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傲慢な裁判者の一生と公平な審判者の日常 ショートショート小説4

 少しだけ上記の作品と繋がっています。



 あの世で閻魔さまが死者の魂を裁いている。今日も百年前から続いていた、剣豪と盗賊の問題を裁いたばかりだ。

「次」

 閻魔さまが言うと魂が一つ、浮遊して近づく。

「お前の罪を告白せよ。本当のことを話せば、罪は軽くなるだろう」

 しかし魂は憮然としていて、閻魔さまの前で不服をあらわにしている。

「お言葉ですが閻魔さま、私は生前裁判員をしていましてね。何が善で何が悪かの問題に関しましては、人一倍自信があるのです」

「ほう、法を扱う者としてどのように自信があるのか興味が沸いた。私の前で述べてみよ」

 すると魂は明朗に、よく響く声で言い出すのだ。

「私は不慮の事故で死にましたが、死ぬ直前に強盗を裁きました。強盗というのは人を殺し、人の金を奪って人を不幸にするので、これは悪だと断言して斬首に処しました。これで私の街の平穏は保たれたのです」

 すると閻魔は、魂の主の生前の行いを記した紙を鬼から受け取り、熟読しながら思案した。

「ちなみに強盗の、強盗以外の生前の行いは知っていたかね」

 閻魔が言うと、魂はケラケラと笑いながら言った。

「もちろんです。強盗の男は徒党を組み、薄汚く落ちこぼれた子どもたちに、盗んだ金を施していた。それだけではない。盗んだ汚い飯を食わせて、飯屋の店主を泣かせていた。いえ、かわいそうな子どもたちに飯を食わせていたのはまだわかるんですがね。ただ私の街では盗みや殺しは御法度というのが法でしたから、その理念に則り悪党どもを裁いたまで。これが私の考える法です」

 すると閻魔は、机を叩きつけた。その場が静まる。魂はぎょっとしていた。

「殺しが有罪であり、有罪を裁くのが法であるならば、強盗の頭目を斬首に処し、強盗が助けたはずの持たざる者たちに救いを与えなかった貴様もまた有罪である。……あろうことか自らの作り上げた秩序によって人を裁く権を与えられし身分が、秩序の外でしか生きられない者たちに救済の機を与えず、一笑に斬り捨てるとは何事か。恥を知れ」

 閻魔は大鏡を出し、魂に向ける。閻魔の鏡には、魂の生前の行いが事細かに映し出された。すると魂は思い出したようにあっと声を上げる。

 強盗を裁いた魂の生前の姿。そこに押し寄せる報復の刃。悲鳴は街を多い、人々は痩せこけ、権力を握った上の者たちはしたたかに逃げ延びる。この時、魂は初めて、自分が死んだ原因を思い出したのだ。

「そうだ、お前は自らが見捨てた持たざる者たちによって制裁を受けた。そして持たざる者たちも、その死後は私によって裁かれるだろう。お前の最大の罪は、罪人を最小限にとどめられる立場にありながら、救済された可能性のある魂さえ無闇に有罪にさせたことであり、罪を裁く者としての立場をかさに立て、自らの作り上げた秩序に寄りすがり、裁かれる側と裁く側の公平性に自らの倫理を持ち出し、仮初めで未完成の法と権によって無用の争いを作り出した傲慢だ。そして私はずっとこの光景を見ていたのだ。有罪」

 すると魂はわなわなと震えた。あの時、道ばたで地蔵さまが微笑んでいたのを思い出すと、魂はどこぞへと消えていった。閻魔はその様子を見届けながら、魂の生前の行いの記録を鬼に渡し、正面に向き直って言った。

「次」

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