って話をしてそれで決まったのが『目からウロコのジャズ・ギター』です(笑)。
──おぉ・・・誕生秘話(笑)。
で、大ヒットして。重版もして派生本も発売されました。
菅野さん以外の方々ともお付き合いさせていただいてたので、色々な教則本を担当して出版させてもらったりと、『jazz guitar book』を通して色んな仕事が出来ましたね。
高内春彦さんにも雑誌で連載していただいていたので、単行本として『Advanced Jazz Guitar』『JAZZ GUITAR CONCEPT』であったり、矢堀孝一さんの『ハイブリッド・ジャズ・ギター完全マニュアル』を編集させていただきました。
最近だと、これはリットーミュージックさんの企画ですが、布川俊樹さんの『ジャズ・ブルース・ギターの金字塔』を編集させていただいたんですよ。
──錚々たる方々ですね・・!お仕事をする上で大事にしてることはなんでしょうか?
教則に関しては、皆すごいミュージシャンなので自分なりのメソッドやこだわりを確立されてるんですね。生徒さんも沢山いらっしゃるから教え方も上手ですし。
たぶんジャズギターをやっているアマチュアの方たちが目指す到達点は、同じか近いところがあると思うんですが、そこにたどり着くまでのルートは沢山あるんですよね。
どのルートが合っているのかは人それぞれなので、自分としては先入観を持たないで、ミュージシャンの方が提案したものをなるべくそのままわかりやすく伝わるように編集しようと心掛けていますね。
毎回、あぁこういう考え方があるんだ、と楽しみながら驚きながら、まとめさせていただいています。
ライターとして書くことも多いですが、自分は「ギター」が好きなんですよ。
ジャズでなくても、ギターを中心に色々なジャンルを聴けるんです。
ブルースもそうだし、カントリーもハワイアンも夢中になって聴けるんです。ギターが入ってれば。
アメリカのジャズギタリストって実は結構カントリーをルーツにした人が多くて、ジャズ専門で聴いている方は気が付かないようなところに、自分は気が付くことがありますね。
例えば数年前にジョン・スコフィールドがカントリーの曲を取り上げたアルバムを出したんですよ。曲はハンク・ウィリアムスや、カーターファミリーといった有名どころもあれば、ジョージ・ジョーンズっていうあまり日本だと馴染みの薄いシンガーの曲も入っていて。
ジャンルの横の繋がりを、突っ込んで聴いているからこそ気づくことがありますね。
あと、レス・ポール。ジャズギタリストと思って聴いてたんですけど、あまりジャズっぽくないなと思って。でも、ルーツはガチガチのカントリーなので、カントリーだと思って聴くとあぁ、なるほどなって思うことがあって。
そうやって、ギターを軸に聴いているからこそ語れることが、自分の強みなのかなと思いますね。
レス・ポールは亡くなる前にインタビューする機会があって。
晩年に、ニューヨークのイリジウムっていうクラブに毎週に出ている時期があって。
私はニューヨークに行ってないので、現地にいる担当の方に自分が書いた質問を送って、イリジウムで話を聞いてもらったんです。
その時にチャーリー・クリスチャンやジャンゴ・ラインハルトの話をしてもらったのが自分にとっては宝物ですね。
直接2人と会っている人ですからね。
──2020年10月号のギターマガジン BN-LA特集でのデヴィッド・T・ウォーカーへの取材記事でも思ったんですけど、質問することって難しくないですか?
あまり、構えて何かを聞こうと思うと良い結果って出ないんですよね。
単純に自分が聞きたいと思ったことをぶつけていくほうがいいなって。それしか出来ないんですけど。
たとえばデヴィッド・T・ウォーカーの場合だと、ものすごい数のスタジオワークをこなしているじゃないですか?だから単純にスタジオに入った時って、どこまでギターの譜面が書かれているのかなって疑問に思いません?
──あぁ、思います。あれだけの数ですもんね。
ですよね。なので疑問に思ったことを聞いてみたくなるんですよね。
セッションによってはギタリストが2人、3人といる中で、パート分けってお互い相談しあってるんですか?とか、もしも自分がその場で同じ立場ならと想像すると疑問が湧きますね。
それが読者の方にとって面白いのかはわからないですけど(笑)。
──面白いです(笑)。ここ数年のギターマガジンは特集主義で個人的にはとてもツボな特集が多いです。ニッポンのジャズも然り、BN-LAも然り。
ニッポンのジャズ特集にかかわらせてもらった時に、編集部の方にこれ売れますかね?と実は言ったことがあるんですよ。原稿を書いているときに。
そしたら当時の編集長の方が、ニーズを作っていくのが我々の仕事ですよと仰ったんですよ。
ニーズがあるものを出すんじゃなくてニーズを作っていくのが我々(雑誌)の使命でもあるというお話をされて、なるほど!と思いましたね。
結果的にニーズが出たのかはわかりませんが(笑)。
──いやー、すごい面白いですよ。BN-LA特集も企画担当されたんですか?
企画担当とまでは言えませんけど、編集長と一緒にあれこれ頑張りました。その苦労は、ギター・マガジンWEBに載っています。
昨年がブルーノート創立80周年ということもあり、特集アーティストの音源を集めたCDも監修させていただきましたね。
──記事には、トミー・ボーリン(ディープ・パープル)やロビー・クリーガー(ドアーズ)も載っていて驚きました。ロック畑のイメージが強くてブルーノートとはかけ離れていたので。
そうですよね。ロビー・クリーガーは、ぼくインタビューしたことあるんですよ。
──えーすごい!
ジャズのことを聞くとすごく喜んで語ってくれるんですよ。ジョン・コルトレーンが好きで「ハートに火をつけて」はコルトレーンに影響を受けて作った曲なんだと生き生きと語ってくれたことがありましたね。
──ものすごい方々にインタビューされてますよね。
ビリー・バウアーってわかります?
クール派と呼ばれてレニー・トリスターノと一緒に演っていた方。彼は病床でしたが、電話インタビューさせていただいたことがありました。
レス・ポール、バッキー・ピザレリもですね。
みなさん、何年後かにはお亡くなりになってしまった方々ですが、自分にとっては宝物の経験です。
ジョニー・スミスのお話も聞きました。
彼の、ギブソンのシグネチャーモデルのギターがあるんですが、なぜあれはフローティングピックアップにしたのかとか、元々違うメーカーから出ていたギターがあまり気に入ってなくて、その時ギブソンからオファーがあって作られたのがあのモデルなんだとか、嬉々として語っていただけて。
──いまインタビューしたい方はいらっしゃいますか?
いま・・そうですね。
やっぱりチャーリー・クリスチャンとジャンゴ・ラインハルトですね。とっさに浮かぶのは(笑)。
──久保木さんにとって2人は特別な存在なんですね。
特別ですねぇ。
──いまは企画されてる本はありますか?
中牟礼貞則さんの単行本を作らせていただいています。
来年発売できるように頑張って進めているところですね。
──絶対買います。
ありがとうございます。
ご本人からお話をたくさん聞いて良い本にしたいなと思ってます。
音楽に対するストイックな姿勢や、日本ジャズの知られざるストーリーを上手にまとめられたらなと。
私が余計なことをしなければ良い本になると思います(笑)。
あと、今はリットーミュージックさんの『Jazz Guitar Magazine』というムックにかかわらせていただいています。最新号Vol.5はジャズ・マヌーシュ(ジプシー・スウィング)の特集なので、ぜひ!(笑)
──読みます(笑)。最後に、ジャズ業界についてこうなったらいいな、と思うことはありますか?
もっと気軽に日常的に、ちょっとジャズでも聴いていくかという感じで、ライブハウスでお酒と食事を楽しめるくらいに、生活に浸透すると良いなと思いますね。
(おわります)
[戦前から活躍した日本ジャズ・ギターの父、角田孝さんの愛器L-4を持つ久保木さん。ギタマガのニッポンのジャズの取材時より]