スタートアップM&Aの規模化と質の向上(その1)
自分のスタートアップ・ファイナンス分野でのキャリアの初期において印象的だったスタートアップM&Aは、2008年10月頃に在籍していた日系大手VCにて、米系大手VCなども投資していた中国のとあるテクノロジー業界で、M&Aを繰り返しながら業界3位以内まで上り詰めたスタートアップ(創業者は中国の女性起業家でハーバードMBA卒)でした。
最終的には100億円超で同業に買収されたのですが、その直前に10億円超のVC投資を検討をしたご縁でした。リーマンショック直後だったので、世界中のVCが一斉に投資をストップし、当該スタートアップも資金繰りがかなり危うい状況でした。
そうした最悪なタイミングでも、成長していた業界内で3位以内というポジショニングの良さが100億円超という相対的に高い評価に繋がったと感じました。(当時のユニコーンがアリババなどの一部に限られた時代の規模感です。)
背景としては、競合複数者が買い手として名乗りをあげたことがあったようです。結果的に、前回の資金調達ラウンドから少し低い時価総額でM&Aとななったものの、創業時の株を保有する起業家も、優先株を保有するVCも、いずれも一定のリターンを確保できる水準になったはずです。
不況の嵐が吹き荒れる最中で、資金調達かM&Aか、というギリギリの起業家や既存VC株主の判断の中で、元々、資金調達もM&Aも、プロの助言会社が助言していたためその助言も影響したはずです。
当時の自分の状況としては、2008年9月1日に唯一未経験者をキャピタリストとして採用していた大手VCに入社し、2008年9月15日にリーマンショックが起きて投資案件は殆どがストップ、となってショックを受けていた最中のことでした。
中国投資を含む海外投資のファンド余力が少し残っていたため、当該スタートアップへの投資検討を、入社後初めての主担当案件として上司や同僚に助けてもらいながら、中国の北京拠点の同僚や米国の共同投資家などと一緒にDDし、結果的には起業家側が希望するバリュエーションが当時の経済合理性には合わないと考え、投資を見送りました。
直後にM&Aされた金額を考慮すると、前回ラウンドまでの投資家はリターンが出るが、今回ラウンド投資家は危うかった、という結果論も含めて、VC投資としては見送らざるを得なかったものの、当時において100億円超の規模でのスタートアップM&Aとしては起業家や前回ラウンドまでのVC、買い手双方にとって合理性があると感じました。
時代を現代に戻して、IPO市況が再び落ち込んでいます。IPOがダメならM&A、という消去法でスタートアップM&Aへの期待も膨らんでいますが、この点は、私としてはIPOもM&Aも事業を成長させるために最適な選択肢をフラットに比較できる状況が理想と考えています。
実際、IPOができないからM&A、となるとM&Aの価格も交渉は不利です。もちろん、市況や業界構造次第でIPO前提とM&A前提での価格に差が大き過ぎる場合があり、今のようなタイミングで、その差が縮まることによるスタートアップ業界の健全な発展に繋がる、という面も一定程度はあるはずです。
いずれにしても、市況が2022年に入って落ち込む前から、日米欧中印やイスラエルとの比較感含めて、日本のスタートアップ業界の成長のボトルネックの一つになっていると考えていることがあります。それは、「スタートアップM&Aの規模化と質の向上」です。
私が共同創業した株式会社ファイナンス・プロデュースにおいても、これが今後3年〜5年間は重要なテーマとなると位置付けております。
ここでいうスタートアップM&Aの規模化とは、端的には日米欧中印やイスラエル並み、とまではすぐには達しないまでも、今の日本の平均値よりは大きな規模感でのFair Value (公正な時価)に基づいたM&Aを意味しますが、大雑把に言うと、安過ぎず高過ぎず、です。
また、スタートアップM&Aの質の向上とは、M&A後に事業がさらに成長すること(M&A後のPMIが上手くいくこと、と近い意味)です。
「スタートアップM&Aの規模化と質の向上」が上手く回ると、買い手はGAFAMやSalesforceのように、より高値で買収しても更なる成長に繋がり、売り手となる起業家やVCは、事業を更に成長させるための手段としてIPOとM&Aをよりフラットに比較・選択できるようになるはずです。
次回以降、それぞれの点についてもう少し深掘りして考察してみます。
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