イギリスで眼科医を目指す理由
一番よく聞かれる質問は、どうして(世界的に見ても暮らしやすく、安定した仕事がある日本を離れて)イギリスで医師として働くのか?である。この質問はごく当たり前で、私も他国(主にアメリカ)で活躍している先輩、同期には常々尋ねてきた。
最大の理由は夢とプライドだと思う。英語は中学生の頃から好きだったし、学生時代も休暇期間にアメリカ、イギリス、オーストラリアに病院見学に行った。その中で最も印象に残ったのはイギリスだった。アメリカは規模や医療に対する姿勢が全く異なり”異質な”印象を受けた。一方でイギリスは日本と同じく島国で、国民皆保険制度での運営だし、人口や面積もアメリカに比べればほぼ同じくらいである。皇室/王室を大切にしているのも親近感が湧いた。本音と建前があるのも日本人からすれば理解可能であった。そんなイギリスは産業革命以降第二次世界大戦まで世界を牽引した国家であり、日本をはじめその他の国が経験する問題はだいたいイギリスで最初に問題になっている(英国病と言われていた1980年代はその後の日本の不景気と構造的には近いし、国民皆保険制度だって日本も同じような問題を抱えている)。確かに食事はあまり美味しくなかったし大変なこともあったけど、そんな国で一度学んでみたい、働いてみたいという気持ちはたった1ヶ月の留学で強くなった。
またアメリカと異なり、イギリスでは眼科医として働ける可能性も高い。アメリカはUSMLEを2〜3つ乗り越えた後にマッチングだが、私が学生時代に調べた内訳では500人ほどの定員にIMGは10人ほどでしかもその10人にカナダ人やオーストラリア人が入っていた。一方、イギリスでは研修プログラムに入ることも可能だし、私のようにキャリアを積んでから入ることもできる。尤も、たくさん道筋があるように見えて実際にはいくつかに絞られるのはイギリスらしいのであるが。
だから研修医を終えてからPLABを受験した。PLABに受かってイギリスで専門プログラムに入って教育を受けてみたいと思った。しかしCovid-19の流行が重なった。2020年3月、PLAB2の受験日数日前に試験の中止が発表された。そこからは暫くPLAB2が開催中止されていたし、日本から出国することもできなかった。Covid-19の救済措置としてPLAB1→PLAB2の期限が3年に伸び、2022年にPLAB2を受験したが、OSCEだから落ちないだろうという思い込み、予備校の知識の抜け落ち、間延びによるモチベーションの低下が重なり、不合格となった。すでにPLAB1の期限が切れたため、もう一度IELTS/OETから再開しなければいけなかった。この頃は日本で大学院に入っており、PLAB2受験前にはもしPLAB2に落ちたら日本で頑張ろうかなと思っていた。そんなときに、ふと受験会場にいたグループで来て談笑していた他の受験生たちの顔が浮かび、俺はあいつらよりも劣っていたということなのか?、と考えてしまった。今考えれば1つの試験の合否だけで優劣なんて決まらないのだが、それから暫くは歯痒かったし、悔しかった。頑張り切れなかった自分にも不甲斐なさを感じた。
日本の専門医プログラムにも乗っていたし大学院のこともあったし、その時点であと数年は日本にいる予定だったこともあり、挑戦するなら今しかないと思い、もう一度やり直すことに決めた。結局2回目のPLAB1,2も付け焼き刃での対策となったが、それでもPLAB2の直前1ヶ月は毎日仕事の後2-3時間フィリピンの受験生たちと頑張った。大学院と専門医試験の間だったためつらいこともあったが、何とかどれも突破することができた。
そしてこれはご縁というか、所属施設の状況もこの5年で大きく変わった。指導医たちは次々と開業したり、他の病院に移動になったりした。マンネリになった現状もあった。眼科も専門医取得時期になれば一通りの外来業務はこなせるし、眼科で最も件数の多い手術である白内障は時間がかかってもどうにかすることはできる。少し早いが開業しても何とかやっていける年次である。実は大学の同期の循環器内科医も同じことを言っていた。専門医やサブスペシャリティ(循環器内科だとアブレーションとか心不全とか)もある程度やり、ともかく症例がほしかった1-2年目とは違うと。
今の施設で硝子体手術を学ばせてもらうことも考えた。しかし人員不足や、私には研究や他分野に従事させる人事となり、網膜チームで学ぶ機会はまだ先に思えた。不満を訴えることも可能だが、それがきっかけで医局と関係がこじれ結局中途半端になってきた先輩たちを見てきたため今の施設にいる限り次の転機を待つしかなかった。
医局人事を考えれば教授が指摘するように”奉公”をしなければいけないし(そういうことをするから大学病院から人が離れるんですが)、ここから医局人事に乗っていた方が安定してかつ色々なことを学べるのかもしれない。しかし、こればかりはご縁なので、せっかく就職先も得られたので渡英することに決めた。
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