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広いパシフィック

太鼓の音で目が覚める。和太鼓とは異なり、高く短いテンポの音。お祭りかと思い、支度をして散歩がてら音の方向に向かってみる。

公園に向かって車が並んでいる様子からどうやら会場は公園のようだ。ラグビー場がいくつもある公園なので近所のラグビーの大会であることは間違いなさそう。

音の正体はやはり太鼓だった。そして数々の旗がなびいている。祖父母の壁にあった世界地図にはなかったのか馴染みの薄い、新しく色鮮やかな国旗。太平洋諸島の国旗だ。

まるでオリンピックのように胸を張って子どもや若い男女の青年が行進している。大会の幕開けのようだ。

今日は太平洋を意味するパシフィックの大会だった。

太平洋諸島という括りの大会。東アジアもヨーロッパもアラビア半島も争いばかりで日常会話の中にもそういった話題が出てくると辟易とする中、広大なエリアを共同体として大会ができることに、少し羨ましく感じた。会場では大音量でレゲエがかかる。レゲエは、テンポも好きだが、歌詞が基本的にラブアンドピースだから良い。

地図をみてみると改めて多様である。太平洋戦争というように日本はこの島々といろんな歴史がある。いつか家族と一つの「正しさ」を探すのではなく、色々な角度からこの地域を自分たちの目でみて時間の経過を感じてみたいなぁと思う。自分の祖父兄の人生とも関係があるし。

芝生に座って、太陽の光を吸収しながらそんなことを考えていると選手たちがグランドに集まってきた。試合開始かな?と思うとアナウンスが流れる。

「トンガウォリアー、3番コートに急いでください。もうすぐ試合開始です。試合開始は9時半からです。他の選手も急いでください。」

時間通りに大会を進めたい司会側の焦りが感じ取れるアナウンス。やんちゃそうなおにーちゃん達がゆっくりと歩いていくと時間が9時半に。

「試合開始時間になりました。それでは、レフ・・・」

「ウオォー!!」「いやアー!」

「・・・ハカが始まっちゃった。・・・OK。ハカが終わったらそれぞれ試合を開始してください」

ため息混じりの諦めアナウンス流れた。そして9個あるグランドでそれぞれ、戦いの儀式でもあるハカが始まる。6歳くらいの子どものチーム。女性チーム。男子チーム。

初めての生でみたハカは地元の青年子供達によるものだった。プロラグビー選手のものは見たことがないが、純粋な祖先から引き継がれている文化の結晶のようで美しかった。一所懸命な若者の眼差しは、感動するものがある。特に女性チームのハカには神々しい迫力があった。男子の血気盛んな勇ましいハカとはまた異なり、女子のハカには馬の嘶きや鳥の鳴き声のような声に生命力を感じる。

見事なハカの後にはガンガンのボディコンタクト。目の前で激しく体同士がぶつかるたびに小声で「ウッ」と言いながら見ていると気づいたら試合終了。チームごとに所属の島が違い、それぞれのハカのやり方があるのか、そもそもハカも多様みたいなので面白い。

あっという間に昼過ぎ。小腹が減ったので屋台エリアに行くと、中には太平洋諸島のジュースや料理を出しているお店もある。所持金少なく、パッと見た感じ油でやられそうだったので今回は食べなかったが、太平洋諸島の文化には沸々と興味が湧いてくる。

青空にレゲエの音が鳴り響く。この風と音と太陽の光、家族で感じたいなぁ。ちょっとホームシックの波がくる。