ちょっとしたイザとコザ
帰宅したら、夫はいつもの少し不機嫌な状態だった。いやだな、と思いつつ明るく接していると、「らら子、灰色のスリッパどこにやった?」と聞いてきた。一瞬ヤバ、と焦ったが、自分がほとんど灰色のスリッパに触れたことがないことに気がつくとそれは怒りに変容した。
また私のせいにしようとしている。
「私灰色のスリッパ使ったことないよ、最後に誰がきた時に使ったっけ?」「俺は知らない」
とりあえず下駄箱の中を確認する。我が家の下駄箱は一番上の段がゲスト用のスリッパ置きになっている。しかし見てみると、一番上には夫の赤いスニーカーが置かれている。そして当然のように灰色のスリッパはそこにはないのだった。
前回灰色のスリッパを使ったの夫のはずだった。私が使う時は水色となんとなく決まっていた。前回人が来たのを思い出すよりも、夫がスリッパを買い換えるまでに代打としてゲスト用スリッパを使用していたことを思い出した。しかしその時水色だったのか灰色だったのか思い出せない。むむむと考えながら家のさまざまなところを探す。
「私は本当に灰色は分かんないなあ」
「俺も分からん、けど俺は使ったものは元に戻す権化だから」権化だから、の続きを言わない。こんな言葉の端々にピクンと反応するのは狭心だろうかと思いつつ捜索を続ける。
前回権化様が履いていたスリッパ、調味料が跳ねてしょんぼりしていたが、水色で目立つからしょんぼりしていたような……。しかし確証はない。ということで残るは……
「あなたの赤いスニーカー、なんで上の段にあるの?」
「分からんけど、関係ないんじゃないかな」
「いや、靴増えてきたから一個だけ残しとくか、とかあり得るとおもって」
そう言うや否や、「その可能性ある!その可能性はあるぞ!」と言いながら自分のクローゼットを探し始めた。私が言うまで探してなかっただろうなと思いつつ私も探し回ったが、結局見つからなかった。もし夫の部屋から出てきた際には権化様と煽り散らしてやる。