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いくら体幹が強くてもサッカーで通用しない理由

戦術動作アプローチのプロセスはあらゆる競技の指導者にとって『フィジカルの取り扱いマップ』としての活用が可能であるが、その必要性が最も高くなるのが複雑な構造を持っている競技である。

【戦術動作の位置付け】
指揮官視点:フィジカルの取り扱いマップ(戦術実行ベクトルに載せる装置)
フィジカル視点:フィジカルの知識やスキルのポテンシャルを引き出す”縛り”

なので誰よりも速く走る、遠くに投げる、などのシンプルな構造を持つ競技だと、戦術よりも身体能力の重要度の方が明らかに高い。d
サッカーは考え得る中で最高度に複雑度が高く、それゆえ戦術動作の重要度が非常に高い。裏を返すと「フィジカル面の強化」がその試合で有効なパフォーマンス向上のベクトルから外れる可能性が高い競技とも言える。

戦術動作アプローチは、戦術実行の重要度が高い競技でのフィジカル領域において非常に重要な役割を果たす。
今回はなぜサッカーを対象競技に選んだのかも含めて戦術動作によって得られる作用について書こうと思う。



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自由度が高いすなわち複雑

サッカーは明らかに複雑系システムである。
複雑系システムを戦術動作の学習プログラムの対象とすることは私にとって非常に重要であったし、日本のフィジカル分野にとっても非常に重要なことだと確信している。(要素還元主義的なトレーニングの考え方に違和感を持ってそれを解決すべき考え方をフィジカルの立場から訴えてきた故)


11人対11人で縦105m×横68mの(他のスポーツと比して)かなり巨大な空間で、これまたターゲットとしてはかなり大きな2.44m×7.32mのゴールを”球体”で狙う。ラグビーやバスケと違いサッカーのボール保持時間などの制約がない。

これらの構成要素の組み合わせからみて、サッカーはかなり自由度が高い。
他のどの競技よりも自由度が高い。すなわち色んなことが起こる余地が、かなりある。
手を使ってはいけないというのが唯一と言ってもいいかもしれない大きな制約。ただしこれも複雑さを増すための装置となっている。手でボールを操作できることはかなり確実性を増す。

次に何をするのかは、自由。敢えて何もしないことすら許されている(だから『意志』が影響を与える割合も非常に高い)。
攻撃と守備の局面も、他の競技よりも明らかに境界が曖昧だ(野球でグローブを持って攻撃する選手はいない)。
特に近年は、攻撃と防御の同時実行度合いが高くなってきている。単に動きの高速化ではない。
意識や認識、意志のレベルで同時実行が求められてきている。守りながら攻める、攻めながら守る。攻撃のための守備、守備のための攻撃。(だから当然求められる動きの構造も変化している)
それは格闘技ほど完全に同時でないにせよ、時間的にどんどん速くなり今後ある局面ではかなり同時に近づく場面が増えてくると思われる。



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再現性の要求が少ない競技だからこそ再現性を持つ部分の重要性が高い

これらを踏まえると、サッカーでは同じ状況や同じ動きが”再現”される確率はどう見積もっても小さいと言える。
そのようにデザインされた競技とも言える。見る者も闘う者もその誰もが飽きることができないデザイン。
そのような複雑で再現性の要求が少ない競技だからこそ再現性を持つべき部分の重要性は高い。身体操作でいうとサッカーの動きなら一定の範囲内で頻繁に使う動きのことである。
F・ボッシュでいうところの『アトラクター』をより緻密に選別し精緻化していく作業と表現してもいいかもしれない。(感覚的にはJ・ギブソンの『インバリアント』)


サッカーという複雑なシステムから『必須事項』を見出して体系化していく作業は、野球しか競技経験のない私にとってどう考えてもあらゆる面で宝の山だし、エコロジカルアプローチなどサッカーを複雑性システムとして扱う近年のスタイルは私にとってそもそも違和感のないものだからだ。(ただしこれは欧州での傾向の話かもしれないが…)

サッカー発祥文化圏である欧州と日本では明らかにサッカーにおける前提条件が異なる。日本文化も日本社会もサッカーにはそもそもフィットしにくい。



以上の理由と、あとは制約が少ないからこそ生じる面白さ(複雑さ)との対峙が私にとってとにかく楽しいと思えるのでサッカーを戦術動作アプローチの対象競技に選んだ。



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複雑系システム内のパーツとしての指揮官

複雑だからこそ、指揮官の能力は重要だ。
その状況で次に何をするのかを厳しく限定していくのか、それとも自由にするのか、それとも『気づかせる』『引き出す』のか。
指揮官の関わり方次第で、可能性は抑えられるし、せっかくの練習が試合で”使えない”という努力と成果のギャップを恒常化させてしまう。

複雑系システム内では、練習やトレーニングと実際の試合の間に存在する”違い”をいかに扱うかによって努力と成果のギャップが変化する。扱い方を間違えるとそのギャップは非常に大きくなる。

このような前提においても、勝ち続けるにはそれらを踏まえた上での戦術(ゲームモデルやプレー原則も含めた)は不可欠だし、自由だからこそ戦術で差がつく。
(真っ直ぐに全員が同じ距離を進むことだけが許されるような)制約の多い競技での「戦術の重要度」は相対的に低い。



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「そのトレーニングは俺の戦術に必要な動きにつながるのか?」

戦術で差がつく以上、同じく戦術を持った相手との間でどれだけ自分の戦術を実行できる度合いを上げられるかが勝負の分かれ目である。
もちろんその戦術が優秀(実現できれば勝てる)であることが大前提だが、戦術の実行レベルは確実に勝負に影響を与える。
戦術が実行されなかった時、その原因を明確にできなければチームの成長に影響を与える。

戦術への理解の度合いなど、その実行を決定づける要因は大きく分けて8つある。
そのうちの1つは間違いなく身体操作能力である。
戦術の実行にはそれをなすための”必須”となる動き方。サッカーという全体構造の中で要求されるパフォーマンスパターンである。(私はそれを『戦術動作』と名付けた)


それができなければ、”いくら体幹が強くても”、戦術に必要な動きはできない。
それを知らなければ、なぜ戦術が実行されないかを突き止められない。


そういう意味では、指揮官は自分の戦術の実現に必要な動きを知っている必要があるし、”フィジカル”トレーニングが戦術動作を習得または増強するベクトルと合致しているかを理解できる必要がある。
トレーニングを考案できなくてもいいし、指導しなくてもいい。
ただ”専門家”に問うことができればいい。
「そのトレーニングはおれの戦術に必要なこの動きにつながるのか?」と。




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サッカー戦術動作アプローチ

https://jarta.jp/soccer-approach/https://jarta.jp/soccer-approach/
チームとして実現すべき戦術を実行するための動作構造を『戦術動作』と名づけ、戦術動作の理解を通して戦術実行レベルの向上につなげるための学習プログラム。
トレーニングの方法はほぼ出てこない。
指導者は、選手を守るために、選手の努力を守るために、”専門家”以上にあなたの戦術における身体の動きの構造に詳しくなる決意をしなければならない。
これはサッカー指導者のための『フィジカル取り扱いマップ』である。

次回はフィジカルトレーニングを信用してはいけない理由について。





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全てはパフォーマンスアップのために。



中野 崇 
YouTube :Training Lounge|”上手くなる能力”を向上
Instagram:https://www.instagram.com/tak.nakano/
Twitter:https://twitter.com/nakanobodysync

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1980年生
戦術動作コーチ/フィジカルコーチ/スポーツトレーナー/理学療法士
JARTA 代表
プロアスリートを中心に多種目のトレーニング指導を担う
イタリアAPFトレーナー協会講師
ブラインドサッカー日本代表戦術動作コーチ|2022-
ブラインドサッカー日本代表フィジカルコーチ|2017-2021
株式会社JARTA international 代表取締役

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