『頼むから静かにしてくれ』
古書店に行く。以前そこで手に取った歌集の、また同じ人の本があったので嬉しい。句集も、ぱらぱらと見て「これは!」と思ったものが、帰りの酒くさい電車で開いたらやはりすごく良くて、嬉しい。
帰る前に、水タバコも吸ったんだった。普段煙草はやらないが、レイモンド・カーヴァーの短編に水タバコが出てきたのを思い出して無性に吸いたくなるミーハー心。『頼むから静かにしてくれ Ⅰ』(村上春樹訳)に入っている「アラスカに何があるというのか?」という話だ。
気に入った靴を買って颯爽と帰宅した際、家族に「色はあまり気に入らないけど」と指摘されたら黙って靴を見つめてしまう、というような人は読んだらいいのかもしれない。詳しい内容は書かないけれど、まさにそういう人物が登場してくるからだ。
心理描写はほとんどされない。何も起こっていないように見えて、太い一本の木の内部のような見えないうねりを感じる書き方。
頼むから静かにしてくれ、という訳もあらためてかっちょいい。
また『PERFECT DAYS』繋がりか、と思われるかもしれないけれど、昨日はキンクスを聴いて、PreservationとBig Skyという曲が好きになった。繰り返し聴く。今夜は、さっき偶然紹介するツイートを見たルー・リードのMagic and Lossというアルバムを聴く。Goodby Massという曲がビビッとくる。ルー・リードの声は角がなくてまるいイメージ、ちょっと籠ったけだるい歌い方も孤独な雰囲気を感じて、魅力的だ。尖りのある声、よく跳ね返る声、ざらつきのある声も好きではあるけれど。
古書店でも前に本を紹介してもらったし、人が観ていたからとか聴いていたからとか、誰かに委ねたコラージュみたいな状態でわたしの好みは出来ている感じがする。こんな切り貼りの、貰いもの人生でいいのかな、とも思う。自分で探したものなんて多分ほんの少しだ。
良いな、と思うものを結構見聞きしたつもりでも、詩やエッセイとして書けるものもまた、ほんの少ししかない。ちぇっ。ちぇっ。でも、作るにおいては、それが面白くもあるのだけれど。
蛇子