Rozeoマスタールシアー 樋口 恭大さんインタビューVol.2 「Rozeo・個人製作家のこと」
(Vol.1はこちら)
──樋口さんはESPのご出身ですよね?
そうですね。ESPギタークラフトアカデミー。御茶ノ水にありますね。
ディスクユニオンにもよく通ってましたよ。ブラックミュージックが好きで。
──ブラックミュージックはどういうの好きだったんですか?
R&Bとかファンク、ニューオーリンズファンクとか。
──良いですね。ミーターズとか。
良いですね。ヒップホップも聞くし、歌もののソウルとかも好きだし。
あんまりギター関係なくて(笑)
息子がマーヴィン・ゲイと同じ誕生日なのもあって、産まれてから一年くらいはずっとマーヴィン聞いてましたね。
これ、仕事のときに聞くCDですね。ごちゃごちゃしてますけど。
──あー、スタッフ。
エリック・ゲイルが好きなんですよね。
──吾妻光良さんもありますね。
吾妻光良さんもすごい好きで。
──いいなぁ。サインもらったんですね。これ、なんで「リベンジ」って書いてあるんですか?
学生の頃、ライブを観に行って終わった後に楽屋行って。関係者のフリして(笑)
で、サインしてください!って。
そしたら最初水性マジックだったんですよ。一回それで戻ったんですけど、なんか滲んでるしやっぱりイヤだなぁと思ってまた戻ったんですよ(笑)
さっきの水性だったんでもっかい書いてくださいってお願いしたら、油性でリベンジって書いてくれました(笑)
そうだ、これがまた話が繋がるんですけど。
別の日に吾妻さんのライブを観に行って。そのとき前座でSAKEROCK(サケロック)が出てて。
初めて見たんですが、それが超カッコよくて。
星野源さんが、ノンカッタウェイのギブソンの薄胴のフルアコを使ってたんですよ。
で、それ見て、ノンカットの薄胴、めちゃカッコいいなぁと思って、それがRozeoをやるときにノンカットにした理由です(笑)
これ作りたいって思って。
──おぉ、誕生秘話聞けました(笑)
──(吾妻光良 & The Swinging Boppersを聴きながら)樋口さんもバンドを組んで演ってたんですか?
やってましたけど、弾くの下手くそで。いやほんとに(笑)
ライブもやってたんですけど、四日市でやってたときのイベントにOvall(オーバル)に出演してもらえて。東京からわざわざ。
そのときのバンマスの行動力には感謝ですね(笑)
それから数年後に楽器の展示イベントで関口シンゴさんに再会して。
Michael Kaneko(マイケル カネコ)さんと一緒にいらっしゃいました。
関口さんに、昔バンドで共演させていただいたことなどご挨拶したら、覚えてくれていて。
その再会をきっかけに、後日Rozeoを弾いてくれたんですよ。
そこから関口さんと話が進んでセミアコを作ることになって。
物腰柔らかな方なんですが、こだわりは凄くて、弦高を1-6弦どれも同じ高さにしたり、ネックは通常のRozeoよりも細めにして、ネック裏側は木の手触りを残すために極薄ラッカーにしたりと、細部へのこだわりが沢山ありましたね。
関口さんが名古屋のライブのリハで使いたいからということで、作ったギターを持っていったんですよ。
音をチェックしてほしい、と頼まれてリハ聴いたんですね。
どうでした?って聞かれて「カッコ良かったっす」しか言えませんでした(笑)
本番でもそのまま使ってもらえて嬉しかったですね。
小沼ようすけさんも、Rozeo弾いてくれたんですよ。
(樋口さんの携帯動画見ながら)これこれ。
地元(四日市)にガリバーというライブハウスがあって抜群に音が良いところなんですが、ライブがあって観に行きまして。
で、ライブ後に弾いてもらったんです。
こっちの動画は井上銘さんに弾いてもらったときの。
──当たり前ですけど、同じギターでも弾き手によって全然音違いますね。
ですよね。こっちは小沼さんにマホガニーのを弾いてもらったときのやつ。
──こっちは甘い音しますね。いいなぁ。マホガニーは折坂悠太さんも弾いてますよね。
私はMステで折坂さんが弾いていたRozeoに一目惚れしてLAST GUITARで買いました。
折坂さんもLAST GUITARで買ってくれたんですよ。店長の小山さんから電話で教えてもらって。
折坂さん、ガットギターは富山のFujii Guitarsのを使っているから、藤井さんにも電話して聞いてみたらやっぱり使ってくれていて。
テレビで見たときは嬉しかったですね。
──ルシアーさん同士の交流はあるんですか?
結構ありますよ、はい。同年代の方が多いですね。
アーチトップの方は少ないのでアコギの製作家の方のほうが交流は多いですけど。
富山の藤井さん(Fujii Guitars)、荻野さん(OGINO GUITARS)。
京都の西原さん(NISHIHARA GUITARS)とか。すごい良い人でね。
あとは東京だとKeystoneの西さんとか。みんな凄いですけど。
アーチトップだと西垣くん(Nishgaki Guitars)とか。
彼は自分よりもだいぶ若いですけど、独立のキャリアは自分よりも長くて。
10代の頃からギター作ってますからね。
とにかく行動力が物凄くて。
小沼ようすけさんに、ギターを作ったので弾いてもらえないかと自分からお願いしたり、エイブ・リベラにニューヨークまで会いに行っちゃったり。
もうだいぶ前だけど、名古屋に行く用事があるからご飯食べませんか?って自分にも連絡くれて。初対面なのに(笑)
よくしゃべる人です(笑)
あと小林良輔さん(Ryosuke Kobayashi Guitars)。ガットギターが最近多いのかな。ぼくよりも若くて。
みなさん、すごいなぁと思いながらお付き合いしてます。
──じゃあ刺激もたくさん受けたり。
刺激というか、自分もそうなりたいですよね。
個人製作家の方たちは、センスというか、そういうのが凄く良くて。勉強になるんですよね。
ぼくは寺田楽器に15年くらいいたのもあって、なんていうのかな、気付かないうちに型にハマっちゃってるなと思うことがあるんですよ。
それをね、いまどうにかしたいなと思ってます。良くも悪くもですけどね。
作り方も思いっきり寺田楽器だし、個人でやってる人って結構海外に行って有名な個人ビルダーのところで修行したり、国内でも有名な方のところで修行したりされてるので。
工場上がりの人はなかなかいないんで。
これからですね。
あとは、Rozeoの価格帯と比べて、個人製作だとやはり高くなるし、同じクオリティじゃ誰も買ってくれないので、どうにか試行錯誤しながら違いというか、サイズも色々試してみたり、こだわりながら音の面でより深い感じにしたいな、というのはありますね。
難しいなぁって悩みながらやってます。
──木を選ぶときの判断ポイントってどんなところなんですか?
ポイントはめっちゃありますね。
合板と単板でも違うんですが、単板だと木目の方向は気にします。
あと目の詰まり方、強度ですね。目が詰まってなかったらその分弱いので。
目が詰まってて縦に、柾目(まさめ)っていうんですけど、そういうのは硬いんですよね。
ネック材もめちゃめちゃ気にしますね。
これはホンマホ(ホンジュラスマホガニー)。良いやつ。
こっちはナトーっていってマホガニーの代用材みたいなやつ。
でもこれはめちゃくちゃ古いナトーで。何十年経ってるかわからないけど。
(コンコン叩いて)めっちゃ響くんですよ。音が良くて。柾目だし。
ギター買う時はネックの目の方向は見たほうがいいですよ。
トップの材料もそうです。目が詰まっててまっすぐなやつを選ぶようにしてます。
目が細かくて強度があるやつは、その分薄くできるんで。ギターの厚みを。
薄くするってことは、軽くなって、その分震動が大きくなって。
比率、バランスなのでめちゃめちゃ難しいですけど。
自分が好きなのは硬くて軽いのですね。
──Rozeoはとにかく軽いですよね。私のは2.1kgくらいです。
ですね。結構Rozeoでは色々やってみましたね。
オール単板のときとサイドバック合板のときで、表の厚みも違うし、ブレイシングの幅、高さ、形状も変えてて。
──Rozeo、いろんな種類ありますもんね。
そうですね。色んなデータ採りまくりましたよ。
勉強のためというのと個人的な興味本位で(笑)
ほんのちょっとバランスを変えてみてどうなるかな?というのを実験して。
なのでそれをもとに、良いなと思った組み合わせを仕様にして作ってますね。
悪い方向にはしないで、良い方向にだけ行く仕様にしてます。
──最終的に出来上がってみないと音って確認できないじゃないですか?怖さみたいなものがありますよね。
ですね。そういう点だと、寺田楽器でたくさん作れたのは、ラッキーでしたね。
なかなかあれだけ色んなこと出来ないし、良かったですね。
Rozeoも最初の頃と比べるとピックアップの位置が何ミリか変わったりしてて。
金具の止め方を変えたり、ブリッジ素材をローズウッドからエボニーにしたりとか。
同じモデルでもちょっとずつ良い方向に変えてます。
かなり自由なんですよね。
メーカー指示のものだとそういうのは変えられなくて、一定基準の品質をクリアしないといけないですけど、Rozeoはオリジナルだからその点は自由なところがあって。
──寺田楽器は、OEMとして大量に高品質なものを作りつつ、オリジナルにもチャレンジするってのはなかなかユニークですよね。
そうですよね。退職してもそれで終わりじゃなくてその後も関わらせてもらえてますし。
ここまでやってくれる環境はありがたいですね。
──Rozeoはあえて合板を使っているんですよね。
そうですね。
ぼくが個人で作ってるやつの基本仕様は、トップは単板でサイドバックは合板なんです。
これには意味があって、使いやすい単板の音っていうのをどうにか作れないかなと思って。
Rozeoで色々とやらせていただいたときのアタリの仕様というか、ぼくが個人的に好きな仕様、音がこれです。
これならそこまで重くもならないし。
オール単板削り出しが良いって言われますが、弾くときの音のコントロールがめちゃめちゃ難しいんですよね。
音自体は倍音もふくよかで気持ちいいんですけど。
ライブで使うとかアンサンブルの中で使うとなるとめちゃめちゃ難しくて。
自分がヘタクソというのもあるんですけど(笑)
──(笑) ギターの売り文句としても「オール単板!」とかまず書いてありますしね。
作る側としても自分はどちらかというと合板の方が気を使うんですよ。
厚さ0.6mmしかないし。薄くしすぎると中芯が出ちゃうし、ヘマできないというか。
合板だから作るのが簡単だというとそんなことはなくて。
よく簡単で安物って思われちゃいますけど。音の種類が全然違うし。
いってみればジム・ホールだって合板の音が好きだったそうですしね。
サドウスキーとかダキストとか。
──なるほど。最後に、今後の目標はなんでしょうか?
これからの私の目標は、世の中の単板至上主義をどうにかしたいと思ってます(笑)
とかいってオール単板ものも作ってますけどね(笑)
Rozeoとの差別化を図りたいというのも今の目標。
Rozeoのデザインも僕が決めたので、なかなかそれが抜けないんですよ。
難しいですよね。
──自分が作ったものを変えないといけないというのは大変そうです。
そう、自分で良いと思って今までやってきたものなので。
それを変えていくってのはなかなか難しいですね。
まぁでも悩みながらも作り始めてます。
あとは、自分が死んだあとに話題になるようなものを作りたいなと思いますね。
定価以上の値段で売れたら嬉しいなと(笑)
──郡上八幡で音楽イベントとか出来たらいいですね。樋口さんのギターにも触れてもらえる機会も増えますし。
ですねぇ。ほんとにそれ考えてるんですよ。
知り合いのミュージシャンの方々に来てもらって音楽イベントやりたいなと思って。
郡上八幡は音楽好きな方多いんですよ。昔は夏にスキー場でフェスやったりしてたみたいで。
郡上おどりがあるからか、イベントとかお祭りごとが大好きですし。
こないだは工房の目の前の通りを聖火リレーが走ったんですけど、人が沢山集まってましたよ(笑)
──あ、長くなっちゃってすみません。もう12時ですね。
あ、もう12時か。昼一緒に行きましょう。
うどん美味いところあるんで。
(おわります)