From Buenos Aires2
薔薇の花束を差し出して、跪いて「will you marry me?」
映画では幾度も見ることができた。イヴァンの懇願の目が私を困らせる。No
とは言えない雰囲気だった。
私が彼にはっきりできないのは彼が何を考えているのかいまいちつかめないところだった。また、こんなに性急に異国のどこの馬の骨ともわからない女に求婚するなんて何かあるに違いない。最悪何もなくてただ純粋に好んだとしても、いったい何がよかったのか理解できない。
とりあえず家に入れる。イヴァンは戸惑う様子もなくごく自然に部屋に入った。何かされる覚悟はある、もう35歳だ。家に男性をあげるというのはどういうことかという分別はついている。それで誤魔化せたら御の字と思ってあげたのだ。
イヴァンの浅黒い肌がじっとりと濡れている。なめくじのうようにねっとりしている。私の何かを吸い付いて離さないのはこの肌の湿り気なのかもしれない。汗のように見えるこれが実際はフェロモンなのかもしれない。イヴァンが女性を惹きつける力はけた違いだった。共にいることを恐れる理由のひとつに彼の異性からの異常な人気具合があった。
イヴァンの筋肉の付き具合は大柄とは言えない。イヴァンのあごのラインも決してエラが張っているような男らしいものでももない。血管ばかりの腕はどこか病気かと思ってしまうほどだったし、射手だと息巻くその瞳に光を見たことは一度もない。死んだ魚の目とはよく言ったもので、イヴァンはどこか生気がいつもなかった。
もしかしたら、、、そう思っていたし、この真剣すぎる硬直状態を和らげるにはちょうど良いと思って、ふざけてこう聞いた。
「あなたヴァンパイア?」
日本語を話していない時分に驚いたのはそういった後だった。しかし、この言葉はベンガル語でも英語ではない。便宜上日本語で表記しているものの、私の口を次いで出てきた言葉が何後なのか判断がつかなかった。
イヴァンの目がネイビーに光る。
「やっぱりわかっていたんだね」
しっかりと意思を感じ取れるその言葉、しかし私はこの言語が何語なのか知らない。
イヴァンは目をつむり、両手の中指を額に当てて、「サンタマリア」と3度唱えた。
姿が変わった。
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