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お洒落とは無縁な僕の生活(40)
令和五年四月十八日(火)
今日は朝起きてから、しばし時間をかけて台本を書いた。おおよそ原稿用紙3枚分。だいたい3000字くらいである。昼頃までにそれを終わらせる。これで1トラック分を書き上げたことになる。担当者に提出。返信を待つ。
昼過ぎからパステル画を描いた。今日は写真に撮っていたヤシの木を描いた。そこでふと思ったのは、県外から宮崎へと引っ越してきた知り合いが言っていた言葉だ。「街中に平然とヤシの木があるからびっくりした」と。確かに考えてみれば、おかしな話だ。日本でもヤシの木が街中にででんと生えているのは、宮崎くらいのものだろう。そのおかげか、南国というイメージはすごく定着している。実際、マンゴーも南国のフルーツだろうし。どこの県でもそうだろうが、言われなければ気づかないその県の特殊性、特異性ってのはあるものだ。
僕は人生のほとんどを宮崎で過ごしているから、ヤシの木があるのは当たり前だった。けれどそれは、県外の人から見たら不思議で、だからこそ観光事業が成り立つのだろうけど、あらためて自分の「土地」というものを思い返すきっかけになった。
これまで描いてきたパステル画を見返してみて、何となく南国っぽいな、とも思った。やっぱり気候や気象が影響しているのだろうか。澄んだ青空、太陽、眩しい緑樹、海。すべてが繋がっている気がして、僕の中で影響を及ぼしている。
人はそれまでの経験、体験から自分を形成する。もちろん遺伝子もあるだろうけれど、僕は人というものを考えるとき、過去が人間を形作ると思っている。それは小説や漫画や仕事の台本を書くときも共通した考え方で、先方へ送るキャラクター設定を考えるとき、過去に何があったかを書いていく。5歳のときには何があって、10歳のときにはこんな出来事が、といった具合に。
現実の人間とキャラクターはまた違っていて、現実はもっと複雑で、一括りにはできないけれど、それでもやっぱり過去の影響からは逃れられない。僕にとってそれは「土地」である。
時々、都会へ引っ越そうかという考えも頭によぎるときがある。でもそれをしないのは、そんな人はいくらでもいるからだ。上京した人は特別じゃない。上京、という体験はいくらでもあるし、実際そうして、クリエイティブな職業に就く人もたくさんいる。それはそれで大事だと思う。都会は刺激が多い。クリエイターにとって、刺激は重要なものだ。最先端のものを浴びることもできるし、いろんな人とも知り合いになれて、多くのインプットができるだろう。
でも──僕はやっぱり自分の土地が好きだ。時々、違和感を覚える。小説を読んでいても、そこにあるのは都会の風景で、本当に田舎を書いている人は少ない。宮崎出身だと言っても、生まれがそうというだけで、実際には県外で育ち、都会で生きている人がほとんどだ。そんなとき、どれほど彼らには土地に愛着があるんだろうと思ったりする。
パステル画を描いていて、より自分の土地が好きになった。やっぱり僕の生き方はこれでいいのかもしれない。最先端じゃないし、これからの人生、地味に、他人から見ればつまらなく生きていくのかもしれないけれど、僕の経験や体験は僕だけのもので、それは土地に根づいている。そしてそんな自分でしか描けないもの、書けないものがきっとある。そう信じて、生きていくしかない。
夕方頃、注文していたラルフ・イーザウの『パーラ(上)』が届いた。下も欲しいところだったけれど、なぜかめちゃくちゃ値上がりしていた。さすがにそれには手が出ないと思って、まずは上を手に入れた。いずれ下も購入したい。
その後、歯医者へ行く。今日は親知らずを抜く日だった。麻酔をかけ、痛みを感じなくなったところで、へらのようなもので親知らずと歯肉の間をぐいぐい剥がしていく。思っていた以上に力技で、驚いた。ぐいっ、ぐいっと力を込めて、歯科医が僕の歯に体重をかける。なるほど、こんな風にやるのか、と初めての経験にどこか愉快だった。
無事に親知らずを抜いて、数日後に消毒に訪れる予約を入れる。薬をもらい、帰路についた。
夕食後は『王様ランキング』のアニメを最後まで観ていた。面白いし、泣ける。ときどき、涙腺が緩みそうになった。やっぱり前向きな、勇気をもらえるアニメはすばらしい。漫画でもハマっていたから、アニメも良い出来で嬉しかった。しかもアニメは、漫画をより洗練された構成にしてあるから、むしろこっちのほうが作品世界への入り方としては良いのかもしれない。もちろん、漫画には漫画の、あの独特の絵本のような空気感の良さがあるが。
満足し、就寝する。『王様ランキング』は二期というわけではないが、サイドストーリーのアニメを始めているらしいから、そちらも視聴が楽しみである。