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ロン・カーター

今回はロン・カーターです

 3本目はロン・カーターRon Carter(Wikipedia)です。
 1937年ミシガン州の生まれ。60年代のマイルス・デイビス・クインテットのベースとして名を馳せ、その後のジャズベーシストたちに多大に影響したと思われます。
 しかし、彼以降のベースプレイヤーで彼の影響だけを直接に感じさせる人はあまりいないように思っています。おそらくはあまり類を見ないタイプのテクニックと(もしかするとその高身長という非凡な体格からくる)マネのしにくいフィンガーリングのため、「常人にはコピーできない」演奏が多いのかとも考えます。
 それでも、彼がドラマーの相棒、トニー・ウィリアムスと起こした、異常なまでのタイム感覚の変化。そしてハービー・ハンコックやウェイン・ショーターたちとともにマイルスクインテットの「革命的」ともいえるスイング感の書き換えの担い手として、ベースのタイム感のあり方を変えたと思います。
 マイルスとは1963年にポール・チェンバースの後任の形で参加。これもマイルスの自叙伝では仲の良かった、アート・ファーマーが使っていたカーターをファーマーにマイルスが顧いて譲ってもらったような逸話が出てきます。ほぼ同時期にハービーとトニーが参加し、しばらくの間三人でマイルス自宅でリハーサルを重ねたとか。このリハーサルの録音なんて出てきたらすごいでしょうね!
 とにかく60年代のマイルスはほぼカーター。ほかにも、ブルーノートやマイルストーンなどのレーベルに多数の録音があります。
 その後は69年くらいまでマイルスと行動しますが、その後離れてフリーになります。
 マイルストーンレーベルと契約し、自身のカルテットを率いて、数枚のリーダー盤を出していますが、ううん。ちょっと癖がきついものが多いですね。というか、カーターはセロを弾き、ベースは弟子のバスター・ウィリアムスに任せ自在にセロを弾きまくる感じなので、「ベーシスト ロン・カーターを知る」ためにはあまりお勧めしません。
 70年代のカーターは、60年代にVerveレコードでウェスモンゴメリーやジミースミス、アストラッド・ジルベルトなど数多くの名盤を残したクリード・テイラーが起こした自身のレーベル=CTI(Creed Taylor Inc)と契約し、ある文書によればCTIレコードの録音の90%に参加したとありますからとにかく膨大なレコーディングをこなします。
(ちなみに、Verve時代にもたくさん参加していますね)
 その後、何度も自分のグループを率い、さらにニューヨークジャズカルテット、グレートジャズトリオにも参加。また、ハービーたちとマイルスクインテットの「同窓会バンド」V.S.O.Pでも活躍しました。
 2024年現在でも、ずいぶんと老けた感じにはなりましたが、健在で元気なベースを弾く動画をYoutubeで見ることができます。

どんなベースを弾く人か

  • 50年代のベーススタイルは、カーリー・ラッセルやミンガス、オスカー・ペティフォードあたりのバップから、チェンバース、ダグ・ワトキンズなどのハードバップ全盛期に移りハード・バップスタイルがモダンジャズの王道であったと思います。ロン・カーターそれを書き換えた一人といえます。
    (そしてもう一人はもちろん、スコット・ラファロですね)

  • それでも、ロン・カーターのスタイルはタイム感やリズムの取り方などでチェンバースの延長線上にあるのではないかと思います。

  • チェンバースとの決定的な違いは、カーターが参加した時点のマイルスクインテットが完全モードジャズグループだった点です。当時モードジャズにマイルスの要求するモードベースに対応できるベーシストがどれだけいたのか不明ですが、カーターはその最有力の一人であったことは間違いないと思います。

  • さらに、前述したトニー・ウィリアムスやハービー・ハンコックとの出会いがロン・カーターのタイム感、ハーモニー感覚を飛躍させ、60年代のジャズベースシーンの最先端を歩かせたのではないかと思っています。

In Person / Bobby Timmons

Riverside RLP 12-9391 In Person (Bobby Timmons)

Bobby Timmons - piano
Ron Carter - bass
Albert Heath - drums

Recorded "live" at the Village Vanguard New York; October 1, 1961

Autumn Leaves
So Tired
Goodbye
Dat Dere
Popsy
I Didn't Know What Time It Was
Softly, As in a Morning Sunrise
Dat Dere

  • ロン・カーターの一枚目として、ボビー・ティモンズのイン・パースンを選んでみました。マイルスに参加する前のカーターの姿です。

  • In Person - The Bobby Timmons Trio(Youtube)で聴けます。

  • 主役のボビー・ティモンズがアート・ブレイキーのジャズメッセンジャースから抜けたか、抜ける直前くらいでしょうか。ティモンズがバリバリのハードバップピアニストとして活躍中のヴィレッジ・ヴァンガードでのライブです。

  • So Tired(YouTube)は、ジャズメッセンジャーズでも録音されているSo Tired ティモンズのオリジナル。ティモンズらしいマイナーなナンバーで、ピアノトリオながらジャズメッセンジャーズを思い起こさせる演奏です。

  • 他に、Dat Dere (youtube.com)も、やはりメッセンジャーズの演奏Art Blakey & the Jazz Messengers - Dat Dere (youtube.com)で有名なティモンズのオリジナル。このトリオのテーマにしていたようですね。

  • さて、ここでのカーターは24歳ですが、すでにのちの類まれなテクニックの片りんを見せてくれています。ビートの安定感、深く沈んだトーン、しかしティモンズのバックだからかマイルスに入ってからのモーダルな演奏はしていません。

  • ですので、この盤を聴くことによってまだ、ニューヨークンのモダンジャズシーンがモードに染まっていく前の、カーターの姿をとらえることができると思います。

Seven Steps To Heaven / Miles Davis

Columbia – CL 2051 Seven Steps to Heaven(Wikipedia)

Trumpet – Miles Davis
Tenor Saxophone – George Coleman
Piano [Cal.] – Victor Feldman
Piano [N.Y.] – Herbie Hancock
Bass – Ron Carter
Drums [Cal.] – Frank Butler
Drums [N.Y.] – Anthony Williams

Recorded Sept. 1963

Basin Street Blues [Cal.]
Seven Steps To Heaven [N.Y.]
I Fall In Love Too Easily [Cal.]
So Near, So Far [N.Y.]
Baby Won't You Please Come Home [Cal.]
Joshua [N.Y.]

  • マイルスに参加した、最初のレコーディング。ただしこのアルバムはニューヨークとカリフォルニアで2回に分けて録音され、西と東でメンバーが異なっています。カリフォルニアの方が先に録音されており、ピアノにヴィクター・フェルドマン、ドラムにフランク・バトラーという当時、西海岸を中心に活動していたメンバーが参加しています。少なくともスタジオ録音として、この二人はこのレコーディング以外マイルスとは演奏してないんじゃないでしょうか。
    (もちろんマイルスがロスなどに遠征したときには、手合わせしたかもですが)

  • さて、カーターはこの東西それぞれのセッションに参加し、いずれも安定したベースを提供しているわけですが、それにしても2曲目、Seven Steps To Heavenのイントロからのカーターのリズムはどうでしょう。そして、導かれてはいってくるトニー・ウィリアムスのドラムと、ハービーのコードの歯切れの良さ。うーん、これは、おそらく1963年時点で世界中のどのバンドも出せなかったビート感じゃないでしょうか。

  • 実は、私の生まれがこの63年ですので、当然後追いで過去の録音として聴いてきたわけです。しかし、数多くのジャズレコードを聴くうちに、この盤がもたらしたであろうインパクトを強く感じるようになりました。

  • そのあたりの状況を思い浮かべつつ、この盤を聴いてみてほしいです。そして、上記曲リストにある、[N.Y.]と[Cal.]の違いをぜひ聞き比べてみてください。

Freedom Jazz Dance
The Bootleg Series Vol. 5 / Miles Davis

Columbia – 88985357372 Freedom Jazz Dance: The Bootleg Series, Vol. 5(Wiki)

Trumpet – Miles Davis
Tenor Saxophone – Wayne Shorter
Piano – Herbie Hancock
Bass – Ron Carter
Drums – Tony Williams

From  'Miles Smiles'
1-1 : Freedom Jazz Dance (Session Reel)
1-2 : Freedom Jazz Dance (Master Take)
1-3 : Circle (Session Reel)
1-4 : Circle (Take 5 - Closing Theme Used On Master Take)
1-5 : Circle (Take 6 - Released Master Take Excluding Closing Theme)
1-6 : Dolores (Session Reel)
1-7 : Dolores (Master Take)
2-1 : Orbits (Session Reel)
2-2 : Orbits (Master Take)
2-3 : Footprints (Session Reel)
2-4 : Footprints (Master Take)
2-5 : Gingerbread Boy (Session Reel)
2-6 : Gingerbread Boy (Master Take)

From Nefertiti
2-7 : Nefertiti (Session Reel)
2-8 : Nefertiti (Master Take)
3-1 : Fall (Session Reel)
3-2 : Fall (Master Take)
From Water Babies  
3-3 : Water Babies (Session Reel)
3-4 : Water Babies (Master Take)
3-5 : Masqualero (Alternate Take / Take 3)
3-6 : Country Son (Rhythm Section Rehearsal)
3-7 : Blues In F (My Ding)
3-8 : Play Your Eight (Miles Speaks)

Tracks 1-1 to 2-2 New York City, October 24, 1966
Tracks 2-3 to 2-6 New York City, October 25, 1966
Tracks 3-5 New York City, May 17, 1967
Tracks 2-7, 2-8, 3-3 and 3-4 New York City, June 7, 1967
Tracks 3-1 & 3-2 New York City, July 19, 1967
Track 3-6 New York City, May 15, 1968
Track 3-7 New York City in 1967
Track 3-8 Hollywood, CA, in January 22, 1965

  • このレコードは、マイルス60年代のクインテットが60年代後半にリリースした、Miles Smiles、Nefertiti、Water Babiesの3枚から一部の曲のリハーサル、本テイクを合わせてリリースした本来なら存在しないはずのもの。

  • 私にとっての圧巻は1-1のFreedom Jazz Dance (Session Reel)(Youtube)です。Eddie Harrisのジャズロック曲をマイルスがリハーサルでどう料理していくのか。冒頭、マイルスが口頭で口ずさむベースラインをカーターが「こうかな?」って感じで形にしていくところ。マイルスの要求に、カーターやトニーがどう応えるのか。もともとマスターテイクは聴いて知っていましたので、最初はテーマが作曲者のオリジナルのままスタートすることに驚き、マイルスが次々に発するアイデアをメンバーが形にしていくドキュメンタリー。

  • CBSの録音がいいので、実に生々しくスタジオに同席している感覚で聴けます。

  • 11分43秒辺りに始まる、Take5.12分05秒辺りでテーマのあとマイルスがソロを吹き始め12分13秒辺りのマイルスのフレーズに「これはスイング!」と即座にフォービートで応えるカーターのベースとマイルスのソロのかみ合い方が絶妙。

  • 20分57秒辺りで、ようやく本テイクの特徴的なドラムイントロをマイルスがやはり口ずさんで、アイデアをトニーに。トニーさんすぐにはできないけど、だんだん形にしていくのがまたすごい。これ、もしかしたらエルビン・ジョーンズだったらすぐに演ったかも。

  • とにかく、この1-1だけでご飯何杯も食べられるほどおいしい!

  • 他も、Session Reelをお楽しみください。やっぱこの人たちすごいわ。

Cherry / Stanley Turrentine With Milt Jackson

CTI Records – CTI 6017 Cherry : Stanley Turrentine (Wikipedia)

Stanley Turrentine – tenor saxophone
Milt Jackson – vibraphone
Bob James – piano, electric piano, arranger
Cornell Dupree – guitar
Ron Carter – bass
Billy Cobham – drums

Recorded May 1972 at Van Gelder Studios

Speedball
I Remember You
The Revs
Sister Sanctified
Cherry
Introspective

  • 名プロデューサークリードテイラーのレーベルCTIから70年代に大量にリリースされたものの一枚。前述したが、カーターは膨大なレコーディングの90%に参加(ほんまかいな)とされていますが、
    Jazz Discography ProjectのCTI Records Catalog: 6000 seriesのページでコントロールキーとFキーを押して、「Ron」と入れてみましょう。恐ろしい数の「Ron Carter」にマークがつくはずです。

  • カーターはこれ以前にもVerve時代のクリードテイラーのレコーディングにもウェスやスタン・ゲッツなど数多く参加してますね。

  • つまり、マイルスやブルーノートでのショーター、マッコイなんかの硬質なレコーディングと並行して、こういったポピュラーなものにも参加していたというあたり、この人の幅の広さが感じられます。

  • さて、冒頭のSpeedballリーモーガン作のブルースですが、フュージョン系のリズムセクションにもかかわらず、めっちゃスイング。CTIならではの音世界が展開します

  • とにかく、リラックスして楽しめる一枚。ぜひ

Heart & Soul / Ron Carter - Cedar Walton Duo

Timeless  – SJP 158 Heart & Soul Ron Carter and Cedar Walton ( Wikipedia)

Cedar Walton – piano
Ron Carter – bass

Recorded December 1981

Heart and Soul
Django
Frankie and Johnnie
Little Waltz
Telephone
My Funny Valentine
Back to Bologna

  • カーターがピアノのシダー・ウォルトンとデュオで残した一枚。ドラムレスで、二人の語り合いが楽しいアルバムになっています。

  • ドラムレスは他にもジム・ホールとのデュオやラッセルマローンとのトリオなんかがありますが、私のお勧めはこれ。

  • 一曲目Heart & Soulから快調。とにかくいろんなことするベースですから、二人で演奏するのも大変そうですが、ウォルトンにとっては全部織り込み済なんでしょうね。

  • Djangoでのカーターのソロ。いつものフレーズ爆発ですが、いつ聴いても、すごいっす。カーターのテクのオンパレード。


いかがでしたか。自分の好みで選んでいるので、一般的なお勧めのロン・カーターとは違うと思いますが、彼のいろんな演奏を見ていただけるのではないかと思います
Youtubeのroncarterbassistっていうのがあって、そこの再生リストが参加したアルバムごとにまとめられています。
Ron Carter - Walking
ま、一度ご覧になってそのレコーディングの多さに驚いてください。

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