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子どもたちは夜と遊ぶ感想文
春休み、たくさん時間があって読み返した。中学生の時に読んで、好きになった本。でも、中学生の私には複雑すぎたし自分が想定していたことが覆されるしで、読み終わってもよくわからなかった。え、浅葱は誰。iは誰。知りたくて知りたくて、ネットの解説やネタバレを読んで、ようやく理解した。
浅葱のとこも狐塚のことも好きだったのを覚えている。2人が出てくる場面を読みたくて読み返したと言ってもいい。やっぱりかっこよかった。私は顔が整っていて、クールな人を好きになる傾向がある。正確に言うと、クールな人が弱っていたり、あたふたしている瞬間を見た時に好きになるのだが。浅葱は私の好みにドンピシャだった。もしかしたら、好きな男の子のタイプは辻村深月と同じかもしれない。狐塚は努力家で、きれいすぎる。でも、他人の気持ちを考えられるし、尊敬できる。恋をする相手は浅葱、尊敬する相手は狐塚。これは中学生の頃から変わっていなかった。
辻村深月の小説の登場人物はみんな魅力的だ。前述した浅葱や狐塚はもちろんだが、月子、秋先生、真紀ちゃん、萩野先輩、そして恭司。最近の私は恭司に影響されて、少し冷めている。もう一度読んで、恭司の温かい部分に影響されたいと思う。
月子は少し、友達付き合いの面では私に似ていると思った。世の中にこういう女子は多いのかもしれない。大学の友達が紫乃、私が月子。例えば、私が地元の友達の話をすると、興味なさそうな態度。私が一通り話終わると(たまに話終わる前に)相槌も打たずに、今度はその子の地元の友だちの話。今年の1月ぐらいから、地元の友だちの話はもちろん、自分の話を控えるようにした。先日読み返した時、月子も同じようにしていて、そして同じようなことを思っていて驚いた。でももっと驚いたのは秋先生の発言だった。大学の友達に何も話さないことで、私はあなたの知らないところで楽しい世界がある、その世界のことなんて教えてやるかと思っていた。でも確かに、何も話さず秘密にしていることで優越感を感じていたのかもしれない。改めて考えるとおかしい関係だと思う。でも、私が話してしまうとわかりやすく微妙な関係になるだろうから、これ以外の接し方がわからない。ああ、私も月子にとっての真紀ちゃんや萩野先輩のような友達が欲しい。
本当に辻村深月は人の感情の描写がうまい。下巻に入ってから浅葱の過去や現在の心境を読み進めていくうちに、その苦しさ、孤独感、健気さがしっかり伝わってきて、私も同じような気持ちにさせられたり、どうして浅葱はこんなに不幸なんだと、苦しい方を選ぶんだと、なんでそんなに悲観的になってしまうんだと、その状況から引っ張り出してやりたいと思ったりした。月子の浅葱への恋心に関しても、そう、そういうところに惹かれるんだよね、と共感した。月子がアサギマダラの写真を飲み込む時、秋先生に死んでしまいますと言われても、それでも飲み込むことを選んだ場面を読んだ時、切なくて切なくて、文字通りその場面を読み進めることができなかった。飲み込みたい気持ちはわかる、でも自分の命に代えても、もう浅葱に会えなくなるとしても、それでも浅葱のために飲み込む月子が可愛くて。この時だけは、浅葱、この野郎、と思った。最後の病院のシーンでは、浅葱は恭司だと名乗って月子に会いに行く。そのことを狐塚に伝えない恭司の優しさに心が温かくなった。ほんとに、恭司と友達になりたい。浅葱は病室を出る時に、もう君には会わないと月子に告げた。これから浅葱はどうするのだろう、どう生きていくのだろうと考えるだけで胸が詰まったように苦しくなった。そして月子が、恭司と名乗る浅葱のことは覚えていないけれど、大切な人なのではないかと思うところ。行ってほしくないと思うところ。浅葱が月子に二度と会わないのは月子のためなんだよと、私に伝える術はないのに、どうしようもなく伝えたくなった。わかってあげて。月子が恋して愛した人はもういないけれど、彼も月子のことが大好きで愛していて、決して不幸なんかじゃなかった。私も彼じゃないけど、読んでいてそれは感じたよ。信じてあげて、と。
そして話の展開において。私は浅葱と狐塚が面談室で話している時、叫びたくなった。それも何度も。一人暮らしのアパートだったから、隣の人に悪いと思って叫べなかったけど。蝶と蝶に寄生する蜂、アサギマダラ、恭司の映画の話、兄弟の名前など書ききれないほどの伏線。この繋がりが、伏線回収がきれいすぎて。変だなと思うことなく読み進めていた自分に腹が立って。変だなと思ってもそれが伏線だと思えなかったことが悔しくて。叫びたかった。中学生のときにこの美しさ、綺麗さに気づけなかった自分が本当に愚かで、読んでいた時間が無駄だったんじゃないかと思えた。そしてまた叫びたくなる。近いうちに、もう一度読み返したいと思うが、この話は重すぎて、この短期間で二回も読むと私の心がもたないだろう。この葛藤に私はまた叫びたくなる。
さらにこの小説には名言が多すぎる。浅葱が月子に教えたクリスマスの必要性、イルミネーションの美しさ、恭司が浅葱に伝えたストッパーになる人の必要性、最後に浅葱が月子の病室を訪ねた時の、もうここには来ない、でもいつでも君を守るからという告白。もうこの文章を打つのも大変だ、それくらいに心を持っていかれる言葉だ。ミステリーのおもしろさ以外にも、実生活でハッとさせられることも多いから、ずっと心に残る話だ。
スピンオフで浅葱の今後の話を読みたいと何度も思ったが、逆に彼がどう生きているのか知らないからこそ、私は浅葱のことが気になるし好きなだろうと思う。浅葱はアサギマダラのように、どこか遠くの地に渡って、生きている、そしてまた、月子に会わなくても、月子の姿を見に帰ってくると思いたい。