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アカデミックアップデート #18「前十字靭帯再建術に伴う神経可塑性」


序文
前十字靭帯(以下ACL)の損傷を経験した人は、ACL再建術(以下ACLR)や長期のリハビリテーションにもかかわらず再受傷のリスクが大幅に高まります。ACLR後の再受傷率増加の原因として、脳の神経可塑性が注目されています。ACL損傷後の神経可塑性の変化について、感覚―視覚―運動に関連する脳の活性変化の可能性が様々な研究で支持されていますが、これらの変化がACLR、リハビリテーションや競技復帰後にどのように現れるかは明らかになっていません。そのため、リハビリテーション終了後や競技復帰後も再受傷に繋がるバイオメカニクスの欠陥が残るため、脳が膝の動きをどのように生成しているかを理解することは、運動障害が残る理由を理解するのに役立つと思われます。この論文は、ACLRを受けた人の脳の神経可塑性に焦点を当てて健常者との脳活動の違いを明らかにした研究です。

論文概要
背景
ACLの損傷はACLの機械受容器の喪失と神経筋制御の代償による神経可塑性の変化をもたらすと考えられているが、これらの変化は未だに完全には解明されていない。ACL損傷やACLR後に脳の機能を機能的磁気共鳴画像(以下fMRI)で評価することは、この知識のギャップを解消するための手段を提供する。

目的
この論文の目的は、ACLRを受けた者とマッチさせた対照健常者の膝関節屈曲・伸展運動中の脳活動を比較することを目的とした。

方法
左膝ACLRを受けた15名の参加者(術後38.13±27.16ヶ月)と、年齢、性別、身長、体重、利き手足、教育レベル、スポール参加、身体活動レベルでマッチさせた15名の健常者が参加した。fMRIのデータを、膝の屈曲・伸展を非荷重で繰り返す左膝関節運動課題中に取得した。

結果
ACLRを受けた参加者はマッチさせた健常者と比較して、ACLRを受けた膝と反対側(右)の運動皮質、およびACLRを受けた膝と同側(左)の舌状回と第二体性感覚野の活動量増加に加え、同側(左)の運動皮質と小脳虫部の活動量減弱が見られた。

結論
膝の屈曲・伸展運動における脳の活性化はACLR後に変化する可能性がある。ACLR後の脳活性化分析結果は、膝の運動を行う際、感覚運動戦略とは対照的に、視覚運動戦略へとシフトしていることを示している可能性がある。

まとめ
ACL損傷、ACLRそしてリハビリテーションの過程が、感覚―視覚―運動制御に関連する脳の活性変化を引き起こす可能性があります。そしてこの影響は競技復帰した後も残存する事がわかっています。そのため、変化した感覚―視覚系による膝の神経制御戦略は、新しいリハビリテーション・治療的戦略の対象となり得ます。この論文の結果を臨床的に実施する際に注意すべき点は、この研究デザインでは神経可塑性の変化が受傷後いつ起こったのか、また脳の活性変化が受傷前に存在していたのかどうかを判断することはできないことです。臨床家の方々には、このような点を踏まえてACLR患者に対するリハビリテーションを実施する事が重要であると提唱します。

Reference
Grooms DR, Page SJ, Nichols-Larsen DS, Chaudhari AMW, White SE, Onate JA. Neuroplasticity associated with anterior cruciate ligament reconstruction. J of Orthop Sports Phys Ther. 2017;47(3):180-189. doi: 10.2519/jospt.2017.7003.

筆頭著者:姜洋美
編集者:井出智広、岸本康平、柴田大輔、杉本健剛 、高田ジェイソン浩平、高萩真弘、水本健太(五十音順)

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