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ジロリンタン備忘録220117

ロン・グーラートの邦訳書を捜して

 日本時間の1月13日にアメリカの Crippen & Landru 出版社のジェフリー・マークスからメールが来て、明日(アメリカでは1月13日)はロン・グーラートの89歳の誕生日なので、みんなで祝いましょうと提案していた。その2日後、同じくマークスからのメールを読むと、グーラートが14日に亡くなったと訃報を伝えてきた。89歳の誕生日の一日後に亡くなったわけだ。
 ここまでは、ほとんどミステリー、SF、コミックスの愛好家は知ってるよね。グーラートはRon Goulart と書くが、発音は「グーラート」が正しい。それでも、「ガウラート」と発音するアメリカ人がいるから要注意! 1933年にカリフォーニ州バークリー生まれ。これは大事なのだ。アンソニー・バウチャーが西海岸の南カリフォーニアに住んでいて、SFとミステリーの両方の分野で活躍していた。グーラートはバウチャーに習って、SFとミステリーの両方の分野で活躍しようと考えた。しかし、グーラートはアメリカン・コミックスにも興味があったんだよね。
 最近は珍しく忙しいのだが、グーラートの死亡記事を<ガムシュー・サイト>に書かないといけないと思っていたら、おれが編集局庶務係をしている「マルタの鷹協会」の協会報フライヤーの冬号がちょうど出来上がってきた。それを編集局へ送信したり、今年の会費をすでに納入した会員に二重納入しないようにとお願いしたり、冬号をプリントアウトしたり、雑用でなかなかグーラートの邦訳書について書く時間が後回しになってしまった。
 グーラートはSFやミステリーやコミックスの評論書や小説(長編も短編も)たくさん発表している多作家である。しかし、短編の邦訳は多いが、長編はほとんど邦訳されていない。ほとんどのSF読者は、<スタートレック>のカーク船長こと、ウィリアム・シャトナーが書いたテックウォー・シリーズのゴースト作家だというkとを知っているが、邦訳されたのはその1作目『電脳麻薬ハンター」だけである。
 そのほかに邦訳された単行本は本名のグーラート名義では『ゴーストなんかこわくない」(扶桑社ミステリー、2006年)ぐらいなのだ。でも、これは長編ではなく、幽霊探偵マックス・カーニイもの短編集なのだ。しかも、1971年にAce Books から刊行された原書 Ghost Breaker は、長編 Clockwork's Pirates との抱き合わせ本なのだ。俗に Ace Double と呼ばれる。
 ほかのグーラート名義ではないが、ジョセフィン・ケインズ名義の女性用ミステリー The Devil Mask Mystery (Zebra, 1978) の邦訳『ステージの悪魔』(創元イエローブックス)がある。これが日本で出たときに、グーラートがケインズ名義で出していたことを知っていたから、あとは邦訳タイトルを調べるだけでよかった。 
 そして、もう1作邦訳を見つけたので、報告しよう。こういう書誌的なトリヴィアが好きな読者か収集家は日本に10人もいないが、偶然に見つけたのだ。(やっと本題にはいれたぞ!)
 グーラートの死亡記事をそのうちに(例えば、The Maltese Falcon Flyer の次号である春号のために)書くことになるので、資料としていろいろな新聞の死亡記事、履歴、書誌リストなどを収集するのだが(プリントして、読み込むのに1日か2日かかるんだよね)、ある書誌リスト(2つ以上)を見ていて、ほかのリストに載っていないタイトルに気がついたのだ。Prize Meets Murder (Pocket Books, 1984) written as R.T. Edwards , with Otto Penzler and Edward Hoch と書いてある。そうそう、エド・ホックが犯人当てミステリーにオットー・ペンズラーと関わっていたことがあった、あった。R.T. Edwards というペンネームは、エド・ホックがプロットを考え、ロン・グーラートが文章を書いた二人の共同ペンネームだったのだ(これ1冊しかない)。でも、このリストを作成したルシンダ・サーバーとスタン・アルリッチはどうしてこの業界の秘密を知っていたのだろう? エド・ホックとペンズラーはこの犯人当てミステリーをもう2作関わっているが、もう1作のライターの正体は亡くなったときに、こっそりと明かされた。もう1作のライターが不明瞭なのだ(候補者は2名)。では、邦題を教えよう。R・T・エドワーズ/オットー・ペンズラー『エアロビクス殺人事件』(早川文庫、1985年)だ。
 おっと、長くなりすぎた。最後に、おれはロン・グーラートに会ったことがある。少し話したことがあるが、40年以上前(70年代半ば)のことなので内容は覚えていない。場所は当時18丁目か19丁目にあったMystery Writers of America 事務所の月例カクテル・パーティーだった。おれはグーラートの顔を見て、話しかけたが、彼はおれのほうをちらっと見ただけで、そのときに話し相手とのおしゃべりを続けた。おれは彼から遠ざかって、ほかの人と話してたか、ぼおっと突っ立っていたかのどちらかだろう。しばらくしてから、グーラートが近づいてきて、「さっきは失礼した」とか何とか言って、しばらく話したと思うが、内容は覚えていないのである。
 その前に、<マーダー・インク>のディリス・ウィンの催すミステリーの会で、パネリストのグーラートの顔を見たことがあったし、彼のパルプ・マガジンに関する本を読んでいたし、拙著『ニューヨークのフリックを知ってるかい』(講談社絶版)を見ると、彼の私立探偵ジョン・イージーものを1冊読んでいるではないか。とにかく、彼はおれのことを完全に無視したわけではないので、礼儀正しい人間だと思ったことを覚えている。
 グーラートが編纂したパルプ・マガジン傑作集 The Hardboiled Dicks (1965) は多くのミステリー読者にパルプ・マガジンを紹介した。これは持っているのかどうか忘れた。ハメットやチャンドラーの作品が収録されていないのは、収録料が高いからか? パルプ・マガジンのことを書いたCheap Thrills (1971) は読んだことは覚えているが、内容は覚えていない。それに、パルプ・マガジンの探偵について書いた The Dime Detective (1988)は買ったはずだけど、読んだかどうか忘れた。でも、これはエドガー賞の評論部門にノミネートされたんだ。もう一つノミネートされたのは After Things Fell Apart (Ace, 1971) である。グーラート自身もこれで受賞してと思っているが、本当はノミネートされただけだ。(資料は2つ以上読み比べて確認しないと、大変な間違いを犯すから、注意するべし!)

 おっと、おれはものすごく忙しいのに、ものすごく長い「追悼文」を書いてしまった。だから、訃報を書くのはそろそろやめようかと考え始めているのだ。
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