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薬剤師・医学博士が追い求めた「幻の赤い果実ブアメラ」の世界(第3回)


第3回:ブアメラの世界のダニ族

パプア高地の先住民は、少なくとも3万年前に海辺からマラリア感染の危険から高地に避難したようだ。海の民から、山の民への大移動、変遷と言える。
元々海の民であるパプア先住民は、動物性蛋白を栄養源として摂取していたが、山の民となってから恐らく数千年ものあいだ動物性蛋白源として有袋類を狩猟して生存したようだ。バリエム川には魚が生息していないように思われる。
あらゆる動物性蛋白源が底をついた後は、ブアメラは微量栄養素の補給と動物性脂肪に代わる貴重な果実となったのだ。
実際、ブアメラには生存に必須な微量栄養素としてβ-クリプトキサンチンなどのカロテノイド、ビタミンE、ビタミンKや植物ステロールなどが含まれ、ブアメラオイルの脂肪酸組成は人間の体脂肪のそれとほとんど同じである。
ダニ族の主食はヤム、タロやサツマイモの根茎類、それらのツルや葉であり、基本的に蒸し焼きにして食べる。一年に2度しか収穫できないブアメラは、料理の貴重な栄養ソースとなり家族全員でたっぷりと微量栄養素を摂取する。
興味あることは、動物性たんぱく質が欠乏するパプア高地の先住民は、空気中の窒素を用いて小腸内でアミノ酸を合成するらしい。
ブアメラは動物の骨で作ったナイフで長軸に半分に割り、芯を取り除き、バナナの葉で覆って蒸し焼きにする。そして手で揉んでパルプ(ソース)を作る。
近年ブアメラを住居敷地内に植えることが盛んになり、ホナイの傍にブアメラのこんもりした木々の風景が多くみられる。支柱根や小枝を切り落とし、挿し木により容易に増やすことができるが、果実収穫までに数年がかかる。ある地域では山地に多数のブアメラが植林されていた。言うまでもなく、無農薬・無化学肥料の天然自然栽培で、国家の有機農産物の認可制度とは無縁である。
ブアメラは貴重な換金できる栄養果実のため、乗合バスの屋根にブアメラを載せ、バリエム渓谷一番の都市ワメナの市場に向かうダニ族には笑顔がみられる。

ブアメラとパプアの人々の紹介は論文報告しています。
Mathelda Kurniaty Roreng,Toshiaki Nishigaki
Faculty of Agriculture and Agricultural Technology, Papua State University, Indonesia
M&K Laboratories Inc., 1286-18 Yamato, Azusagawa, Matsumoto, Nagano 390-1701, Japan
Warta IHP Vol.30. No.1, Juli 2013 : 37-48、Balai Besar Industri Agro

日本語要約はこちらへ
https://www.thisismk.co.jp/dr-nishigaki/%e3%83%96%e3%82%a2%e3%83%a1%e3%83%a9%e3%81%a8%e3%83%91%e3%83%97%e3%82%a2%e3%81%ae%e4%ba%ba%e3%80%85/

ブアメラ収穫の時期。ダニ族の若者は笑顔で市場に出荷する。
バリエム渓谷のワメナには一番大きな公設市場があり、様々な農産物、豚、鶏などが販売される。
ブアメラも貴重な換金できる果実で売られている。


突然の訪問にブアメラ料理をふるまってくれるダニ族。
主食はサツマイモ。
ブアメラソースたっぷりのダニ族の夕食を口腔内や唇を赤くしながら頂く。


ダニ族の伝統料理、バカール・バツウ、石焼料理

パプア先住民の伝統的な一番の料理は、有名な石焼き料理(Bakar batur)。
ポリネシアの島々にも石焼料理はあるようだが、パプアが発祥の地ではないかと思う。
稀にしかないお祝い事の料理であり、貴重な豚を食べる機会になる。
著者はバリエム渓谷の村の首長の家を訪問し、今まで三度歓迎の豚石焼き料理の機会を得ている。
村中のお祭りになるため、村人への告知と豚を初めとする料理素材を集める準備が必要だった。老若男女が集まり、女性はノケン・バッグにイモ、野菜を詰めてくる。
男は豚犠牲儀式を行い解体する。大量の石が木のやぐらに置かれる。
ダニ族を初めパプア先住民はキリスト教に帰依しており、キリストへのお祈りが行われる。
その後、先ずやぐらが燃やされ石焼き査業が開始。心臓を矢で射られた豚は、石灰岩の洞窟に向かって頭を垂れる。首長曰く、これは「豚が神に召された」証明であると。
石焼き料理は直径1.5m、深さ7~80cmの穴で行うが、簡易にはドラム缶を用いる。十分に焼いた石を料理素材の間に順に置き、焼いた石の熱で蒸し焼きにするのだ。料理素材が直接石と接触しないように強烈に焼いた石と野菜類の間に葉ものを置く。
ブアメラは穴の一番底に、次いで野菜やイモ類が続き豚肉は最上段に置く。全体を草でドーム状に固め、待つこと1時間半で石焼き料理の出来上がり。この間女性は、豚の腸詰めに忙しい。ブアメラソースを作るのは首長の奥さんと決まっており、女性が出来上がった料理を種類ごとに分けて行く。
首長は肉の各部を吟味し、自然と出来上がったグループ毎に分配する。男女は、決して席を同じにしない。日本からの客分には、最も美味しいとされる子宮を与えられた。確かに美味しい。
ブアメラソースでの石焼き料理が終わると、首長が余った料理を参加した女性に分配する。夫を亡くした女性には他の人より大量の肉や料理が与えられる。
縄文人の祖先と考えるが、日本人と同じような道徳・倫理観を持っているように思われる。

ダニ族のアイデンティティーであるノケン・バッグに詰められた野菜類
石焼料理(Bakar batu)の貴重な食材の豚の解体
石焼料理用の熱した石でかまどを作る
熱した石の上に葉物を置き、その上にブアメラを置く。
周囲にはとサツマイモを置く。賢明なダニ族。
豚肉は上の方に置き、刃物で覆う。
石焼ドームの完成。1時間半蒸し焼きにする、
ブアメラは硬いため蒸し焼き後に表面の種子・果肉の部分を取り、
水を加えて手で揉んでブアメラソースを作る。
石焼・蒸し料理はブアメラソースをつけて食べる。
男女別々のグループに分かれる。
文化人類学的には日本人と同じではないかと興味がわく。

石焼き料理の動画はYouTubeで見ることができます。https://www.youtube.com/user/myoukeinishigaki?feature=results_main


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