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スタジアムとグラフィックデザインの幸せな関係。
日本ベネックスは、2024年10月に「長崎スタジアムシティ」内にある「PEACE STADIUM」3階 北東コンコースのネーミングライツを取得し、このコンコースに「日本ベネックス ストリート」という愛称をつけました。
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「日本ベネックス ストリート」の装飾デザインは、グラフィックデザイナーの小林一毅さんが担当。この装飾デザインが誕生した背景から、スタジアムとグラフィックデザインの関係性について、小林一毅さんにお話を伺いました。まずはこんなお話から。
小林一毅 (こばやし・いっき)
グラフィックデザイナー。1992年滋賀県生まれ。多摩美術大学を卒業後、(株)資生堂を経て2019年独立。主な受賞に東京TDC賞、JAGDA新人賞。
1.スタジアムの音
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――:
建設中に一度きていただきましたが、完成後は初ですね。スタジアム全体の雰囲気はどうですか?
小林:
街に開かれていて、いろいろな人たちが自由に出入りできるスタジアムだからこそ、「サッカー」という文化的な側面をすごく身近に感じられる場所だと思いました。
それと、長崎に住む人たちの「新しい居場所」を提供していますよね。これだけ椅子がある場もなかなかないし、そこで何をやるかは自由に委ねられているからこそ、想像が広がっていくような気がしました。
ここで本を読んだり、音楽を聴いたり、ぼーっとするのもいいだろうし。「人目を気にせずにぼんやりできる場所」って意外とあるようでないですから。
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――:
たしかに。今回、装飾デザインのオファーを受けたとき、まず何を考えましたか。
小林:
前提として「V・ファーレン長崎の本拠地」になるので、サポーターと選手の一体感に繋がるものでなくてはいけない、というのは思いました。
クラブカラー、スタジアムのカラーからあんまり離れすぎないというか、同じようなトーンを持った色調にまとめる必要があるなと。だから「色は青を使う」と最初の段階から決めていました。
――:
でもV・ファーレン長崎のクラブカラー「青とオレンジ」を使うのは「違うと思う」とおっしゃっていましたよね。
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小林:
そう、そう。クラブはクラブでやりたい表現があるだろうから、それを邪魔しちゃいけない。なので、コミュニケーション(装飾デザインの方向性)としては極力、抽象的にする必要があるということもすぐにイメージできました。
――:
それは「日常的に開かれたスタジアム」だからということも関係している?
小林:
そうですね。サッカークラブやサポーター以外の人も訪れる場所なので、デザインの捉え方に幅を出す必要もありました。
「こういうふうに見なきゃいけない」「こうでないといけない」というデザインではなくて、人によって見え方が違う、ある種の曖昧さがある方が各々の解釈ができるし、様々な立場や解釈の人が訪れるこの環境に調和する気がしました。
――:
その後、はじめに一毅さんから出てきたのは柱の装飾ビジュアルでした。
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小林:
はい。このビジュアルは視察でスタジアムに来たときに大方みえていて。
――:
あー、やっぱりそうなんだ。この柱のビジュアルが今回のキーにもなっていますよね。どういったプロセスで生まれたのでしょうか。
小林:
これは、柱の下の方に起点となるような点があって、そこから上に向かって広がっていく構図です。サッカーの「ある一点(ゴール)を目がけて進んでいく」ような、指向性をベースに形を考えていきました。
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――:
一緒にスタジアムへ行った帰りに一毅さんが、「ビジュアルは、下から上にぐわっと伸びていく感じ」と言っていたのをすごく覚えています。
すでに完成後のイメージというか、インスピレーションがその時点で湧いていたんですか。
小林:
そうですね。学生のころ、年間10試合以上Jリーグを観に行っていたので、そのときの記憶を辿ったりして‥‥。スタジアムの歓声とか、応援が上に伸びていく感じってあるじゃないですか。
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――:
ああ、はい。
小林:
試合中に歓声が上がり拡散して、それが大きなうねりになり、それに後押しされて選手が前に進んでいく、このイメージがあるんですよね。そのときの矢印って、やっぱり下に向くものじゃなくて、上に向かっていくと思うんです。
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――:
うん、うん。
小林:
「スタジアムの音」って、いろいろな声が混ざり合ってできますよね。ホームチーム、アウェイチームの声援に、時々ため息だったり、野次が飛んだり。
そういう音のニュアンスもあったから、矢印も一つの方向に向かうんじゃなくて、いくつかの角度を持った形が広がっていく、そういうイメージでデザインしました。
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――:
なるほど。
小林:
はじめてスタジアム装飾の仕事をするから、そのときの自分の感覚にまずは素直に従うというか。
歓声が上がる様子は、スタジアムに来る人たちとなんとなく共有できる気がしたんです。
――:
一方で、同じ方向に伸びている造形もありますよね。
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小林:
はい。スタジアムの雰囲気が一体になる瞬間ってありますよね。ゴールが決まった瞬間なんか特にそうだと思うんですけど、すごくボルテージが上がる瞬間は、みんなが割と同じ矢印を向いていますから。
――:
今回のビジュアルもそうだし、これまでの一毅さんの作品を見ると、「言葉で説明できない造形の心地よさ」をすごく感じます。心地よさを感じさせる造形、線はどのようにして生み出しているんですか。
小林:
うーん‥‥。「肌触りのいい線」というのは、 繰り返し、繰り返し書いているなかで、生まれてくるんじゃないですかね。
――:
たくさん書く‥‥
小林:
とにかく量を書いて、反省して、その反省から見えてきた課題に対して次はどう応えようか‥‥っていうのを何タームも繰り返していますね。
2.幸せな関係
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――:
先ほど「スタジアム装飾の仕事は初めて」とおっしゃいましたが、パッケージデザインや他の仕事との違いは何かありましたか。
小林:
公共性が高いことですね。この装飾が今後10年、20年と残っていく場合に、「古びていくものであってはならない」というのはすごく考えました。
時代的なものというか、「流行りのデザイン」になってはいけない、と思いました。
――:
今日、初めて完成後のスタジアムを見るわけですが、装飾の現物を一通り見てみていかがですか。
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小林:
やっぱり柱の装飾は、面積がこれだけ大きいから、かなり影響力があるなと思いました。色調はスタジアムとしっかり合っていて、すごく安心しました。
手すりの装飾は、いい意味でちゃんと背景になってくれている。手すりは観戦の邪魔にならないように、すごく意識して作りました。
――:
「観戦の邪魔にならない」というのは、過度な装飾を避けるというか‥‥
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小林:
そう、そう。視界に強く入ってくるものだと、観戦中に気になっちゃうので。広告としてはその方がいいかもしれないけど、観戦する側の注意を削いでしまうのはよくないから、控えめにする必要があるなと。
この手すりの「見えてほしいタイミング」って、お客さんがスタジアムに入ってきて、自分の席に行くまでの移動中だと思うんです。移動中の「動きの流れ」は、実際に現地を歩いたときにイメージが掴めたし、それをビジュアルでしっかり表現できた気がします。
一方、柱の装飾はスタジアムに来たときの高揚感を一段階上げるものでありたいし、スタジアム全体が一体になるための迫力作りに寄与できるようなものに意識しました。
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――:
なるほどー。
小林:
あとは、スタジアムの座席自体も「波」を表現しているので、そこにも同調することが大事だと思っていました。
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ーー:
日本ベネックスとしても、今回の装飾デザインは「スタジアム」という場所の特性や「365日開かれている」ことを加味して、「空間との調和」を目指していました。企業の広告として作るのではなく、企業としてできる環境への視覚的な後押しを目的としたものとして考えています。
わたしたちのコーポレートカラーは「赤」なので、赤色の装飾で目立つようにすることもできたんですが、あえてしませんでした。
この方針で展開すると決めたのは、一毅さんに「ポジティブに認知してもらう必要がありますよね」と言われたことがきっかけでした。
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小林:
それをベネックスさんが理解してくれていたからこそできた装飾ですね。
ーー:
これからスタジアム、街全体がどのようになっていくのか楽しみです。今日はありがとうございました。次はJリーグを一緒に観ましょう。
小林:
ありがとうございました。そうですね、また来ます!
(お読みいただきありがとうございました!!)
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