![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/166979269/rectangle_large_type_2_ba4c95fc529dcd4e846f4b4d1b372615.png?width=1200)
会えたとしても
別に、あなたが嫌いなわけではない。
むしろ気になっていたから、
退勤後、エレベーターまでの道のりを
少しゆっくり歩いてみたりした。
コーヒーカップを片づけに
給湯室へ入っていく後ろ姿が見えたから、
たぶん、エレベーターを待っている間に
会えるかもしれないと思って。
結局来なかったから
どうしてだろうと思ったりもしたんだけど、
エレベーターを見送るのは、なんかすごく、こう、
負けたような気持ちになりそうで。
そこまで気になっているわけではないし、
それをあなたに知られてしまったら嫌だから帰った。
他愛無い話でもできれば、なんて考えてしまった自分が
とても恥ずかしかった。
わたしたちは、なんの用もないのに
LINEしたりする間柄じゃない。
だから、今日のあなたとの会話は
さっきの「お疲れ様~」が
最後だったりするんだって考えると、
それはなんか、淋しくはないけれど、
残念とかではないけれど、
でも、なんか味気ない。
こんなふうに心の中の声ですら、
誤魔化したり繕うような言葉しかでてこないなんて、
わたしはつくづく馬鹿だ。
この歳になれば、
簡単に人を好きになったり、嫌になったり、
そういう時間がとにかく疲れる。
だからあなたに会える平日を待ったりなんかしない。
わたしはわたしの時間を大事に思っているし、
この毎日のルーティンワークに満足している。
会いたいという気持ちを感じるその前に、
ビールと一緒に流し込めるように
アップデートされた今が、
歳を重ねることの強みだとひしひしと感じている。
痛みや傷を回避する力。
それはとても理性的で理想的な形。
もしエレベーターホールで会えても、駅までの10分間、
会えた時間が、話せた時間が延びただけ。
延ばすことができただけ。
ただそれだけだから、気にしない。
気にすることでもない。
だってまだ今日は火曜日だから。
また明日、きっと会える。