ジャズギタリスト 井上 智さんインタビュー Vol.2 「師匠:ジム・ホール」
[井上智さんのプロフィール]
(Vol.1はこちら)
──ジム・ホールとは学校で出会ったんですよね?
はい。ニュースクール大学のジャズ科という素晴らしい大学があって、そこでジム・ホールに習ってたんですけども。
卒業生は、ブラッド・メルドー。ギターだと、ピーター・バーンスタイン、マイク・モレノ、ギラッド・ヘクセルマン、あとはシルバースタイン。なんやったかな、えー、ヨタム。ヨタム・シルバースタイン知ってますか?
──知らないです。ギターの方ですか?
ギターです。若手のね。イスラエル人でね。素晴らしいギターで。
あとはロバート・グラスパーなんかも後輩ですね。ピアノの大江千里さん、トランペットの黒田卓也くんもですね。ロイ・ハーグローヴは在校生でしたが、卒業はしてなかったかな。
まぁそういう素晴らしい生徒たちが来る学校で、ジム・ホールが教えてたんですけども、ジム・ホールが辞めるときに、なぜか私を(後釜に)推薦してくれましてですね。
それで、そこで教えるという、ラッキーな仕事があったからこそ、21年もいられたんですけども。
──ジム・ホールさんの推薦だったんですね。それはすごい・・!
そうですね。最強でしたよ(笑)。ありがたかったです。ほんとにね。
──共演されてる動画も拝見しました。
共演たくさんしましたね。他にも色々と。教則ビデオの仕事とか、あとはNHKのBSにも一緒に出たことあった。
やっぱりデュオが多かったですね。ギターとギターで。
もう、感謝しかないですね。
──ジョー・パスに会ったことがある、という方からちらっと聞いた話なんですが、ジョー・パスはめちゃくちゃ怖かったそうです(笑)。
ジム・ホールはどんな方でしたか?
ジョー・パスもね、たぶん良い人やったと思いますよ。眼がこうギロッとしててね、眼光鋭いですけどね。
まぁ、ジム・ホールは静かな方でね、いわゆるアメリカンとはちょっと違うイメージ。
物静かで、自分が偉そうにしないというか、謙虚な方ですね。
人間として素晴らしい方で、また、ジョークばっかり言うんですよ。ジョークが大好きでね。
──えぇー、なんかイメージないです。
いやー、こんなにジョーク言うミュージシャンは少ないくらい。
ジム・ホールを知ってるアメリカのミュージシャンはみんな、もう、ジム・ホール言うたらジョークの人みたいなね。
面白い話いっぱいありますよ(笑)。
──授業でもジョークはしょっちゅう言うんですか?
しょっちゅう言いますね。えーとね、ギターのジョークがあるんですよ。
ちょっと待ってね。
(なんと、ギターを構えてくださって!)
見えますか、これ?
──うわ、なんかすごい・・生ギター。
ジム・ホールのジョーク、どんなやったかな。
あ、そうや。「間違えたコード弾いたらどうするか知ってるか?」ってね(笑)。
「こうするんや!(ジャージャーン)」ってね。見えます?
──(笑)。
で、いつもね、私を見てね、弾くフレーズがあるんですよ。こう。(♪♪)
わかります?聴こえた?
──えーと、「もしもしかめよかめさんよ」ですか?
ううん、ちゃう。(♪♪)
これはね、あれですわ。汽笛一声。「鉄道唱歌」。
──へぇぇ、鉄道唱歌。
ジム・ホールのライブ盤でね「Live In Tokyo」てのがあるんですけども、「St. Thomas」の中でこれ弾くんですよ。こうやって。(♪♪)
──(笑)。
このライブ盤聴くと、日本の観客がね、そのときにワーッて盛り上がってる。
新幹線で流れる音楽やったらしいんですね。当時ジム・ホールが日本でツアーしてた頃ね。
それで、私とかジャパニーズを見ると、いっつもこれ弾いて笑かしてくれますよ(笑)。
──聴いてみます(笑)。すごく、お茶目な方なんですね。
えぇ、めちゃくちゃお茶目ですよ。
──ジャズって、違う曲の一節を、インプロに織り混ぜるのがすごく楽しいなぁと思います。
ありますね。Quotationて言うんですけどね。引用ですね。
特にソニー・ロリンズとか、チャーリー・パーカーもそうですけど、聴いてると、あーその曲そこに入れる?みたいなね。
なんか、ミュージシャンの身内で遊んでるみたいなね。聴衆ともコミュニケートしやすいんでしょうね。
──井上さんのSecond Roundのどれかの曲でも引用されてましたね。「いつか王子様が」の。
(どれかの曲=I'm In The Mood For Loveでした。)
[Second Round]
あ、そうでしたか。そういうのは結構やりますね、私も。はい。
──ジム・ホールにはどんなアドバイスをいただきましたか?
彼の家に行ってレッスン受けた時にね、私はものすごい質問をいっぱい書いていったんですよ。もう憧れの人でしたからね。
彼に対してずっと思ってたことがあって。
彼はリーダーとしてもたくさんやってるんだけども、色んなメンバーのサイドマンとしてものすごく多様に対応してるのを不思議に思ってね。
ビル・エヴァンスやロン・カーターとのデュオであったり、ソニー・ロリンズのバンドに入ってたり、ポール・デスモンドやジミー・ジュフリーとやってたりね。
なんでこんなことができるんやと。この人は普通のアプローチと違うというか。
そういうことを質問したんですけども、色々丁寧に答えてくれましたね。
わからんことはわからんなぁとか(笑)。
あとは、「あ、ちょっと待って、聴いてみよう。」って言って、実際の音源聴きながら、「あ、これはこうやな」って説明してくれたり。
それで、私が出した答えとしては、この人は「ジャズギタリスト」として捉えると理解できないけども、「コンポーザー」なんだと。
音楽を総合的に見ている人であり、作曲家的な視点で物事を考える人なんやなと、そういうことで一応自分なりに納得したというか。
もちろん今でも、なんでこんなことができるんやって思うことがいっぱいありますね。この人はほんとすごい人やと思いますね。
過去に囚われずに、どんどん破壊していった人ですね。
──晩年の録音もどんどん変化しているなぁと思いました。
そうそう。どんどん過激になっていきますよね。「爺ちゃん、なにすんねん」てね(笑)。
ちょっと普通のジャズギタリストとは同じ風に捉えないほうがいいなと思いますね。
ジム・ホールは、ベースやピアノとのデュオみたいな、不完全な編成というかね、そういう時に威力を発揮するところがありますね。変幻自在ですね。
作曲に関してはね、ジム・ホールいわく、即興は瞬間の作曲やと。そういうことです、はい(笑)。
君がやってることは作曲なんやと。譜面に残して整理したものにするのか、その場でアドリブするかの違いでね。
──質問をすごくたくさん持って行かれたんですね。
すごい聞きたいこといっぱいあったからねぇ。それでも一つ一つ真面目に答えてくれて。
だから友達になれたというかね。真剣に教えてくれたしね。
目の前で弾いてくれるのを見るのは、やっぱり感動以外の何者でもなかったですよ(笑)。
(つづきます)