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【美術館周辺のおすすめスポット】アートの余韻を残した散策のススメ(?)
長めの前置き
「オトナの美術研究会」恒例のお題企画、7月は「美術館周辺のおすすめスポット」。まず、正直なところ今回は「ここ!」とおすすめできるスポットが思い浮かばずスルーしようかと思った。
「オ美研」主宰者のちいさな美術館の学芸員さんは、お題発表記事で次のように書かれている。
美術館は当然展覧会を観に行く場所ですが、楽しみ方はそれだけではないですよね。というか、わざわざ美術館まで出かけて、展覧会を見たら家にとんぼ返りする人の方が少ないのでは?
ちいさな美術館の学芸員さん「恒例企画「月イチお題note」7月のお題発表!」より
あ、展覧会を見たら家にとんぼ返りするマイノリティな私……。
魅力的(に見える)ミュージアムカフェは数多くあれど、学生時代から「カフェで使うお金で企画展いっこ行けるんじゃね?」というケチ思考が抜けない。(言い訳すると旅行レベルで遠い美術館に遠征した場合は併設のカフェやレストランで食事を取ったりします……。)
そんなわけで今回は書けないなぁという気持ちと、今まで一応投稿してきたし、という自己満足が戦い、どうにかひねり出してみたのがこの記事。「美術館直行直帰」が多い人間なりに考えてみたもので、特定の場所やエリアを指すわけではなく、だいぶ反則っぽいなぁという感じもする。
美術館内でのマインドを、外にまで拡張してみる
今回私が書いていることは、もしかすると「いつもやってる」という人も多いのかもしれない。おすすめスポットというのは、「美術館から自宅に帰るまでの道のり」。
これは、美術館というちょっとした非日常空間の中でアートを堪能したあと、素敵な状態になった眼と頭をそのまま切り替えずに外の現実世界も見てみようという話である。
館内で観てきた絵画を頭に置いたまま歩いてみると、行きはなんとなく通り過ぎていた花壇の花がルドンっぽく見えたり、 夕日の色がモネに見えたり、足元のスズメに竹内栖鳳が浮かんだり……と、なんでもないと思っていた光景が絵のように見えてきたりするのだ。
例えばこんな場所で
美術館の周辺は、割と自然があるところが多い。私がこんなことを書いてみようと思ったのは、ひとつには2月に茨城県近代美術館に行ったあとの千波湖の夕暮れがとてもきれいだったこと。そして3月に東京国立近代美術館の「重要文化財の秘密」を観たあと、お濠の水面からそのまま福田平八郎の《漣》を連想したこと。このふたつをふと思い出したことからである。
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こっちの日没の湖を川瀬巴水に…
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描いてもらえたら…と考えながら歩いてました。
大きな公園が併設されているところもあれば、横須賀美術館のように海が目の前の美術館、変わり種では「開館時間は日没後30分まで(3月〜9月)」という、宍道湖のほとりの島根県立美術館のようなところもある(見出しの写真は閉館直後の島根県美。夕日の宍道湖を撮った写真はなぜかデータが壊れて……泣)。
美術館で見つけたお気に入りの作品をそのままそんな風景に投影してみると、今までと違った見え方になるかもしれない。
世界を絵画のように見る
「ピクチャレスク」ということばがある。「自然の中に、絵画に描かれた理想的な美を見出す」ことと私はざっくり理解している。 (詳しくは下記参照。)人間も含めた自然を模倣することに努めた美術に自然をなぞらえるというのは逆転現象で面白いのだが、美術作品に影響を受けることで現実の実体を見る目が変わるということは、意外と簡単に得られる体験だと思う。
また、気に入った作品に描かれたモチーフ(花とか)を、現実でもそれ以前より意識するようになることもある。これは「カラーバス効果」のひとつといえるだろう。
個人的に面白かったのは、おととし練馬区立美術館などで開催された「電線絵画」という展覧会。電線という近代化の象徴のようなモチーフが描かれた作品を集めたユニークな展示だったが、美術館からの帰り道は電柱と電線がこれでもかと目に付いたのを覚えている。
終わりに
そんなわけで(?)、ここまで読んでなんだそんなことかと思った方も多いだろう。興味を持っていただけた方は、まずは美術館周辺の花壇や川、湖、並木道といったところから、自分の目で風景を絵のように捉えるように歩いてみてはいかがだろうか。ただし、どちらかというと狙ってやるよりは、自然と目に付いて気が付くことの方が多い気もするので、あまり力む必要もないと思う。
私もそうなのだが、近年はどうしてもスマホの画面を見てうつむいたり、イヤホンを付けてただ道を歩くことが増えた。そんななかで、美術館を出たあとちょっと視野を広げてあたりを見回すと、すぐ近くで自分だけのモネやルノワール、マティスに出会えるかもしれない。
……と、ここまで書いてみてやっぱりこれはお題に対して無理があったかなと思った。今回のお題は周囲の人に聞かれることもあるような話題であるし、何個か具体的なストックもあった方がいいなぁと痛感した次第です。