東京で働いた店は給与未払い~ついに自分の給料も出なくなり、店は麻雀卓を売って経営難を凌ぎ、なぜか空気清浄機を売りつけられる~
前回の続きです。なお前回のオーナー高木の馬身の大負けにより、自分の給料も未払いになっていますw
①意味のない差し馬
その日は山田さん(仮名)というお客さんが来ていた。山田さんは馬身(着順差でのサシウマ)に参加する客の一人。雀力は低く、よくアウトを出していた。
これがこの店の良くない点の一つで、馬身という高レートに参加する人にもアウトを出していた。そもそもアウトを出す時点で金を持っていないか金にルーズな証拠なので、少なくとも高レートでアウトを出すのはNGだ。
そんな状況なので、最近では山田さんにはアウトを出さないように自分から結構厳しく言っていた。
その日も山田は馬身がやりたいと言い出す。しかしメンバー3入りで馬身をやる意味はない。高木は馬身を禁止されているため、受けれるとしたら店長だけだが断るだろうと思ってみていると
高木「わかりました。私は馬身は出来ないんで店長と握ってください」
(いや、意味ねーだろ!)
心中で突っ込みを入れる。しかも山田は途中数万程度でパンクし、アウトまで要求し始める。そして高木もなぜかアウトを出していた。
途中で山田が席を立った際に、高木にどういうことか問い詰める。
高木「いや、山田さんアウト来週返済するっていうからそれならいいかと思って…」
返済するとしてもこの馬身に意味があるか甚だ疑問ではあった。しかし、返済の約束を取り付けていることと、店長がやっている以上は自分からこれ以上何かいうことはできない。
その日は結局山田さんのぼろ負けで終了、アウトを増やしそのまま帰っていく。
(無事にアウト返済があればいいんだが…)
店の締め作業をしながらそんなことを考えていた。
それから数日後、高木が電話で山田さんと話をしていた。返済の話だろうかと思っていると、電話を切った高木がこちらに来てとんでもないことを言い出す。
高木「山田さんの20万のアウトの件なんだけど、山田さんがリフォーム会社やってるらしくて、返済の代わりに30万くらいかかる壁紙のリフォームをタダでやってもらうことになったよ。業者が入る日も決まったから」
(は?)
絶句した。今店は給与未払いが出るくらい現金がショートしているのだ。その状態で何を言っているんだこいつはと。
そもそもこの店自体がオープンしてから三年も経っていないのでそこまで汚れているわけでもない。壁紙を張り替える必要すら全くないのだ。
(こいつ…脱法ハーブやってるって噂で聞いたけど、その影響でここまで頭がイカレれたのか…)
それから数日後、山田さんの業者が入ってきて壁紙を張り替える。その金があれば自分たちの給料に少しは充てられたはず。
(俺たちの給料が壁紙になって店の壁に貼られていく…)
そんな悲しい思いで業者の工事を眺め続けるのだった。
②麻雀卓の売買
店の資金も底を尽きていたある日、高木から一つ相談を受けた。
高木「実は知り合いでアルティマ(麻雀卓)を30万で買いたいって言ってる人がいてさ…これ売ったらまずいかな…?」
最初はすごい提案だと思った。未だかつて聞いたことがあっただろうか、経営難で卓を売る雀荘。
ただ悪くはない提案だとは思った。5卓のこの店が満卓になることなどほとんどなかったし(ピン東は単価が高いので2卓立てば御の字)、今はなんにしてもお金がないと次の給料日もテナントの家賃支払いも乗りきれない。30万なら個人売買ならそこまで安いという金額でもないだろう。
K「個人的には売っていいと思いますよ。他の責任者にも聞いてみないとわかりませんが」
そして他の責任者にも相談し卓は売ることになった。自分が休みの日に相手が引き取りに来るとのことだった。
(これで少しは資金状況が改善されればいいが…)
そして休み明けの出勤の日、卓は1卓無くなっていて、少し店が広く思える。
こんなに広かったんだなーと思って店を眺めていると、もう一つ気になるものを見つけた。
(なんだこれ…)
それは見慣れぬ機械。おそらく空気清浄機のように見える。
K「何ですか…これ?」
スタッフ「高木が買ってきたらしいよ。なんか須田さんにずっと買わないかって頼まれてたみたいで」
須田さんとは前に高木が40万一晩で負けた客だ。
すぐに高木に確認の電話を入れる。
高木「いやー…以前からずっと須田さんに買ってくれ買ってくれって言われれてたから…須田さんはうちの太客だから断れなくて…」
K「いくらしたんですか?」
高木「…10万…」
この店に来て何度目の絶句だろう。こんなものに10万も…
いや、空気清浄機をバカにするわけではない。太客との付き合いや営業も大事だろう。
ただ、給与未払いの今することでは決してないのだ。そして大事なこととして
空気清浄機は前からもう一つ店にある。
スタッフ「おい!この空気清浄機、煙全然吸わねえぞ!」
スタッフのそんな叫びに自分は「そうなんだ…」と返すことしかできなかった。
③店をリニューアルする!
自分はその店で売上などの経理的な面を任されていた。ちなみに自分が入る前までは一切帳簿などがなく、どんぶり勘定で全て行っていた。
そこを一旦正確に把握しなければということで過去数か月分の売上などをエクセルに洗い出した。
そして、店の売上を見ていて思ったのは
「経営的に赤字というわけではない。店の一番のマイナスは高木のアウト」
だということ。高木の負け分、そして生活費で持っていく金額で店の資金がショートしているのだ。
そのことを高木、そして当時の責任者を集めて話をする。そしてそこで決まったのが
「高木は来月からシフトに入らない。そして外で働き先を見つけてそこで稼いだ金を店に入れる」
というものだった。オーナーが出稼ぎを強制される雀荘など、前代未聞だ。高木もそれを渋々ではあるが了承する。
来月になれば少しは自分の心労も減るだろう。そんなことを考えながら翌月を待っていた。
しかし月の半ばほどに高木から電話がかかってくる。もう彼からの電話は嫌な予感しかしない。
高木「店のことに関してすげえ考えてみたんだけどさ…今のままじゃダメだと思うんだ。マナーも悪いし、馬身やってるお客さんとかいたら新規もつかないだろうし」
かなり今更だとは思うが、店がこうなってしまった以上はもうそれは仕方ないだろう。今の店の状況がいいとは言わないが、これ以外に現状店を回す手がないのだ。今から新規のお客さんをつけることの方が遥かに難しい。
高木「そこでなんだけどさ…来月からは店をリニューアルしようと思うんだ。馬身のお客さんとも手を切って店を普通のお店に戻したいんだ」
おいちょっと待て、馬身客は今店で一番の太客だ。中には月間で400ゲーム(場代にして24万くらい)打ってくれるお客さんもいる。
そこと手を切ったらお店はもう終わりだ。
K「とりあえず考え直しましょう。それはいくらなんでも現状では厳しいです」
高木「いや、Kの言うことも分かるんだけどさ。店長とも話して、やっぱりそうした方がいいかなって」
まずい、店長は人柄や接客は抜群だが、経営や数字のことには疎い。このままではリニューアルという流れが進んでしまう。
高木「リニューアルだよ…リニューアルして新しく店をリスタートすれば、きっとうまくいく…」
それを見て思った。追い詰められた経営者というのはこうなってしまうのか。
まず、「耐える」ということができなくなるのだ。何かのきっかけで全てが変わるような、そんな一発逆転の変化を欲してしまう。
思えば彼の麻雀を見ていてもそんなことを思ったことはあった。不調のときに一つ一つ正しいことを積み重ねていくことが彼は致命的に苦手なのだ。すぐに変な仕掛けを入れてしまったり、行き過ぎた大物手を狙ってしまう。
そんなことをしたって、変わるわけはない。うまくいくためには、もっと地道に一つ一つのことを積み重ねていくしかないのだ。
それから店の役職者で話し合った。ただ悲しいことに、当時の役職者に店の状況を正確に理解している人が少なく、リニューアル自体は決まってしまったのだった。
リニューアルが決まった際、自分は退職の旨を伝えた。これでは自分の給与未払いが悪化するだけだ。
ただ店の帳簿管理ができるものが自分しかいなかったため、引き止められた。そして
「もしもリニューアルして店の経営が悪化した場合、自分の未払いの給料を売上から清算して辞めてよい」
ということを条件に続けることとなったのだった。
続く
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