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JASTPRO DXの道 第5話「コード管理システム刷新プロジェクト(1)理想と現実」

【初出:月刊JASTPRO 2022年5月号(第516号)】

※今回(第5話)より、本連載「DXの道」は、執筆者が当協会庶務室長からCIOに代わっております。


これまで、当協会におけるDX(デジタル変革)に関する考え方や具体的な取組みについて、主にバックオフィスに関わる業務改善を中心にいくつか紹介してきました。ここからは、何回かに分けて当協会DXの本丸と位置づけているJASTPROコード(日本輸出入者標準コード)管理システムの刷新プロジェクトを取り上げ、その七転八倒ぶりをご覧いただこうと思います。 

それでは、ここから時計を少し戻します。まだ筆者が入職していない頃の話なので、協会内での聞き取りやシステム刷新プロジェクトの中で知った事実に基づいて(あたかもその場にいたかのように)再構成しております。


JASTPROコードは、日本の輸出入者を一意に判別可能なコードとして貿易関係者の皆様に親しまれているコードで、1983年より当協会が運用管理を実施してきております(※)。そして、コードの発行や変更・更新管理を行う旧システムは2002年に稼働開始。以来約20年間、オンライン申請への対応やコード桁数の増加・枝番への対応、法人番号情報の追加といった機能拡張を続けながら利用を続けてきました。
(※ JASTPROコードの詳しい歴史は、以下の記事をご覧ください)

コード管理のみを主眼に置いたシステムとしては良好に機能しているものの、専用ネットワークや専用端末によるインフラストラクチャーを前提としたオンプレミス・システムとして設計されており、近年においてはシステムの利活用に柔軟性を欠くケースが目立ってきました。

例えば、専用ネットワークと専用端末は当協会事務所に設置されています。これに加えて「紙ベースの申込書→データ打ち込み」「手数料の銀行振込入金→通帳記帳→目視確認」という業務フローをベースとした設計であったため、コード業務に携わる職員が新型コロナ禍以降に欠かせない働き方となったテレワークを行えません。物理的に1か所でしか業務ができないことは、BCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)の観点からも好ましくないでしょう。

使い勝手の改善やコード情報の分析を行うための設計もされておらず、利便性の拡大や強化に資することもできない状態でした。また、近年利用が急拡大しているクラウドサービスの活用によるコストの大幅な低減や高い柔軟性を知ってしまうと、システム開発業者のデータセンターを間借りしたオンプレミス・システムの運用に必要な維持管理コストにも、割高さが強く感じられてきました。

そこで、こういった問題を解決し、かつコスト削減と柔軟性の強化を目指したシステム刷新計画が2020年冬、およそ1年半前に動き出したというわけです。

残念なことにこの時点において当協会には情報システムを設計開発できる人材こそおりませんでしたが、大切なJASTPROコードを運用管理するシステムの利用者として長年培ってきた経験や知識があります。そこで、まずは協会内で議論を繰り返して「新しいシステムのあるべき姿」を3つのポイントまで絞りこんでみることにしました。

1つ目は、テレワークをはじめとした新しく柔軟な働き方を実現することです。かつて当たり前だった「仕事を進めるには事務所で仕事するしかない」という考え方は、新型コロナ禍を通じて一気に広まったテレワークによってあっさりと崩れ去りました。もちろん物理的な仕事を必要とする場合はその限りではありませんが、当協会のコード事業は本質的にはデータを扱う仕事。仕組みと環境さえ整えればテレワークできないはずがないのです。

2つ目は、このシステムを当協会の事業強化に資するツールとして拡張できる仕組みに改めることです。この時点ではっきりとした将来の姿を描いていたわけではないものの、単なる輸出入者識別コードには留まらない新しい価値をJASTPROコードに付け加えたいという思いがありました。しかしながら当時のシステムではそういった事業強化に伴う柔軟な拡張が難しく(不可能ではないが時間もコストもかかってしまう)、新しい仕組みによってシステムとコード事業、ひいては当協会が一緒に成長できるようにしたい、と考えました。

3つ目は、現在の技術を活用してコスト・パフォーマンスの高いシステム構成とすることです。20年というのは現実世界でも長い時間ですが、ITの世界においてはなおさら。隔世の感は大きなものです。旧システムが稼働したころは大型ホストコンピュータからのダウンサイジングが流行していましたが、気がつけば世の中はクラウドやモバイル、仮想化など新しい要素で溢れ、またその進化の恩恵を受けるためのコストも大きく下がってきています。これを活用しない手はありません。

さて、あるべき姿を描けたら、次はその実現方法を考える必要があります。さすがにこれ以降の過程を独力で行えるはずもなく、プロの手を借りることになりました。とりあえず当時のシステムを開発・運用している業者に相談してみたところ、目玉の飛び出る金額が提示されてきました。今思えばこちらの要望もきっちりとは伝えきれておらず、最大限の見積もりを出さざるを得なかったのであろうと推測できるものの、この時点で当時のシステム開発業者によるシステム刷新はあきらめることになりました。

その後、新たに選定した業者の手を借りてシステムの要件定義を実施。この過程で、その業者から当初提案され、採用を考えていたシステム開発基盤では思ったほどの開発費削減が実現できないことが判明してしまいました。しかしながら、要件定義を進めるうちに当協会が求めるシステムの具体的な姿が少しずつ見えてきました。これならば類似のパッケージシステムの改良で実現できるのではないか。そう考え始めた矢先に、とある会員管理システムを持つ別の業者から想定を大きく下回る、驚異的ともいえる極めて安価な見積もりが出てきたのです。

好事魔多し。先人はなんと含蓄のある言葉を残してくれたのでしょう。しかし、当時はこの言葉が全く思い浮かばず、この提案に飛びついてしまったのです。これが悲劇の始まりであったことは言うまでもありません。


筆者が入職したのは、まさにこのタイミングでした。ですので、ここからは実際に見たこと聞いたこと、そして起きたことです。

「最新テクノロジーを使って柔軟性の高い仕組みを作り、データの利活用で新しい価値を生み出す」ためのシステム刷新。言葉だけなら素晴らしい響きです。DXそのものを体現したようなプロジェクトと言ってもいいでしょう。

もちろん、そんな旨い話があるわけもなく。よく話を聞いてみるとこの時点で嫌な予感しかしません。

まず、安すぎる。この業者はいったいどんな意図でこのプロジェクトを請け負ったのだろう? どう考えてもあとから請求金額が増えるに違いない。もしかしたらベースとなるパッケージシステムがすごく良い仕組みだから安く済むんだろうか。そんなあり得ない期待をしながら調べてみると、今回開発するシステムを構築するために欠かせない仕組みがまったく入っていません。え、どうすんのこれ。その部分、一から作るつもりだろうか。

他の仕様はどうなっているのだろう。確認してみたら、パッケージシステムからのカスタマイズ仕様書はA4用紙1枚だけ。こちらからは以前実施した要件定義書一式を渡しているはずなのに、システム実装計画書は出てきていないんですか。なのにもうプログラミングに入ってしまっている? わかりました、百歩譲って開発に必要なドキュメントがないのであれば、せめて画面と業務の流れを示したイメージ図なり多少の操作ができるようなプロトタイプなりが出てこないと確認もできないのでは。え、そういうのはまだ出来てないからもう少し待て?? いつまで待てばいいの。え、リリース予定の1か月前くらいには用意できる???

ちょっと待って。リリース1か月前にプロトタイプ出してきて、そこから詳細仕様の検討と実装、単体・結合テスト、ユーザー受入試験をして微調整したうえで稼働前の最終テストまで実施するつもりですか。落ち付け俺、そもそものスケジュールはどうなっているんだ。確認してみると、月単位でのタスクがさらさらっと書かれた線表が1枚だけ。

・・・頭がくらくらしてきました。このままでは、悲惨なシステムが出来上がってくる。むしろ出来上がってくれば良い方で、最悪、未完成なシステムを強引に動かしたあげく、現行システムからの移行に失敗してしまう。いわゆる「炎上からのデスマーチ」確定ルートだ。

これは誰も幸せになれない。中止すべきプロジェクトだと、脳内でアラームが鳴り響きました。(次回「艱難汝を玉にす」につづく)

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