転職活動とカウンターオファー
さぁ上司になんて言おう…
10回の面接の末、ようやく内定をもぎ取ったワタクシ。
円安の状況だったのにもかかわらず、頂いたオファーは現在の物よりも若干たかく、そして福利厚生や様々な社会保障なども付く。
そして何より業界のことを日本語で学べるチャンスはきっとワタクシにも大きなメリットになるだろうと踏んでいたし、加えて当時の香港の規制だらけの状況…
10回の面接&3か月弱の間、新しい会社での事を考えていたワタクシは、もはや気持ちが移っており、今の仕事に何の情熱も持てなくなってしまっていた。
なので、これはもう日本に帰るしかないと思った。
そして、上司に社内チャットで「ハ、、、、ハ~イ!あの、大事なお話があるんですけども、チョットお話しできませんでしょうか」と問いかける。
自己主張の強い人たちの集まる外資系・特に香港人たちは容赦なくバンバン自分の要求要望を直球で投げつける中、どうやらワタクシは自分のそういった要求や不平不満については、物言わぬ寡黙なサムライゲイシャと思われていた(に違いない)
そんなワタクシが改まってこんなことを切り出せば、いったい何事かと恐れおののくのも必至。
なるたけにこやかに話しかけてくる上司なのだが「ついに私も次のチャプターに進むときが来たようです」と切り出すと、突然顔色が曇った。
「どうやったら君のことを引き留められる?どうやったらやめないでもらえる?」という事を懸命に聞かれた。
ワタクシもワタクシで、たつ鳥、跡は美しく幕引きをしたかったので
「私はこの会社で素晴らしい経験をたくさんさせて頂きました…そのことは永遠に感謝しています。ただし…今の香港の状況を考えると…母のこともありますし、今の様に簡単にお見舞いに行けない、何かあった時にすぐに飛んでいけない状況はワタクシにもとても気がかりで…そんな親を安心させるためにもこの結論に至りました…」
ときれいごとを並べるワタクシも女優としての演技力はまだ健在(どの口が!)。
そのころ香港は様々な理由から人が次々に流出している時期でこの3年で8万人だか9万人くらいが流出したと言われている。かく言う上司も香港から転勤していったヨーロッパ人で、外国人がその状況に対してどのような懸念を持っているかについては痛いほど共感をした。
「それじゃあ例えば日本からリモートで働かせてあげられたらどう?」とか「次の会社からのオファーと同等くらいのオファーをできれば」とか
次々にNOと言いにくい条件をくれる上司…
…こんなにもオトコがワタクシを必死に引き留めてくれる姿は(違う)…胸にキュンとくるものがあった。
即答は出来ず、困っていると「じゃあ一度、私も本社に状況を説明し、逆にどんなことを提案できるか考えてみるから君も(今日は金曜日だから)週末ゆっくり考えて月曜日にもう一度話をしよう」と言ってきた。
電話が終わるとモルディブ在住の友人Yにとりあえずメッセージを送る。
「きゃーーーーーーーーーーーーーーー」
ワタクシたちの典型的な挨拶方法である。
「きゃーーーーーーーーーーーーーーー」
秒で戻ってくる返事。こだまでしょうか。ノリです。
ボスとの会話の進捗を伝えると、そこは大人ギャル@御年54の余裕:
「どうせあなた日本に長くいる気ないんだろうから、先に先手打って『いつか機会があればシドニーで働いてみたい』みたいな種まきをして去れば?そしたら数年後、何等か…彼が別の会社に移るとかそういうタイミングで日本人を探してるとかそんなときに声がかかったりするんじゃない?」
と。
実はシドニーはコロナ前に行った最後の旅行先。
空港に降り立った瞬間「いつかこの街で済んでみたいなぁ」と思っていた。
その後話したNY在住のサイキックにも藪からスティックに「あなた、オーストラリア興味ない?」と言われひそかに気になっていた場所ではある。
とはいえ、最後に行ったのも3年前、そしてたった5日間。直感でピンと来たなんて記憶も今は昔。なので、まー2~3年後に何かあればいいなぁ~とは思った程度である。
そんなことを軽ーく思いながら迎えた週明けの面談。
「よく考えましたが私の心は変わりません。とはいえ、日本にずっといる気もないので…日本で少し業界の勉強をして、将来的にシドニーとかで何か機会があればいいな~なんて思っているので、もしその時にあなたが日本人を探していたら声をかけてくださいね」
などとニッコリ微笑むワタクシ。
そしてこの会話はここで終わるはずだった。
…が、
そんなワタクシのさりげなく言い放った場外向けサーブを、すかさず回転顔面レシーブする上司。回る必要はどこに…
「もし、シドニーで働かせてあげると言ったら残ってくれる?」
・・・はい?!
想定していなさ過ぎて、言葉を失うワタクシ。
前途の通り「2~3年後、いつかは…とおもったけど、3年前に1度、5日間行っただけの場所を今も本当に好きかどうかなんて確信が持てない…どうしよう…」と思っていた。
さらに、新しい会社に既に気持ちが大きく傾いてしまい心なし手を抜いてしまった今の仕事を本当に続けていくだけのパッションを保てるか…
内なる葛藤が続く間に「じゃあ少し時間を上げるから考えてほしい」とそのミーティングは終わってしまった。
…し、、、しまった…辞められなかった。
そしてこんな風に、ワタクシのもとへ来たジョブオファーと、カウンターオファーとの間で揺れることになるワタクシなのであった…。