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ゴシップ1<マルスとリリス1>


火星を収める軍神マルス。彼は前進あるのみ、後退はないと言い切る闘将でもある。闘将の気高い品性に対して、男らしいとあがめているのは若いキューピッドたち、危なっかしいと自分の手元に住まわせようとするのが熟れたヴィーナスたちだった。
マルスの魂は辟易としていた。毎日同じことの繰り返しで、魂を震わせるような交わりがない。単調で平坦で、自分が軍神であるのに、それさえも忘れるほどに平和な日々。
男を自認する稀有な悪魔であったのに、男になって女を抱きつぶしてみたいから男を選んだというのに。悪魔と呼ばれる雌たちも面白みがなくなったものだと、数億年の銀河の果てに祈る夜が続いた。

マルスを満足させる雌の悪魔がいるのかと第七階層では話題になっていた。第七階層の住人たちはいつも唯一の欲求をたぎらせている。ゴシップのネタもひとつというわけだ。

第七階層には有名人がいた。人間に嫁がされたリリスというサキュバス、彼女はのちにルシファーの虜となった。
アダムを評してリリスは言った
「つまらない男だった。雄と男の違いを見た気がする」
リリスは雄を探していると豪語する。常に求めるのは快楽の先にある愛だとリリスは伏し目がちに言う。
神はリリスの真意をご存じだから常にリリスを気にかけられた。そして、常にリリスを特別扱いするように見えた。天使たちは嫉妬を燃やす。美貌も知性も与えられたのは神の寵愛を受けているからだ、あれこそがホンモノの悪魔だ。
本質を見損ねるものはどの世界にもいるものだと思った。

マルスとリリスの出会いは魂からして10の差があった。
マルスから見てリリスは愛らしいキューピッドではなくヴィーナスであり、ダークムーンであるよりも金星のようにまばゆかった。

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