船に乗るという選択
2月は、とても寒いという勝手な思い込みがあったが、今年は暖冬だったらしく、割と暖かくすごせた。思ったより暖かかったし、寒さで死にかけたのは一度だけだった。
2年前の2月、演奏会があった。楽屋裏で「なんか楽しいことないかな~」と呟いたら、「船乗れば?」とひとりの先輩に言われた。
船というものには、人生では3度くらいしか乗ったことがなかった。しかも、豪華客船とか、屋形船とか、リッチな感じのやつではなく、公園の貸し出しボート程度だった気がする。交通機関系は大嫌い、電車はできるだけ乗りたくないし車やバスはすぐ酔う。飛行機は怖い。そんなあたしが、1年後には船に閉じ込められることになった。
船というものは、特殊だ。数百年、数千年前では一般的な交通機関だったはずのものが、今や船を日常的に使うなんてことは、(もちろん、ヴェネチアとか、小さい島に住んでいる人とかではいるけれども)少なくとも日本は東京に住んでいる人間としては考えられない。そもそも、川を渡ろうにも頑丈な橋があるし、海を越えたい時は飛行機のほうが速くて、便利で、安価だ。今や、クルーズ船で旅をしようとなると、数百万かかることだってある。
船という、現代において超非効率的な交通に1か月間乗る、と周りに報告すると、とても驚かれた。マグロでも釣ってくるの?と言われた。
ここで結論を言わせていただこう。
船に乗りたいのなら、内閣府「世界青年の船」事業をオススメする!
忙しい日常、ネットでみんなと繋がっている日常、あわただしくて自分のことを愛する時間がないほどの日常。そこから離れ、時間がゆっくりと流れる海を見ながら、船に乗って、自分のことを見つめ直しませんか?世界各国に友達を作りませんか?世界のことを、よりたくさん知りませんか?
…という口説き文句は、世界船に乗ったみんなが言うことだから、今回は船そのものの魅力を伝えていきたい。
船に40日間も閉じ込められて、いったい何をするんだ?という声が聞こえてきそうだ。「世界青年の船」はちゃんとした組織(内閣府)が、ちゃんとした船(にっぽん丸)を手配して、ちゃんとしたスケジュール(ページ末の事業概要リンクを見てください)を用意しているので、公式プログラムは本当にちゃんとしているものが多い。
問題は暇な時間だ。WiFiもなく、船から一歩外に出ればそこは海。暇つぶしに出かける場所はない。
…と思うだろう。そんなことはない!暇つぶしに出かける場所は、デッキだ。2月の太平洋は、基本的に晴れている。曇りの日も少ない。半そで短パンで外に出て、裸足になって、海を眺める。船の勢いと、風を感じる。永遠に続く水平線を眺める。意外と、地球って広いらしい、ということを認識する。足元の海を見る。海が深いことを認識する。自然の美しさと、怖さを同時に味わう。
海に向かって独り言を言っても、叫んでも、語り掛けても、何も返ってこない。最高の話し相手だった。海は、聞き役が上手い。
夜になると、海の美しさは完全な恐怖へと変わる。真っ暗な海と空。月が出ていないと、水平線がどこにあるのか分からなくなる。自分がどこにいるのか、分からなくなる。その代わり、美しさは空に移る。東京にいるときの何百倍もの数の星が見えた。一生、プラネタリウムなんて行かない、と決めた。みんなでデッキに寝っ転がって、歌を歌ったり、おやつを食べたり、語り合った。
船に悩ませられることはただひとつ、「酔い」だ。常に地面は揺れていて、しかも、地震のように小刻みなヤツではなくて、ぐらあ~ん、と揺れているのである。40日間、壁にぶつからずに廊下を歩けたことはなかった。座っているだけでも体感を使う。字を見た瞬間、酔う。でも、1週間も過ぎると、だいぶマシになって、船酔いなんかへっちゃらになる。
一番の船酔いの治し方は、自分が揺れているのか船が揺れているのか分からなくなるくらい飲酒すること…なんてジョークが流行るくらい、みんな船酔いに悩まされた。でもそれも、旅をしている証だった。
この40日間、私は海を堪能し、船を堪能した。
船に乗ると決めたのは「面白そうだったから」の一言でしか説明できない理由だったが、船に乗った経験は一言だけでは言い表すことはできない。
船、オススメです。
応募要項はこちらから
https://www8.cao.go.jp/youth/kouryu/boshu/2020/pdf/global_oubo.pdf
概要はこちらから
https://www8.cao.go.jp/youth/kouryu/boshu/2020/pdf/global_gaiyo.pdf
応募締め切り、各都道府県によって異なります!お早めにどうぞ。
それでは。