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フィジカルブラックボックス


戦術動作とは、戦術を実行するために必要となる動作能力のことである。
単なる身体能力ではなく、戦術の実行という優先順位の中で要求される動作を指す。
非常にシンプルだが、この知識に欠けると「なぜ戦術が実行できないのか」の分析に大きな欠落が生じる。

例えば急減速能力が不足(相手に劣る)しているだけで”急減速が関与する戦術”の実行レベルは低下する。

■サッカーにおける減速能力が不足する影響例
止まるべき場所、止まるべきタイミングで止まれない。
止まった後の加速が遅い。(どのような状態で止まるのか)
止まった時にボールを受けるのに適した体勢になれない。
減速能力が低いと加速能力に影響する。(陸上スプリントとは異なる)



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戦術実行の8要因

戦術動作の生命線となる身体操作は、『戦術実行レベルを決定づける8要因』のうちの一つと位置付けている。
戦術実行の8要因
とは、戦術が実行される度合いに影響を与える要因を私が8つに大別したものである。(戦術動作アプローチの講義内で公開する)

8要因には例えば『戦術の理解』がある。この点については当たり前すぎて理由は書く必要も感じないが、身体操作も同レベルに重要な要因と言える。

現状、いわゆる”フィジカル”はある意味でチームの勝利から見るとやや”遠い”位置関係にある。
そんなことはないと言いたい人も多いと思うが、ではチームの戦術練習とフィジカルトレーニングはどちらが勝利に近いだろうか。
チームの勝利と試合での戦術の実現は深い関係にある以上、チームとしては戦術の実現に近い関係にあるタスク順に重きを置く。


そんな構図の中で、フィジカルは大事だけれど本当のところはブラックボックスである(繋がりが説明できない)というのが日本のサッカーチームでの基本的なフィジカルの位置付けではなかろうか。

なぜ”体幹を強化”するトレーニングがチームの勝利に結びつくのかを、ブラックボックス的な曖昧さを残さずに理路整然と語れるフィジカルコーチはどれぐらいいるだろうか。



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フィジカルの価値

ここからはフィジカル分野の方々に向けて。
フィジカル分野の役割はなんだろうか?

怪我しない身体作り。
強化。体格の向上。
コンディション向上。
疲労回復。
”パフォーマンスアップ”

それぞれ不可欠なものである。
研究は進み方法としてのレベルはどんどん高度化しているし実現度合いも向上している(と願いたい)。


しかし、
それらを向上さえすれば、成功だと考えていないか。
それらを向上さえすれば、チームにおけるフィジカルの価値が上がると考えていないか。
多くの場合、これらを成し遂げたとしてもそれは既に『当たり前』の範囲を超えられない。
これらはそもそもフィジカル分野に期待されている最低ラインである。
そして他の分野と同様にテクノロジーの発展によってフィジカル担当者が”あなたでないといけない理由”はどんどん減っている。
選手やチームにとって、フィジカル担当者があなたでないといけない理由をどれだけ列挙できるだろうか。
この先もあなたでないといけない理由をどれだけ挙げられるだろうか。
あなたの価値ひいてはフィジカル分野の価値を上げるという観点から考えるとフィジカルはどういう方向に発展していくべきだろうか。



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”パーツ”の暴走とナビゲーションの再設定

私の尊敬する人物は言った。

「認識する範囲を広げろ」

先ほど挙げたフィジカルの役割は、全て「フィジカルという既存の枠の中」での発想であり認識だ。
パーツの枠の中にいる者が全体とのつながりを考慮せずパーツの必要性を叫ぶことを『パーツの暴走』という。と決めた。

フィジカルはパフォーマンスを向上するための手段である。
ただし「競技の中で有効なフィジカル特性」を獲得できなければその“シックスパック”は無意味だ。
これはつまりフィジカルがその競技全体の構造におけるパーツとして位置づけることで初めて機能できることを意味する。
全体とのつながりを無視したフィジカルは“肉体改造の失敗”という悲劇を生んできた。



スポーツのパフォーマンスは、常に全体からパーツ。常に全体との関係を前提として存在する。
サッカーが存在しなければ、サッカーのためのフィジカルは存在できない。
競技全体における必要性から、パーツである「フィジカル」を捉えなければならない。そういう認識の展開をしなければならない。

サッカーという競技全体から捉えるとそこに設定される第一優先事項は、勝利である。
勝利を目指す、勝利の確率を上げるというベクトルを持った全体構造の中で今のスタンダードなフィジカルがどの位置に存在するのか。どれだけ近い関係にいると言えるだろうか。

この問いに対してやるべきことは、やはり全体(サッカー)からパーツ(フィジカル)を捉えなおしてフィジカルに至るまでのナビゲーションを再設定することである。

非常に大まかにだけ手順を提示すると、
サッカーにおける勝利の条件要素の抽出(サッカーにおける勝利の構造)する。
条件要素からそのチームにおける優先順位をつける。
それらにフィジカルが関与する部分を割り出す。
ここまで出された要素が相互にどのように関与し合うのかを考える。(階層化)
勝利を目指す集団においてフィジカルを担う場合、まずこれをやらなければ、”パーツ”が一人歩きする。(パーソナルでも同様だが)

*詳細は戦術動作アプローチの講義に譲る。


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『システム全体におけるパーツとして』のフィジカルの役割

このプロセスを辿るだけでもすぐに気づくはずだが、実は勝利の条件要素の大半にフィジカルが関与する。
これはすなわちフィジカルがそれだけ勝利に影響するということを意味している。

それにも関わらず”フィジカル強化”が勝利に結びついていないチームは、フィジカルの強化ベクトルと戦術との繋がりが乖離していることが疑われる。

勝利を実現する条件を紐解くためのナビゲーションを再設定することで、フィジカルはそのチームの勝利に本当に重要かつ不可欠な位置付けに必ず変わっていく。
そんな実感がないのは、監督からそんな期待をされていないのは、やはり「フィジカルが勝利にどう繋がっているのか」が不明瞭だからだ。フィジカルの目標が常に抽象的だからだ。勝利にもっと影響できるために足りていないことがあるからだ。


それを深く検証することなく、すなわち「システム全体におけるパーツとしてのフィジカルの役割」を深く検証することなく(ブラックボックスを残したまま)フィジカルの正当性や必要性を主張することは、『パーツの暴走』である。


勝利の構造のパーツとしてフィジカルの位置付けを考えた時に必ず出てくるのが『戦術と選手の動きのギャップ』である。
運動学習や物理学、解剖学などあらゆるものを用いてこのギャップを埋めていく必要がある。



戦術動作インスタ/note用.002


サッカー戦術動作アプローチ

https://jarta.jp/soccer-approach/https://jarta.jp/soccer-approach/
チームとして実現すべき戦術を実行するための動作構造を『戦術動作』と名づけ、戦術動作の理解を通して戦術実行レベルの向上につなげるための学習プログラム。
トレーニングの方法はほぼ出てこないが、必ずフィジカル分野の『価値』を上げられる。

あくまでも指導者向けに作った内容だが、フィジカル分野の人にとってはもっと重要度が高いかもしれない。
なぜなら指導者側がサッカーの競技構造という全体の中のパーツとしてフィジカルを捉え、その前提でフィジカル分野の人に要求してくるからだ。
「俺の戦術を実行するにはこの動きが必要だ。そのトレーニングでその動きは本当に試合で出せるのか?」と。
*受講される方は運動学習系統の学習(エコロジカルアプローチやディファレンシャルラーニングなど)を進めておくと理解が深まると思います

次回は『戦術動作の対象競技をサッカーにした理由』





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全てはパフォーマンスアップのために。



中野 崇 
YouTube :Training Lounge|”上手くなる能力”を向上
Instagram:https://www.instagram.com/tak.nakano/
Twitter:https://twitter.com/nakanobodysync

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1980年生
戦術動作コーチ/フィジカルコーチ/スポーツトレーナー/理学療法士
JARTA 代表
プロアスリートを中心に多種目のトレーニング指導を担う
イタリアAPFトレーナー協会講師
ブラインドサッカー日本代表 戦術動作コーチ|2022-
ブラインドサッカー日本代表 フィジカルコーチ|2017-2021
株式会社JARTA international 代表取締役

JARTA
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