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ロングゲームの中のショートゲーム

かつて、故中部銀次郎が喝破したように「あらゆるレベルのゴルファーにとって、最も重要なショットはアプローチである」という言葉は真理であると、つくづく思う今日このごろ。引用:中部銀次郎 ゴルフの神髄 新編 もっと深く、もっと楽しく(日系ビジネス文庫)

ティーショットが曲がるならば短いクラブに持ち替えれば回避できるし、グリーンまで距離がたっぷり残ってしまったとしても短いクラブで刻むことができる。しかし、グリーンまで残り100ヤードとなってしまったら、もう逃げ道はない。なんとしてでもグリーンにのせなければならない。それがプレッシャーとなって重くのしかかる。

ゴルフについて書かれた海外の文章を読んでいると、どうもアプローチというのはグリーンを目がけて放つショットであり、たとえ250ヤード残っていてもフェアウェイウッドでグリーンを狙うのならばそれはアプローチショットというらしい。そして、100ヤード以内のショットは(必然的にグリーンを狙うことが多いだろうが)ショートゲームと区別しているので、後であげる理由もあって、ここではアプローチではなくショートゲームと言うようにする。

で、このショートゲームが、我々初級者にとって最大の落とし穴であることも、たぶん皆様頷いていただけるのではないだろうか。およそゴルフを少しでもかじった者であれば、必ず惨めで哀れなショートゲームのミスの一つや二つ、いや二十や三十は深く記憶に刻まれているものである。

私もつい最近のラウンドで、大変恥ずかしい思いをした。その日はショットのフックをショートゲームでリカバリーする展開だったが、18番ホールではたまたまティーショットとセカンドのつながりがよく、砲台グリーンスロープから登りのライン、残り20ヤードにパーオンがかかるチップを打とうとした時、その日(も)ショートゲームで四苦八苦していた超初心者のAくんから、どのように打つのか質問を受けた。

実は質問されたことが嬉しくて、なんてことはないさ、と態度を作りつつ内心鼻高々にニヤけながらチップ打ち方の解説をする。ここはね、ダフりもトップも禁物だから、頭を動かさないように、右手首の角度が変わらないように、単純に1,2で体を回してボールを運ぶんだよ、などと能書きを垂れて打った結果はご想像のとおり鬼ダフりでボールは2,3ヤード弱々しく飛んでべちゃりと芝にひっついた。池に囲まれたこのグリーン周りは湿ってぬかるんでいて、バンスを滑らせる打ち方はめちゃくちゃ難しいことにやっと気づいたが時すでに遅し。礼儀正しい表情を保つA君の胸中はわからないけれど、オジさんの伸びた鼻はバッキバキにへし折れた。次打をなんとか9Iのパター打ちで乗せることができたが、慰めにならない。

私はわりとショートゲームの練習が好きで、特に行きつけの練習場は25ヤードくらいの芝生練習場が併設されているので、夏冬問わずそこで練習している。おかげでショートゲームはそこそこ上達し、グリーン周りまで運ぶことができれば、先のトホホな事例はさておきグリーンには乗せることができるし、簡単なライであればそこそこ寄せられるようになった。この練習がスコアの向上に果たした役割は本当に大きく、それが90切りの原動力となったことは間違いない。

しかし、実はショートゲーム技術の効用はそれだけではないことに、最近気づいたのである。それはひとつ、中部氏も(多分)言及されたことの無い、ゴルフの奥義であると私は思う。むちゃくちゃ前置きが長かったが、それが今回のテーマである。その奥義を一言でいうと、それは「ゴルフはロングゲームの中にショートゲームが隠れている」ということである。

どのような上級者であっても、ましてや普通のゴルファーであればなおさら、ティーショットがトラブルにつながるケースは多い。林の中に打ち込んだり、木が邪魔になったり、急斜面にボールが止まったり、深いラフやグラスバンカーにつかまるのは、日常である。いや、フェアウェイであってもうねりがあれば、それだけで打ちづらいシチュエーションになったりもするのも茶飯事だ。そんな時に、いかに確実にトラブルから一打で脱出し、打ちやすいライへ復帰できるかは、スコアメイクに直結する。

ここで、ショートゲームに少しでもスキルを持っているといないとでは、雲泥の差だ。
林から脱出したはいいが、打ち過ぎて反対側のラフまでいってしまうのと、きちんとフェアウェイの平らな場所に球を止められるのでは、プレッシャーはまるで異なり、確率的に結果も違うはずだ。

こうしたリカバリーショットで、転がすにせよあげるにせよ、自分の止めたいところに球を止めるのは、ショートゲームそのものである。ショートゲームの技術は、なにもグリーンに乗せる時だけに使うものではなく、ロングゲームの中には時としてショートゲームが織り込まれる。もしかすると、グリーンを狙わない、すなわちアプローチしないショートゲームの数は意外なほど多い気がする。だからこそ、ショートゲームは鍛えておいて損どころか得しかないのである。

さて、ショートゲームの練習を積んで、技術がそこそこ身についてきたとしよう。この際、ひとつ注意しないといけないのは、自分が思ったよりも正確に打ててしまうことだ。

最近のラウンドで、ティーショットのボールが右の斜面に止まったため、ショートゲームで100ヤードほどフェアウェイに戻そうと考えた。目標物としてフェアウェイ中央にある排水口に狙いを定めてスパッと打ったら、狙い過たず排水口の鉄のフタを直撃してボールは大きく左に跳ね、まさかのカート道でさらに高く弾み、左の崖下に消えていった。もちろんセカンドOBである。普段は、ターゲットには絶対に飛んでくれないのに、プレッシャー無く打てるショートゲームは、自分の思った以上に正確になるものだ、と覚えておこう。同じように、FWで林の中から低い球で出すときも、上手に打て過ぎることがままある。とはいえ、これらはデメリットであるとはいえないだろう。ありのままの自分のショット力を知っていれば調整できるはずである。

かくして、ロングゲームの中にあるショートゲームの重要性に気づいた私は今、バッグの14本からパター・ウェッジ3本を除いた10本全てで100yrdキャリーを打つ練習に取り組んでいる。考え方としては、それらの弾道とランを覚えておいてコースでショーゲーム+αの武器として使おうというもの。例えば、林の中から5Wで低く出してその先のフェアウェイバンカーを越えることができれば、あるいは目の前に垂れ下がる木の枝の先に横切るクリークを1Wで越えてランを稼ぐことができれば、はたまた風の強い日に6Iの低い球で転がすことができれば、また新たなスコアの世界が見えてくるかもしれない。

このアイデアが良いのか悪いのか、正直、今はわからない。が、こうして自分で考えてアイデアを出して、練習して、検証し、そして成功したときの喜びこそ、ゴルフの楽しさである。

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