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DXの道 第10話「事務所内DXチャレンジ(番外編)」

【初出:月刊JASTPRO 2022年10月号(第521号)】

今回は、前後編でご紹介してきた事務所内DXチャレンジの番外編です。ここまで、ずいぶん「ノーコード/ローコードプラットフォーム推し」の内容で展開してきました。しかし、それだけで「ウチのDX(デジタル変革)は大丈夫」というわけではない・・・という点について、少しだけ補足しておきたいと思います。

餅は餅屋

察しの良い方であれば「ああそういうことね」となりそうな、出落ちっぽい見出しをつけてしまいました。つまり、バックオフィスのデジタル化を目指すにあたってはノーコード/ローコードプラットフォームによる内製にこだわりすぎることなく、むしろ標準的にデザインされた外部サービスを導入したほうが良いケースがある、というお話しです。

詳しく見ていきましょう。それは「入出力の結果がほぼ決まっている」ケースです。これに加えて「法令への適時対応が必須となる仕事をシステム化する」のであれば、より当てはまります。具体的な例としては、「労務管理」を挙げることができます。

この仕事には、勤怠記録によって労働時間を管理したり、その記録から給与を計算したり、年次有給休暇などの適切な利用促進をしたり、といったものがあります。従業員の働き方を適切に管理することでパフォーマンスを最大化し、組織活動を円滑に進めるために非常に重要となるバックオフィス業務です。

組織によって、あるいは職位・職種によって、勤怠自体にはさまざまなパターンが存在するでしょう。ただ、労務管理については労働基準法という法律があり、これを遵守することが大前提となります。畢竟、この法律の枠組みの中で従業員の働き方をルール化、システム化していく必要があるわけです。

もちろん、これらの条件を満たすシステムをノーコード/ローコードプラットフォームによって作り上げることも、頑張れば不可能ではありません。ただ、法律的な要件だけではなく将来的な法改正への対応まで視野に入れた場合、工数をかけてまで内製システムとして運用管理していくことは果たして効果的なのか? という問いが生まれてきます。

さらに、労務管理というのはどの組織にも必ず存在する業務です。マーケティング的に言うと組織の数だけカスタマーが存在するという、非常に大きなマーケットです。そのため、労務管理を効率的に行えるサービスをSaas(=Software as a Service、ソフトウェアまで作りこまれたクラウド環境)として提供するプロバイダが多数存在しており、私たちユーザーは自分たちのニーズに合わせて適切なサービスを選ぶことができるようになっています。

労務管理はある意味標準化された業務です。そして、法令遵守だけでなく法改正への対応も含めたサービスを(利用者側で法改正のたびにその内容をしっかり把握して要件に落とし込み、システムや設定を変更することなく)ノーメンテナンスで利用できることには、外部サービスを利用することによってかかる多少の金銭的コストを差し引いても大きな価値があります。従って、こういったケースでは内製にこだわりすぎない方がよさそうだ、というお話しでした。

独自性vs標準化

この考え方をベースにもう少し話を続けます。当協会においては、この経験を通じて外部サービスを利用する業務と内製する業務を一定の基準で区別することにして、それぞれシステム化を進めるようにしています。

この一定の基準とは、

  1. 組織として必要だが標準的な仕組みや手順を利用すれば処理可能なサービスやプロセスについては外部サービスを利用する

  2. 一方、当協会が独自に提供する価値を提供するためのサービスや仕組みについては、内製含む自社開発によってじっくりしっかり作りこむ

というものです。

この考え方をもう少し抽象化すると、「標準的なツールでこなせるものは変に作りこまず、システムに業務をあわせることで協会が費やすリソースを最小化する。その代わり、組織のミッション、ビジョン、バリューを体現するために独自の価値を生み出すための仕組みやシステムにはしっかりとリソースを投入する」ということになります。

ミッション、ビジョン、バリューは似たり寄ったりなのに、組織内の仕組みや手順だけはやりすぎなくらい作りこんでしまう、という真逆をやってしまうことだけは避けたいと考えています。これをやってしまうと「その組織でしか通用しない仕事」が増えてしまい、これからの人材採用や教育に対する大きな支障になるだけでなく、内部人材の市場価値をシュリンクさせることにもつながってしまうからです。

組織の外でも余裕で通用するレベルの市場価値をもった人材が、それでも当協会とその事業に魅力を感じて組織にとどまり、最大限のパフォーマンスを発揮し続けることができる環境。これが理想です。また中で働く人も、内製含む自社開発まで意識したリスキリングに取り組むことで自身の市場価値を高めながらやりがいをもって働くことができ、その結果当協会の事業が発展していくのであれば、これこそまさにWin-Win の状況であると言えるでしょう。

システムづくりからずいぶん大きな話に膨らんでしまいました。しかしながら、これは筆者がCIO職として協会のDXや情報資産の保全などを第一の任務としながらも、全体最適の視点からずっと考え続けていることです。

協会組織と事業のDXは、内部人材のたゆみない価値向上なしに考えることはできません。これだけは絶対に忘れてはいけない視点であることを、自戒も込めてこの機会に記事化させていただいた次第です。(つづく)


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