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銀行員とデザイナーの考え方の違い

はじめまして、Japan Digital Designの廣瀬です。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下MUFG)の戦略子会社であるJapan Digital Design(以下JDD)でExperience Design Div.(以下XDD)に所属しています。

この記事は、〈地方銀行員から見たデザイナー〉シリーズの第3弾となります。
銀行の企画担当を経験した者の目線で、JDDで仕事をする中で感じた「銀行員とデザイナーの考え方の違い」を書いてみました。

〈地方銀行員から見たデザイナー〉シリーズ第1弾、第2弾のnote記事もぜひご覧ください。

本題の前に

note執筆の動機

私は銀行時代、デジタル系の推進部署に所属していました。
アプリなどのデジタルサービスについて自分なりに考えてきましたし、実際にサービスに落とし込む仕事に携わる機会もありました。
UXデザインに関するデザイナーの仕事や記事にも多く触れてきました。

当時そんな私が、デザイナーの記事や成果報告を見るたびに感じていたのは、「ピンと来ない」「腹落ちしない」というものです。
内容はよく理解でき、納得感もあるのに、具体的な銀行のアクションに結びつけられるかとなると、途端に理想論のような縁遠さを感じてしまう。

この「かみ合わなさ」を私なりに整理したい、と考えたのが本note執筆の動機です。

過去note記事のご紹介

以前三菱UFJ銀行から出向されていた天野さんも、デザイナーと仕事をした際の気付きを記事にしています。
私と異なる目線で、銀行員とデザイナーを考えているので、こちらもご覧ください。

体験設計における3つの視点

本論に入る前に、体験設計における「ユーザー視点」「ビジネス視点」「技術視点」の3つの視点について説明しておきましょう。

「ユーザー視点」はユーザーの立場でサービスを考えることです。
機能や導線などが使いやすいか、心地よい体験を目指して様々な検討を行ないます。

「ビジネス視点」は、利用数や収益性などのビジネス上の目標値を重視してサービスを考えることです。
サービスをビジネスとして成立させ、継続して提供し続けるのに必要な要素です。

「技術視点」は、技術的に実装可能か?という視点です。
単純な技術上の可否だけでなく、工数などの実装上の課題も重視されます。

銀行員が重視するもの

銀行員は数字の生き物

銀行の仕事は常に数字が付きまといます。
預金の取り扱いや審査業務など、お金を扱う以上いつも数字でものを考えます。
万人が共有できる非常に便利な情報なので、ついつい数字に判断根拠を置きがちです。

サービスやプロジェクトを判断する際も、数字は重要な要素です。
私は、サービスがユーザーにとっていかに良いものであるかを説明する際も、「●万人がニーズを感じている」とか「一般的なユーザーの負担が●分軽減できる」といった数値的効果を元にしていました。

少なくとも私にとっての「ユーザー視点」は、最終的には数値的根拠をもって証明されるべきものでした。

だからこそ数値化しにくい課題は苦手

判断の根拠として数字を好むということは、数字にできない課題の判断が苦手という側面もあります。
UXの効果も、それ単体では数値化が難しい課題のひとつで、とくにリリース前のサービスについてはユーザーの反応が確認しにくいため、数値による効果推計が困難です。
ですので、私自身UXデザインに注力する理由付けができず、けっきょく「前向きな付加価値」として大きな計画の中の低優先度の一要素として盛り込んだりしていました。

銀行員はサービスによる効果を重視する

上記の理由はコストを掛けてサービスをリリースするのが「なんらかの効果」を期待するからです。
数字は「サービスによって得られる効果」をわかりやすく説明してくれます。
(この効果は、ビジネス・ユーザー両方にとっての効果です)

デザイナーが重視するもの

論理的にサービスを言語化する

これまで外部のデザイナーと仕事をする際の感想は、「わかりやすいデザインだな」「納得できる改善だな」といった成果物に対する評価が中心でした。

しかしJDDに来て、内部でいっしょに仕事をする中で感じたのは、デザイナーは常に「ユーザーにとって望ましいサービス」を目指し続けている、ということです。

私の参加しているプロジェクトでは、デザイナーは、ベンチマーク調査やユーザーテスト、プロトタイプの検討など、サービスを客観的に分析・検証するために多くの手法を活用します。
(正直、JDDに来るまではもっとセンスや技術に頼ったものかと思っていました)

数値化が難しい課題も取り扱える

デザイナーももちろんアクセスデータやA/Bテストの結果など定量的なデータを参照してデザイン検討を行います。

定量データは「何が起きているか」を明らかにし、比較による判断に優れている一方で、離脱率の高さなど「なぜこの数値が出たのか」という理由までは明らかにしてくれません。

実際、JDDのデザイナーが提案するものの中には、数字に裏打ちされていないものもありますが、それは定性調査を踏まえた背景にある課題の整理やそれを根拠としたソリューションの提案となっており、数値がなくとも私にはとても納得のできるものでした。

デザイナーは「ユーザー理解」を重視する

これまでのJDDの経験を通じてデザイナーの着眼点が大きく違うことを実感しました。デザイナーは「ユーザーにとって望ましいサービス」を作りたいと考えており、その為には「ユーザーがどう感じるか」「ユーザーがどこでつまずくか」といった定性的な顧客理解が重要である、そういった定量とは異なるアプローチがあることを知りました。

なぜデザイナーの提案が自分にはピンと来ていなかったか

銀行員とデザイナーは重視しているものが違う

  • 銀行員は、サービスによってどんな効果が生まれるかを知りたい。

  • デザイナーは、ユーザーにとって望ましいサービスを作りたい。

銀行員は「ユーザーにとって望ましいサービス」を作るためにデザイナーに依頼する、デザイナーも同じことを実現したいわけですが、銀行は「”よい効果を生むために”ユーザーにとって望ましいサービスを作ってほしい」、デザイナーは「ユーザーによって望ましいサービスを作り、結果としての”よい効果”に貢献する」と考える結果、重視しているものが絶妙にずれ、結果ピンと来ていなかったのだと思います。

なお、デザインをよくわからない銀行員が一番欲しい答えは「ユーザーにとって望ましいサービスを作ることで、これだけの効果が生まれます」という説明と保証だったりするのも実情です。

自然体ではかみ合わないことを認識したうえで、共通のゴールに向かって協働することに価値がある

ネット銀行などを中心に優れたデジタル金融サービスが乱立するいま、UX上のリスクは「ビジネス目線」においても非常に大きな課題です。
しかし上述の通り、UX上の課題は数値化しにくい部分が多く、銀行員だけでは改善に着手するのが難しい場面が多いでしょう。

銀行員の苦手とする数値化の難しい課題も含めてユーザー目線を網羅的に考えるデザイナーの仕事は、このリスクに対する明確な回答の一つでしょう。

デザイナーの「ユーザー目線」は、「ビジネス目線」にとっても大きな価値があります。
そして、銀行員の経験や知見もデザイナーの「ユーザー目線」にとって価値があります。
お互いの違いは、お互いに影響を与え合えるものだと思います。

いかにUXデザインを銀行サービスに落とし込むか

効果を数値化しにくいタイミングでコストをかける判断は難しいものがあります。
ですが、UXデザインの効果が数値化できるようになってから検討を始めるというのは非常に危険でしょう。
なぜなら多くの場合、それは「リスクが数字となって表れた」ということだからです。

デザイナーは「ユーザーにとって望ましいサービス」を作るために仕事をしています。
しかし、それは銀行員同様「ユーザーに喜んでもらう」「ビジネスを成功させる」ための仕事です。
そんなデザイナーの提案を銀行サービスに落とし込む、つまりUXデザインにコストをかけると判断することは、ビジネスの成功に対して重要な判断のひとつとなるでしょう。

銀行員にとってピンと来にくいデザイナーの提案を、銀行サービスに落とし込む。
「それが得意分野です!」と言えるようになるのが私の遠い目標です。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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