公式戦でだけ足が攣る問題
サッカー戦術動作アプローチでは、受講中の方に対して講義内容及び動作に関する質問を随時受け付けている。
多くの場合その内容は指導者または選手たちに共有すべきものとなるため、回答はこのnoteにて記載することとしている。
今回は足が攣るという問題について質問をいただいた。
一般的な対策に関しては今やネットでも取得できるが、フィジカルコーチがいるようなチームであれば多くの場合一般的な対策はなされていることが多く、”それでも”足が攣る問題が生じていることが今回の質問内容のポイントだと思う。
プロチームでも同じような構図は多く、今回のような問題を抱えて私の元に相談にくるプロ選手は多い。
そういった観点も踏まえて、一般的な対策は最小限にとどめつつ、以下にチェックすべきポイントを記載する。
ただし十分なエビデンスを前提としない、私の経験則であるものも含まれることをご承知の上で試していただければ。
【重要な前提条件】
こういった問題への対処策を考える際、必ず攣ることに影響を与えている可能性のある要素を出来るだけ多くピックアップすることが重要である。
私の場合であれば、以下のようにピックアップし、それぞれの要素における問題の有無を確認していく。
いずれにせよ、攣っているのがふくらはぎの筋肉である以上、最終的に問題を起こしているのはふくらはぎの筋肉である。当たり前のことだが、このことは常に頭に置いておく必要がある。
つまり普段からふくらはぎの筋肉の状態(血流が良く筋肉が柔らかい状態)を良好に保つという条件は、どんな原因があろうとも常に保持される条件であるということだ。
一方で、ふくらはぎの筋肉に攣る条件を生み出している”原因”を解消しなければ攣るという結果は常に生じる。
そういう理由から、ふくらはぎが攣るという問題を含む多くの身体のトラブルは、原因と結果の両方に同時並行的に対処しなければならない。
チェックすべき原因候補
■ピッチサーフェスの変化
普段の練習環境が土であり、公式戦が天然/人工芝。そしてその公式戦で足が攣る。
この前提から確認すべきは、サーフェスの違いによる摩擦(踏ん張り具合)の差異である。
①練習環境(土)の方が滑る場合:
芝環境における摩擦の大きさ(踏ん張りやすさ)が、踏ん張りの増大によるふくらはぎへの負荷を上げている可能性。
②公式戦(芝)の方が滑る場合:
普段よりも滑る感覚が過剰な緊張を誘発している可能性。
■水分不足およびマグネシウム不足など栄養素の問題
栄養に関しては専門外なので割愛するが、一点だけ気をつけるべきポイントとしては、摂取量=吸収量ではないということ。
ストレスや疲労などで消化器系の働きが低下していれば吸収量は低下する。
*マグネシウムは筋の収縮弛緩のセンサーである筋紡錘の機能と関連が深い
■試合に至るまでのコンディション(疲労度、メンタル面)
試合時のコンディションは多かれ少なかれ試合ごとに差異がある。
特に疲労度や精神面の変化は、動き方に影響を与えるため要注意。
筋の疲労度は、基本的には柔軟性に現れやすいため、試合前の柔軟性はチェックしておくと良い。圧痛有無のチェックも当然のこととして。
特に重要な部位は、ふくらはぎ・ハムスト・大臀筋・足趾を含む足裏。
ふくらはぎ以外の部位は、働きが低下するとふくらはぎに直接的に負荷が増える部位。
精神面の影響は、いわゆる”落ちている状態”や不安や悩みの有無に特に注意を。
これらは下向きの意識を生じやすく(視線や胸が上を向きにくい)、『低重心モード』を増長する。そうなると腰は落ちやすく、相対的にふくらはぎへの負荷は増大する。ほんの僅かな低重心シフトであっても、試合中の歩数を考えると軽視できない。
■部位と動きと負荷の関係
サッカーの動きの中で、ふくらはぎへの負荷が増大する動きには一定のパターンがある。
それは主に2つ。腰が落ちることと『協力者』が減ることだ。
腰が落ちる動きを繰り返すと、その結果起こることはホットゾーン(ハムスト上部+大臀筋下部;講義#6参照)の働く比率が低下する現象である。
腰を落とすとホットゾーンは非常に使いづらい位置関係になりやすい。
その代わりに使いやすくなるのが前モモと外モモとふくらはぎだ。(あとハムスト下部も)
だから腰が落ちるクセを持っている、または普段より腰を落とす頻度が多くなってしまった場合は、ふくらはぎのみならず前モモや外モモの疲労もかなりのものとなっていることが想定される。
同じ体重を支え移動する運動において、どの筋肉をどの比率で働かせるかは、いわゆる動きの質と言える。
同じスピードで同じ距離を進んでも、使う部位の比率が異なれば、負荷が集まる部位も異なる。
ホットゾーンの比率が落ちることでこの比率は必然的にふくらはぎに集まる。ふくらはぎは地面と足部の関係を介して”強制的に”働かされる部位だからだ。
重心位置や上半身操作(特に肩甲骨ー腕)などの『協力者』の動員具合によってもさらに大きく変わる。
私がこれまでしつこく言い続けてきた『協力者』という表現は、何に対して協力するかというと非常に簡単に表現するとそれは脚の動きだ。
上半身の位置や腕振りの質によって下半身の負荷は大きく変化する。
腕組みして背中を丸め続けて(または反り続けて)サッカーをすれば感覚的にも理解していただけると思う。
■”公式戦で”足が攣る
実はこれはプロ選手でも非常に多い。
練習やTRMではフルで動けるにもかかわらず、”公式戦でだけ”攣る現象が起こる問題。
普段から攣りやすい選手(そもそもの筋機能や動き方に問題が想定される)とは分けて考えるべき部分である。
つまり公式戦とTRMの間にある違いが、攣る現象に関与していることを意味している。
*けれど結果として問題を起こしているのは筋であることは忘れてはならない
この点に関しては、いわゆる一般的なエビデンスベースでは解決できなかった問題であるため、エビデンスがないと許せない人はここで離脱していただければ。
私の解釈は以下の通り。
結論からいうと、公式戦というトリガーによって低重心モードがかなり増長されている。
公式戦=失敗できない環境(リラックスしにくい)で、必要以上に”丁寧に”、または”気合を入れて”やると『低重心モード』にスイッチが入りやすい。
低重心モードにスイッチが入った選手は、ことあるごとに重心を落として”しっかり安定”しようとする。(自覚なくやっていることが大半である)
このことが上記のようなホットゾーン不足&協力者不足の状態を引き起こすことは容易に想像がつくと思う。
公式戦のような、放っておいても低重心モードが引き起こされやすい設定下においては、より心身の高重心モードを作ることの重要性が高まる。
■対策
対策①
お腹(特にヘソ下)をほぐす。ほぐしまくる。
普段からやっている人は、もっと奥まで。
これで足が攣る問題をクリアした選手は多数いる。
しかしながらこちらも『エビデンスとしては弱いが結果としてはとても良い』という部分に該当するので、やるかどうかは自己判断。
方法はオーソドックスなものにはなるが、下記YouTubeをご参照いただきたい。
試合前に限らず、普段からサッカーをする前は必ず固さを解消することを最低ラインにすることを推奨。
https://www.youtube.com/watch?v=pstqIJoTv_o&t=6s
ポイントとしては、なるべく深いところまでほぐすこと。
それから腹式呼吸で十分すぎるぐらい指を押し返せること。
対策②
普段から筋の状態を良くし続ける。
特に血流と筋の柔らかさ(圧痛なし)は重要な指標。
やり方はこちら。
https://youtu.be/vtETeKXqoQ0
対策③
ホットゾーンを使えるように+上半身操作レベルアップ(つまり身体操作トレーニング)。
モモ裏上部に関しては下記の2種類がおすすめ。
①https://youtu.be/qrLc_9PBCr8
上半身操作に関しては、オンラインセミナーの『サッカー上半身操作・トレーニング編』をご参照。
今回は以上となります。
もちろん選手を直接チェックしていないので、あくまでもチェックするならここ、という範疇には留まりますが、少しでも役に立てば嬉しいです。
試合中に攣った選手を早くリカバリーするには上記対策②の中にある足趾ほぐしの方法が有効なのでそちらも試してみてください。
サッカー戦術動作アプローチ
https://jarta.jp/soccer-approach/https://jarta.jp/soccer-approach/
チームとして実現すべき戦術を実行するための動作構造を『戦術動作』と名づけ、戦術動作の理解を通して戦術実行レベルの向上につなげるための学習プログラム。トレーニングの方法はほぼ出てこない。大半の人が方法を求める風潮の中、どれだけこの意味が理解されるのか分からないが。。
指導者は、選手を守るために、選手の努力を守るために、”専門家”以上にあなたの戦術における身体の動きの構造に詳しくなる決意をしなければならない。
全てはパフォーマンスアップのために。
*
中野 崇
YouTube :Training Lounge|”上手くなる能力”を向上
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Twitter:https://twitter.com/nakanobodysync
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