見出し画像

大山のぶ代死去追悼 ドラえもん最終回

いつものように、のび太は宿題もせずに遊んでいた。
空は高く澄み渡り、野球日和だったが、ジャイアンは八百屋の手伝い、しずちゃんもピアノの練習、スネ夫は家族旅行でハワイ。仕方なく、ひとりで空き地をぶらぶらしてから帰ると、ドラえもんが珍しく昼寝をしていなかった。

「ドラえもん、タケコプター出してよ!」

のび太はいつもの調子で頼んだが、ドラえもんは微動だにしなかった。青い巨体はいつものように丸まっているものの、呼吸の音も、寝息も聞こえない。

「ドラえもん? ねぇ、ドラえもん!」

のび太はドラえもんを揺さぶってみた。
しかし、反応はない。冷たい金属の感触だけが手に伝わってきた。パニックになり始めたのび太は、ドラえもんの赤い鼻をつまんでみた。それでも、いつものように飛び起きることはない。

「ど...ドラえもん…?」

のび太は涙目になりながら、ドラえもんのポケットを探ってみた。もしかしたら、何か道具があるかもしれない。
しかし、ポケットは空っぽだった。いつものようにひみつ道具で溢れかえっているはずの四次元ポケットは、ただのポケットになっていた。

その時、のび太は小さな異変に気づいた。ドラえもんの首にある黄色の鈴が、かすかに、しかし確実に点滅していた。
赤と緑の光が交互に点滅を繰り返している。それはまるで、SOS信号のようだった。

恐怖に震えるのび太は、とっさにドラミちゃんに連絡を取ろうとした。
タイムテレビのスイッチを入れたが、画面は真っ暗なまま。部屋においてあったどこでもドアを開けても、他の世界には繋がらない。

「全部…動かない…!」

のび太は途方に暮れた。あらゆる手段が絶たれ、頼れるものは何もない。ただただ、沈黙したドラえもんだけがそこにいた。

夕食の時間、ママがいつものように「ドラちゃん、晩ごはんよ」と声をかけたが、返事はない。ママは、ドラえもんが動かないことをまだ知らなかった。
のび太は、ドラえもんのことを話すことができず、「ドラえもんは…ちょっと未来に出かけてるんだ」と曖昧に答えた。

学校への道も、いつもはドラえもんと並んで歩くのが当たり前だった。一人で歩く道は、いつもより長く、寂しく感じた。
ジャイアンとスネ夫に会っても、いつものように騒ぐ気にはなれなかった。しずちゃんだけが、のび太の異変を察し、優しく微笑みかけてくれた。

授業中も、のび太は上の空だった。先生の声は耳に入らず、ノートにはドラえもんの絵ばかり描いてしまっていた。

途方に暮れるのび太の前に、ドラミちゃんがやってきた。

「のび太さん、大変なの。 ドラえもんは…」

ドラミちゃんは息を切らしながら説明を始めた。
ドラえもんは、未来の世界で開発された最新鋭のネコ型ロボットだったが、長年の稼働により、システムに深刻なエラーが発生していたという。
ドラえもんもそれは知っていたが、のび太が心配すると思って伝えていなかったという。
そしてついに、限界を迎えたのだ。

「エラーを修復するには、未来の技術が必要なの。そして22世紀の世界でも、ドラえもんを直す技術がなくて、私も直せないの」

「そんな…嘘だ!ドラえもんは…僕の…!」

ドラミちゃんの言葉に、のび太は絶望感に襲われた。22世紀の未来の技術でも直せない…自分にはどうすることもできない。ただ、ドラえもんの冷たい体を抱きしめることしかできなかった。

22世紀の科学力…。
それは、今ののび太には到底及ばない領域だった。学校のテストでもいつも0点ばかり。科学とは無縁の世界で生きてきたのび太にとって、それは不可能なミッションに思えた。

「これは、お兄ちゃんがあなたのために書いた日記。預かっていたから、読んでみてほしいの」

のび太は震える手で日記を開いた。そこには、ドラえもんとのび太が過ごした日々の記録が、びっしりと綴られていた。

のび太が初めてドラえもんと出会った日のこと。
のび太が初めてテストで100点を取った日のこと。
一緒に美味しいどら焼きを食べたこと。
勝手にお菓子を食べてママに怒られたこと。

ページをめくるたびに、楽しかった思い出が蘇り、涙が止まらなかった。日記の最後には、こんな言葉が書かれていた。

『のび太くん、きみと出会えて本当に良かった。ぼくはきみと過ごした時間を一生忘れることはない。きみは、ぼくにとって最高の友達だ。いつか、きみが一人で生きていけるようになったとき、ぼくは未来に帰るよ。それまで僕はずっと君のそばにいる』

のび太の目に、かすかな光が灯った。ドラえもんを助ける…ただそれだけの強い思いが、彼の心を突き動かした。

「僕が…僕がドラえもんを直す!」
「何をしたらいいかはわからない…でも、やらなきゃいけない! ドラえもんを助けるために、僕は…僕はなんでもやる!」

のび太は、力強く宣言した。生まれて初めて、彼の心に確固たる目標が生まれた。それは、どんな困難も乗り越える力となる、揺るぎない決意だった。

ドラミちゃんは、そんなのび太の姿を見て、静かに頷いた。

「わかった。私があなたにできる限りの協力をするわ」

こうして、のび太の壮大な挑戦が始まった。それは、不可能を可能にするための、命を懸けた戦いだった。沈黙した青い巨人の前で、少年は未来への扉を開いていた。

ドラえもんを救うという決意を固めたのび太だったが、現実は甘くなかった。ドラミちゃんから提供される22世紀の科学知識は、想像を絶するほど難解だった。
未来の物理法則、高度なロボット工学、そして複雑なプログラミング言語。どれもこれも、のび太にとっては未知の領域だった。

「これは…まるで宇宙語みたいだ…」

のび太は、複雑な数式がびっしり書かれた教科書を見て、頭を抱えた。これまでの人生で、勉強に真剣に取り組んだことなど一度もなかった。ましてや小学生だ。

まずは、朝起きることから始めた。毎朝、ドラえもんに起こしてもらっていたのび太は、目覚まし時計をセットし、自分で起きる練習をした。最初はなかなか起きられず、学校に遅刻しそうになることもあったが、徐々に慣れていった。

次に、宿題を自分でするようになった。以前は、ドラえもんのひみつ道具に頼ってばかりで、自分で考えることを放棄していた。しかし、今は違う。わからない問題は、教科書を読み返し、それでもわからなければ、先生や友達に質問するようになった。

ジャイアンにいじめられても、ドラえもんのように助けてくれる人はいない。しかし、のび太は逃げずに立ち向かうようになった。もちろん、ジャイアンに勝てるわけはない。しかし、それでも諦めずに立ち向かうのび太の姿に、ジャイアンも徐々にいじめてこなくなった。

ドラミちゃんも、厳しくも優しくのび太を指導した。時には励まし、時には叱咤激励した。

「のび太さん、諦めてはいけない。ドラえもんはきっと戻ってくるのよ」

ドラミちゃんの言葉は、のび太の心を奮い立たせた。何度くじけそうになっても、ドラえもんの笑顔を思い出し、歯を食いしばって勉強を続けた。

毎日、朝から晩まで机に向かい、膨大な量の知識を詰め込んだ。眠気と戦い、空腹を我慢し、遊びたい気持ちを抑え込んだ。今まで経験したことのない苦痛だったが、ドラえもんを救いたいという一心で、のび太は必死に努力を続けた。

ある日、のび太はテストで初めて自分の力で100点を取った。ドラえもんのひみつ道具を使わずに、自分の力で達成した初めての成功だった。

「やった!100点だ!」
「ドラえもん…見てる?僕は…一人で100点を取れたよ!」

帰り道、空に向かって叫ぶのび太の目には、涙が溢れていた。それは、喜びの涙であり、同時に、ドラえもんへの感謝の涙でもあった。

のび太は、100点を取ったテスト用紙を、机の上に置いた。そして、ドラえもんの日記を開き、最後のページに100点の答案用紙を貼り、動かないドラえもんに語りかけた。

『ドラえもん、僕は頑張っているよ。いつか未来で、君とまた話せたら、この答案をみてほしいんだ』

しかし、険しい道のりは、そう簡単には終わらなかった。
スネ夫やジャイアンは、勉強ばかりしているのび太を見て、からかい始めた。

「のび太、どうしたんだよ? そんなに勉強して、頭がおかしくなったのか?」

スネ夫の嘲笑に、のび太は悔し涙を流した。それでも、勉強の手を止めることはなかった。

「僕は…僕はドラえもんを救うんだ!邪魔をしないでくれ!!」

「のび太...」

のび太の叫びは、スネ夫とジャイアンの心に響いた。
彼らは、初めて見るのび太の真剣な表情に驚き、言葉を失った。
そして、次第に、のび太の強い意志に感化され、応援してくれるようになった。

しずちゃんも、のび太の変化に気づいていた。いつものように遊びに誘って断らなかったのび太は、勉強を優先した。最初は寂しかったが、ドラえもんを救うための努力だと知り、素敵だと思った。心から応援することに決めた。

「のび太さん、頑張ってね。応援してるわ」

しずちゃんの優しい言葉は、のび太の心に温かい光を灯した。

ドラえもんがいなくなってから数年が経ち、のび太は中学生になっていた。身長も伸び、声変わりもして、すっかり少年らしい姿になっていた。
しかし、ドラえもんとの思い出は、色褪せることなく、彼の心の中で輝き続けていた。

勉強にも、スポーツにも、一生懸命取り組むようになったのび太は、ジャイアンとは良きライバルとなり、スネ夫とも一緒に勉強するようになった。
しずかちゃんとは、お互いを支え合う親友として、より深い絆で結ばれていた。

小学校の時の先生も、のび太の劇的な変化に驚いていた。
ある日街で偶然あったときに、こう言われた。

「野比くん、君は本当に変わった。このまま努力を続ければ、どんな夢も叶えられるよ。頑張りたまえ。」

先生の言葉は、のび太の自信につながった。そして嬉しかった。

時間は容赦なく流れ、季節は移り変わっていった。のび太の部屋には、積み上げられた教科書と、書きなぐられたノートが山積みになっていた。そして、その中心には、今もなお静かに眠るドラえもんの姿があった。

歳月は流れ、のび太は高校生へと成長した。かつての怠惰な少年の面影は消え、真剣な眼差しで未来を見据える顔つきの鋭い青年に変わっていた。
寝る間も惜しんで勉強に励んだ結果、彼の学力は飛躍的に向上し、周囲を驚かせるほどの優秀な学生へと変貌を遂げた。

高校三年生になったのび太は、ついに次の大きな目標を定めた。
それは、日本最高峰の学府、東京大学への進学だった。
22世紀の科学を理解するには、最先端の研究環境と優秀な教授陣の指導が必要不可欠だったからだ。

「東京大学…必ず合格してみせる!」

のび太の決意は固かった。受験勉強は想像を絶するほど過酷だった。
パパとママも、勉強が出来るわけではなかったし、のび太にも兄弟がいるわけでもなかったので、手探りの戦いだった。
パパとママは、必死に努力するのび太をみて、どんな参考書でも本でも買い与えた。

模擬試験の結果がよくなくて、ひとり泣いた夜もあった。

泣き疲れて眠りについたのび太は、夢の中でドラえもんと再会した。いつものように、二人で空き地で野球をし、タケコプターで空を飛び、どこでもドアで世界中を旅した。夢の中のドラえもんは、いつものように明るく笑っていた。

しかし、目が覚めると、ドラえもんは動かない。
のび太は、もう一度、ドラえもんの日記を読み返した。そして、最後のページに書かれたドラえもんの言葉に、改めて心を強くした。

『のび太くん、きみは一人じゃない。きみの周りには、たくさんの友達がいる。そして、ぼくはいつもきみのそばにいる。だから、自信を持って、前を向いて進んでいくんだ。ぼくはきみを信じている』

受験当日、のび太は動かないドラえもんに一言「行ってくるよ」と伝えて、青い体を抱きしめた。

緊張しながら試験会場に向かった。
かつてドラえもんといっしょに撮った写真をお守りに、カバンに入れた。
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、試験問題に挑み始めた。

難解な問題が次々と出題されたが、のび太は冷静に問題を分析し、解答を導き出していった。これまで培ってきた知識と、ドラえもんを救いたいという強い意志は、本番でも頭脳を活性化させた。

そして、運命の結果発表の日。掲示板の前に集まった受験生たちの間で、のび太は自分の受験番号を探した。心臓が激しく鼓動する中、ついに見つけた。

「あった…!」

自分の受験番号が、のび太の目に飛び込んできた。喜びと安堵が同時に押し寄せ、思わずその場に崩れ落ちそうになった。

「やった…やったんだ…!」

アメフト部に胴上げされながら、その目からは涙が流れていた。

東京大学に入学したのび太は、ロボット工学、情報科学、物理学など、ドラえもんの修復に必要なあらゆる分野を貪欲に学んだ。
寝る間も惜しんで研究に没頭し、教授たちからも高い評価を受けるようになった。

大学での生活は、刺激に満ち溢れていた。優秀な仲間たちとの切磋琢磨、熱心な教授陣の指導、そして最先端の研究環境。すべてが、のび太の知的好奇心を刺激し、成長を促した。
駒場、本郷で出会った仲間たちとは、夢を語り合った。

のび太は決してドラえもんのことを忘れていなかった。研究の合間には、必ずドラえもんの傍らに戻り、静かに語りかけた。

「ドラえもん…もう少しだけ待っていて。必ず君を元の姿に戻してあげるから…」

のび太の言葉は、静寂に包まれた部屋に優しく響き渡った。

大学生活の中で、のび太は様々な困難に直面した。複雑な研究課題、厳しい競争、そして未来への不安。
「自分はドラえもんを直せないんじゃないか」と自信を失ったこともあった。
しかし、家に帰りドラえもんをみると、そんな自分を乗り越えさせてくれた。

そして、ついに大学院に進学したのび太は、自らの研究テーマを「未来型ロボットの修復と改良」に定めた。

それは、ドラえもんを救うための、本格的な挑戦の始まりだった。
日夜研究に没頭する中、のび太はドラえもんの設計図を徹底的に分析し、教授らと対等に議論できるレベルに達していた。

教授が帰宅しても、のび太は研究室にこもって作業を続けた。
東京大学工学部の学生らからは「不夜城の野比ラボ」と言われた。

ある日、のび太と教授らは、故障の原因を、プログラムの異常であると特定することに成功した。しかし、そのプログラムが高度すぎてとても修復できるとは思えない。

のび太は国内だけでなく最新の技術を駆使して、修復のためのプログラムを開発し始めた。
それは、気の遠くなるような作業だった。失敗と試行錯誤を繰り返し、何度も挫折しそうになった。

食事も忘れて研究室にこもり、何日も徹夜で作業を続けることもあった。
彼の努力は、徐々に成果を生み出し始めた。数年後、修復プログラムの核となる部分が完成した。

しかし、喜びも束の間、新たな壁が立ちはだかった。修復プログラムを完成させるには、22世紀の技術で使われている特殊な素材が必要だった。
それは、現代の科学力では製造不可能な、極めて高度な素材だった。

のび太は落胆した。ここまで来て、またしても壁にぶつかってしまったのだ。しかし、諦めるわけにはいかない。

のび太は、世界中の研究機関に協力を要請し、特殊素材の製造方法に関する情報を集め始めた。
ドラミちゃんから未来の科学者の研究成果も取り寄せ、世界中の研究機関に配った。
彼の熱意と、ドラえもんを救いたいという純粋な思いは、研究機関の心を動かした。

国境も、宗教も、人種も、そこにはなかった。大切な友人を救いたいという思いは、どんな壁も乗り越えていった。
そして、ついに、ある研究機関から、ドラミちゃんからもたらされた22世紀の技術を応用した新素材の開発に成功したという連絡を受けた。

こうして、特殊素材を入手したのび太は、ついに修復プログラムの完成に向けて最後の仕上げに入った。
寝る間も惜しんでプログラムを改良し、ドラえもんのシステムに適合するように調整を繰り返した。
そして、ついに、その日が来た。長年の研究の末、ドラえもんの修復プログラムが完成したのだ。

「できた…ついにできたんだ…!」

のび太は、完成したプログラムを手に、感無量の思いでドラえもんを見つめた。

しかしプログラムをドラえもんにインストールする作業は、極めて繊細で、高度な技術を要する作業だった。
少しでもミスをすれば、ドラえもんのシステムに致命的なダメージを与え、のび太との全ての思い出が消えてしまう可能性があった。

緊張感に包まれた中、のび太は慎重に作業を進めた。彼の額には、冷や汗が流れ落ちていた。
そして、ついに、最後の工程が完了した。

「ドラえもん…お願いだから、目を覚まして…」

のび太は、祈るような気持ちでドラえもんの名前を呼んだ。
次の瞬間、ドラえもんの鈴、赤と緑の光が交互に点滅していたランプが、停止した。
そして、ゆっくりと、ドラえもんの目が開いた。

「…のび太くん...宿題終わった?」

ドラえもんの声が、静寂に包まれた部屋に響き渡った。

のび太の目には、熱い涙が溢れていた。長年の努力が、ついに実を結んだ瞬間だった。

「どうしたの?のび太くん泣いちゃって...」

のび太は青い巨体を、強く強く抱きしめていた。

その後、のび太は、これまでの研究成果をまとめ、博士号を取得した。彼の研究は、ロボット工学の分野に大きな進歩をもたらし、世界中から注目を集めた。そして、人々は彼を、「ロボット工学の最高権威」と呼んだ。

しかし、のび太にとって、肩書や学位などどうでもよかった。
最も大切なことは、大切な友達が戻ってきたことだった。

その日は、空は高く澄み渡り、野球日和だった。

「ドラえもん、タケコプター出してよ!」
「しょうがないなぁ、のび太くんは。」

あの頃のように、ドラえもんとのび太の笑い声が、空き地に響き渡った。

のび太は、未来への希望に胸を膨らませた。
ドラえもんと共に、どんな未来を描いていくのだろうか。
ずいぶんと遠いところまで来たなと思った。

目標を達成したいま、これからの未来はまだ誰にもわからない。
しかし、一つだけ確かなことがあった。

のび太とドラえもんの友情は、永遠に続くのだ。

ドラえもんが復活してから、のび太の日常は以前と同じように戻った…ように見えた。
またのび太はジャイアンとスネ夫からいじめられ、ドラえもんはポケットからひみつ道具を出して、のび太を助け(時には叱り)、しずちゃん、スネ夫、ジャイアンと騒がしい日々を送っていた。

しかし、のび太自身は大きく変わっていた。ドラえもんを失いかけた経験は、彼に計り知れないほどの成長をもたらしていたのだ。
勉強の大切さを知り、努力することの尊さを理解した。そして、何よりも、ドラえもんの大切さを改めて実感した。

ある日、のび太はドラえもんに語りかけた。

「ドラえもん、僕が君を直した技術、未来に送らないか?」

「未来へ? どうしてだい、のび太くん?」

のび太は、静かに答えた。

「未来のロボットたちが、僕と同じように、大切な仲間を失うかもしれない。そうならないように、この技術を未来に送って、ロボットたちの寿命を延ばしたり、故障を防いだりするのに役立ててほしいんだ」

ドラえもんは、のび太の言葉に深く感動した。かつて、勉強もスポーツも苦手で、いつも泣き虫だった少年が、こんなにも大きく成長したのだ。

そして、自分のことだけでなく、未来のロボットたちのことを考えている。

「のび太くん…君は本当に立派になったね。」

ドラえもんは、涙をこらえながら言った。
のび太は、照れくさそうに笑った。

「ドラえもんのおかげだよ。君が僕に教えてくれたこと、一緒に過ごした時間、すべてが僕の宝物なんだ」

そして、のび太は、タイムマシンを使って、自分が開発した修復プログラムと、その技術に関するすべてのデータを未来の世界に送った。未来のロボット開発研究所に宛てた手紙には、こう書かれていた。

「この技術が、未来のロボットたちと、彼らを愛する人々の助けになれば幸いです。そして、未来ののび太くんへ。ドラえもんは、かけがえのない友達です。いつまでも、彼のことを大切にしてあげてください。」

未来の世界では、のび太の送った技術が、ロボット工学の飛躍的な発展に貢献した。
ロボットたちの寿命は飛躍的に延び、故障も大幅に減少した。そして、のび太の技術は、「Nobi Formula」と名付けられ、未来のロボットたちに受け継がれていった。

後年、のび太は大人になり、ロボット工学の研究者として活躍していた。
のび太は、しずちゃんと結婚し、子供ももうけた。

そして、ある日の夕方、のび太は、未来から一通の封筒を受け取った。
それは、未来のロボット開発研究所から送られた感謝状だった。手紙には、こう書かれていた。

「あなたの技術は、未来の世界を大きく変えました。感謝の言葉もありません。そして、未来ののび太くんは、あなたのメッセージを受け取り、ドラえもんと楽しく過ごしています。本当にありがとうございました。」

未来からの封筒には、もう1通手紙が入っていた。

「のび太くん、僕は君に本当に感謝しているよ。22世紀でも一緒に幸せに暮らしているよ。僕たちはずっとずっと友達なんだ。生まれ変わっても、それでもずっと友達でいたいんだ。本当にありがとう。ドラえもんより」

手紙を読んだのび太は、涙を流した。
そして、隣でうたた寝をしているドラえもんに、優しく語りかけた。

「ドラえもん、ずっと一緒だよ」

ドラえもんは、寝ぼけた声で答えた。

「そうだね、のび太くん。どら焼きおいしいね」

窓の外には、夕日が美しく輝いていた。

(終)

頂いたサポートのお金は、取材や海外の文献の調査などに使わせていただきます。サポート頂けるのは大変うれしいので、これからも応援いただけるとうれしいです! ゆな先生より