LAの音楽業界で4年間働いて分かった『流行の常識』 大ヒット曲を作る方法
新曲が売れるとパクリ疑惑が浮上する。これは日本国内のみならず世界中どこの音楽業界に行ってもよくあることです。
しかし結論から言うと、パクらなければヒット曲は生まれません。
はじめに
人々の頭の中には幼い頃に聞いた童謡や、当時流行していたポップス、歌謡曲などが無意識のうちに刷り込まれています。日本では、第4音(ファ)と第7音(シ)を抜いたド・レ・ミ・ソ・ラの音階で奏でられるメロディーを用いたJ-POPを耳にすると、我々は自然と心に安らぎを覚えます。初めて聞いた新曲でも、どこか懐かしさすら感じてしまいます。これはいわゆる『ヨナ抜き音階』と呼ばれるもので、小学校の音楽の授業で習った『ふるさと』や『上を向いて歩こう』などの曲に使われているスケールと全く同じメロディー構成になります。
最近のヒット曲の中で、このヨナ抜き音階が使われているJ-POPは、『にんじゃりばんばん(きゃりーぱみゅぱみゅ)』や『恋するフォーチュンクッキー(AKB48)』、『恋(星野源)』、『Make You Happy(NiziU)』などがあります。
多くの人々の間で話題になる曲というのは、それだけ共感され易い「共通項」が多いということで、例えそれが遠く離れたアイドルソングとハードロックのような類でも、同じ日本のヒットソングであれば似たようなパーツが見つけられるということはごく当たり前のことなのです。
ここまでは大まかな前提として皆さんに納得していただける、もしくは既にたくさんの方がご存知の話であるかと思います。
それでは音楽家たちはそのことを認識した上で、実際にどのように楽曲を制作しているのでしょうか?日本のみならず欧米のアーティストの例も一緒にご紹介していきます。
パクリ疑惑?J-POPのあれとこれ
まず初めにお話ししたいのが、あいみょんさんの楽曲と一連の騒動についてです。
現在の日本音楽業界には欠かせない大人気シンガーソングライターでありながら、その注目度の高さ故に、数々の「パクリ疑惑」が浮上してきた女性アーティストでもあります。
今年はじめにネットで話題になっていたのが、2021年2月17日リリース『桜が降る夜は』におけるメロディーの盗作疑惑。
その一つ前では、2020年6月17日リリース『裸の心』が噂の対象に。
そして、あいみょんさんのパクリ疑惑で最も大きな波紋を呼んだのが、2018年8月8日にリリースされた『マリーゴールド』です。
『桜が降る夜は』では、イントロのギターフレーズが、WANDSの大ヒット曲である『世界が終るまでは…』のAメロ直前のパートと類似していると指摘されていました。
TBS系火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』の主題歌にも起用された『裸の心』では、サビのフレーズの「いま~、わたし~」という箇所や全体のメロデイーが、合唱曲として有名な『翼をください』に似ているとネット上では話題になりました。
『マリーゴールド』に至っては、対象曲がポップスから少し離れて、1999年7月に発売されたゲームボーイ用ソフト『メダロット2』の作中で使われているBGMに似ているという指摘が上がりました。
繰り返すように、これら楽曲同士の類似性を「パクリ」や「盗作」だと否定的に騒ぎ立てるのはナンセンス、というのが私の個人的見解であります。好きな作品や大きく影響を受けた作品が、作者の意図しないところで自身の作品の特徴として表れてくることも当たり前だと思いますし、あえて自分の好きなフレーズを少し拝借するといった作品づくりもアリだと考えています。
初めて音楽を生み出した人間以外、完全なオリジナルにはなれないわけですから、誰しもが何かしらからの影響を受けて「自分」を表現するというのが、アートでありエンターテインメントなのです。
アメリカ音楽業界はこう変わった!曲を「パクる」新技術
似たような例が海外にもあります。
イギリスのシンガーソングライター、アン・マリー(Anne Marie)は、その特徴的な歌声とキャッチーなメロディラインで若者たちから大きな支持を得ており、TikTokはじめ様々なメディアやプラットフォームで彼女の楽曲が利用されています。
中でも、アン・マリーの『2002』は、1998年から2003年の間にリリースされた曲(主に2002年の欧米のラジオで流されていたとされるヒット曲)の歌詞やコード進行を引用するという、シンプルで効果的なギミックを基盤として作られた、彼女の楽曲の中で最大のソロシングルであります。英国では数ヶ月にもわたってトップ5入りした、正真正銘の大ヒットソングでしょう。
2018年の4月にリリースされた『2002』でAnne Marieは「Oops, I got 99 problems singing bye, bye, bye」と歌っています。
「Hold up, if you wanna go and take a ride with me」
(でも待って、もし私と一緒に乗って行きたいって言うなら)
「Better hit me, baby, one more time, uh」
(もう一度、私を誘ってほしい)
- オンガクガトマラナイ 【2002】の和訳より
15年前の洋楽に詳しい方なら、Jay-Zの「99 Problems」や*NSYNCの「Bye Bye Bye」、Nellyの『Ride Wit Me』、Britney Spearsの『...Baby One More Time』などを参照していることに気づかれると思います。
このように、すでにレコードされている楽曲の一部を使って、新しい曲を作ることを、我々の業界では『インターポレーション』と呼びます。DJキャレドとリアーナの『Wild Thoughts』がサンタナの『Maria Maria』からメロディーをほとんどそのまま利用したり、ラッパーのクーリオが『Gangsta's Paradise』で、スティービー・ワンダーの『Pastime Paradise』からリフを擬えて制作されたことなども、インターポレーションという技術を世界中に普及させた例のひとつであります。
アンマリーの『2002』のように叙情的で、ノスタルジックな印象を与えてくれる曲に限らず、現代のポップスアーティストにとって、歌詞やメロディのオールディーズからの引用は当たり前のことなのかもしれません。
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