名前のない距離
『その役割は僕じゃダメですか?』
『僕があなたを、なんとかしてあげたいんです』
そんな風に誰かに言われたのはいつ振り
だっただろう
きっかけは偶然入った一本の
留守番電話のメッセージだった…
『これを聞いたらすぐに連絡して
ちょっと急いでるねん💦頼む🙏』
とだけ言うとそれはすぐに切れた
そしてその後もその着信は何度も続いた…
心当たりはないけれど、とっても
急いでいる様子がなんだか気の毒に思えて
普段ならこう言う事は、ほっておく私が
間違い電話である事をその人に告げた
『ほんま何回もすみません💦教えてくれて
ありがとございます🙇♀️💦』
そう言うと電話は切れた
なんだか慌ただしくて、思わずクスッと笑って
しまった
『どうしたん?なんかいい事あったん?
ずいぶん楽しそうだね。ママはなんか
良い事でもあったんでちゅかね〜』
と娘に話し掛けるパパをそのまま娘に任せて
夕飯の支度に取り掛かかった
そしてそんなやり取りも、すっかり忘れていた
ある日SMSにメッセージが…
️✉️ 先日は間違い電話をご指摘下さり
ありがとうございました🙇♀️
おかげで本当に助かりました
なんとか間に合う事が出来ました
お礼が遅れてすみません
✉️ 間に合ってよかったです
わざわざご丁寧にありがとうございます
✉️ こちらこそ、ご挨拶が遅くなり
大変申し訳ございませんでした
若そうなのに、ずいぶん丁寧な人だなぁと
留守番電話の声を思い出して、またクスッと
笑ってしまった
すると次の日またSMSにメッセージが…
✉️ 今日はいいお天気ですね
今はお仕事中ですよね?
あの…もしよかったらこれからも
連絡してもいいですか?
✉️ 私はパート主婦です
出会いは全く募集しておりません
すみません🙏
✉️ よかった…僕も全くそんなつもりじゃ
ないんです😅ただ時間のある時に
他愛のない会話があなたとしたいだけです
✉️ 私以外の方で探された方がいいですよ
✉️ いえ、僕の直感は当たるんです
あなたがいいんですけど、ダメですか?
いやいや…なんで?新手の詐欺⁈いやいや
あたしを騙して何の得が🤔なんて事を
考えてるうちに
✉️ 突然すみません…驚きますよね笑
でも僕の勘は当たるので
と書かれた後になんと学生証の写真が
添付されていた…えっ⁈若そうだなとは
思っていたがまさかの大学生だったとは…
いやいやいやそれにしてもなんで学生証⁈
✉️ 失礼かも知れませんが、なんだが母に
似てる気がして勝手に親しみが…
人生の先輩としてぜひとも
友達になって下さい🤝
少し驚いたが、お母さんと聞いてなんとなく
納得が出来た☺️我が家にも同じ年頃の
子供がいるし、そう言う意味では不思議だけど
違和感がなくなっていた
✉️ そう言う事なら…
私でお役に立てる事があるのなら
宜しくお願いします🤝
✉️ こちらこそよろしくお願いします🤝
そしてほんとに最初の宣言通り他愛のない会話
だけのやり取りが続いて、あの間違い電話から
1年が過ぎようとしていた…
でもあの頃と違っていたのは、他愛のない会話の中で互いに普段は隠された本当の自分をさらけ出す話までする様になっていた事だった…そして、それは次第にお互いを知り過ぎてしまうのだった
恋心ではなく、家族の愛でもなく、また
友情とも少し違う…同志の様な気持ちから
不意に彼の口から出たはずのセリフ
『その役割は僕じゃダメですか?』
『僕があなたを、なんとかしてあげたいんです』
彼に何かを背負わせる訳にはいかない
私がこんなにも、彼に会いたいと願ってる事を
知られてはいけない…
私の本当の名前も知らない彼なのだから
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