第39回 金融審議会「資産運用に関するタスクフォース報告書」について
株式会社日本資産運用基盤グループのJAMPビジネス・イノベーションは、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに当局の動向などをまとめた「JAMPコンプラ・メルマガ」を発信しています。
今回は、令和5年12月12日に金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」より公表されました「資産運用に関するタスクフォース報告書」についてです。
こちらは、先月の「JAMPコンプラ・メルマガ」にてお伝えしておりました「資産運用に関するタスクフォース報告書(案)」の概要について、市場制度ワーキング・グループ及びタスクフォースの合同により結果が取りまとめられ報告書として公表されました。
今回公表されました報告書では、資産運用立国の実現に向けた政策プランに関して、それぞれの課題に対する検討と施策について提言がされており、講じるべきとされた施策を着実に実施すべく各省庁が連携し、民間事業者を含めた関係者による不断の取組ならびに検討と改善の努力の継続が期待されていることが示されています。
具体的な対応策を示した事項については、取組みが推進されていくことが期待されていることから、今後の実務に影響を与えることが予想されており、施策実施に向けた取組みの準備が必要となります。
このことを踏まえ、今回公表された報告書の内容の中で、特に実務に影響があると思われる施策等について以下の通りご案内させていただきます。
なお、金融庁のホームページの以下のリンク先にて金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」・「資産運用に関するタスクフォース」報告書の公表について掲載されていますのでご確認ください。https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20231212.html
―資産運用業の高度化-
資産運用会社は、国民の将来のための資金を託されるプロフェッショナルとして、明確な投資哲学の下、それぞれの特徴や個性を活かしながら創意工夫を重ね、国民の安定的な資産形成を果たしていくことが求められる。そうした役割を遺憾なく発揮するためには、資産運用業の高度化が不可欠であるとし、こうした観点から必要な環境整備として以下の内容が示されています。
・運用に携わる優秀な人材の集積を通じて、運用に関する分析能力の向上や、特色ある運用商品・手法の多様化、顧客の最善の利益を図るためのガバナンス改善・体制強化を図る。
・資産運用業の高度化を図る上では資産運用会社の競争環境を整えていくことが重要であり、資産運用業への参入障壁を取り除いていく。
・資産運用会社の運用体制や運用成果等に関する比較と分かりやすい情報開示・透明性の確保を行い競争環境の整備。
上記の環境整備に必要とされる具体的な取組みについて
■「大手金融グループにおける運用力向上やガバナンス改善・体制強化
・顧客の最善利益を考えた運営のために求められる体制を傘下資産運用会社・販売会社も含めて構築していく必要がある。
・運用力向上に向け、資産運用会社自身で行う運用強化とサステナブル投資やオルタナティブ運用等の新たな領域におけるビジネス展開を実現していくために、グループとしてのオーガニック及びインオーガニック戦略を活用した運用人材の育成・確保に向けた取組みが重要になっていくと考えられる。
・大手金融機関グループにおいて、グループ内での資産運用ビジネスの経営戦略上の位置付けを明確にし、運用力向上や顧客の最善の利益を考えた業務運営のためのガバナンス改善・体制強化を図るためのプランの策定・公表を行うことが重要であると考えられる。
■資産運用会社におけるプロダクトガバナンスの確保等
・資産運用会社による適切な商品組成と管理、透明性の確保等を後押しするため、「顧客本位の業務運営に関する原則」に資産運用会社のプロダクトガバナンスを中心とした記載を追加し、資産運用会社における個別商品ごとに品質管理を行うガバナンス体制の確立を図っていくことが適当である。
■ミドル・バックオフィス業務の外部委託等による規制緩和
・適切な品質が確保された事業者へのミドル・バックオフィス業務の外部委託を可能とし、ミドル・バックオフィス業務の全部又は一部を受託する事業者について、参入規制、行為規制(善管注意義務等)を課すとともに、当局による監督の対象とすることによって、業務の質を確保することが適当である。
■新興運用業者促進プログラム(日本版 EMP(Emerging Managers Program))
・金融機関やアセットオーナーが、新興運用業者による運用成果を通じて、受益者の最善の利益を実現できる環境を整備するため、官民が連携した新興運用業者に対する資金供給の円滑化に関するプログラムを策定することが適当である。
・政府等において、新興運用業者への資金供給に向けた様々な取組みを公表することや、新興運用業者のリストを金融機関及びアセットオーナー向けに提供するといった取組みを行うことが適当である。
■一者計算の促進・マテリアリティポリシーの明確化
・業界における業務処理の標準化・統一化等の対応が必要と考えられるため、投資信託協会が設置した「基準価額算出に係る実務者検討会」を中心として、一者計算の実現と普及に向け、業界一丸となって環境整備等に取り組んでいくことが期待される。
・マテリアリティポリシーの明確化に向けては、当該ポリシーを各社において定める場合、適正な水準とする必要があることや、当該ポリシーを投資家へ周知することが重要であることについて、当局の監督指針等で明記することが適当である。
―アセットオーナーに関する機能強化-
受益者の最善の利益を確保する観点から、運用する目的や財政状況等に基づき目標を定め、その目標を達成するために委託先を厳しい眼で見極めるといった運用力の高度化を図っていくことが求められている。また、アセットオーナーの機能強化に合わせ、アセットオーナーの運用を支える金融機関においても、顧客であるアセットオーナーや、最終受益者である家計の最善の利益を図るための取組みが求められる。
そうした観点から、必要な環境整備として以下の内容が示されています。
・アセットオーナーから資金運用の委託を受ける資産運用会社等は、アセットオーナーのリスク許容度等を考慮した上で、最善の利益を確保するための運用を行っていく必要がある。
・企業型確定拠出年金(DC)の運営管理機関は、加入者の最善の利益を確保する観点から、加入者本位の下で適切な業務運営や創意工夫をしていくこととし、運用商品の選定・提示や情報提供の充実等を行うことが求められる。
・アセットオーナーを支える金融機関への当局からの適切なモニタリングの実施と必要に応じて改善を求めていくことが不可欠であると考えられる。
―スチュワード・シップ活動の実質化に向けた取組み―
インベストメント・チェーンの中核的な役割を担う機関投資家には、投資先企業と対話(エンゲージメント)を行い、中長期的な視点から企業価値の向上を促すスチュワード・シップ責任を果たすことが求められている。画一的な数値基準や議決権行使助言会社の助言等に基づく形式的・一律の対応ではなく、個別の企業の事情に対する深い理解に基づくエンゲージメントが行われる必要があり、そうした活動に対して適切なインセンティブが働くよう、インベストメント・チェーンを通じてスチュワード・シップ活動に係るコストシェアリングを行い、政策的な後押しを含めた環境整備していくことが重要であることから、必要な環境整備として以下の内容が示されています。
・機関投資家がスチュワードシップ・コードの趣旨を踏まえ、自らの置かれた状況(規模・運用方針等)に応じた対応を促進することが重要である。
・機関投資家がスチュワード・シップ活動を行うことで得ることのできるベネフィットの増加が有用であり、他方で、そうした活動に要するコストの削減も有益であることを踏まえ、質的・量的なリソースを補い、コストを低減する観点から、積極的な協働エンゲージメントの取組みの活用することも有用である。
・東京証券取引所による資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて要請(① 現状分析、②計画の策定・開示、③取組みの実行)に基づき対応を進めている企業の公表(来年1月から開始)の取組に関して、当局から、収益性と成長性を意識した経営に向けた企業の取組み及びそれに基づく投資家との対話を一層促すための取組をフォローアップしていくことが重要である。
―成長資金の供給と運用対象の多様化の実現―
スタートアップ企業に対する資金供給が十分ではないことからスタートアップ企業の成長ステージに応じた資金供給についてボトルネックが生じないよう支援していくこと、ならびに運用対象の多様化の実現が重要であることから、必要な環境整備として以下の内容が示されています。
・機関投資家においては、各々の期待収益率やリスク許容度等に応じて、分散投資等に資する長期運用に見合ったベンチ ャーキャピタル(VC)ファンドへの資金供給が必要であると考えられる。
・VCの内外の機関投資家から求められる水準のガバナンス等を備えていくことが、機関投資家から広く資金調達を行っていく上で重要であると考えられる。
・既存の金融商品への投資も含め、自らのライフプランに応じて適切な商品を選択できるよう、より投資しやすい環境づくりや制度の見直しを行っていくことも重要である。
・金融経済教育推進機構を中心に官民一体となって、家計の金融リテラシーを高めるための学校教育や職域・地域での金融経済教育に関する取組みを広く浸透させていくことが重要である。
上記の環境整備に必要とされる取組みについて
■ベンチャーキャピタルを巡る課題への対応
VCファンドの公正価値評価の導入については、海外投資家からの資金を得るなどしてファンド規模を拡大することや、有価証券の評価の透明性を向上させることなどの利点もあり、引き続き推進するための環境整備を早急に進めるべきであると同時に今後、関係者と協力して下記課題を解決していくことが必要であると示されています。
①公正価値評価の促進
②ベンチャーキャピタル(VC)向けのプリンシプル
■非上場株式を組み入れた投資信託・投資法人の活用促進
家計が投資信託を通じて非上場株式への投資が可能となることは、非上場株式へ 直接投資することと比べると、運用のプロフェッショナルである資産運用会社の目利きが活用され、また、分散投資の機能が働くものであり、今後、投資信託の枠組みを通じた成長資金の供給及び投資対象の多様化が促進されていくことが期待されると示されています。
また、既存の公募投資信託の枠組みや実務とは別に、解約制限などの流動性確保のための措置が適切に講じられた上で、流動性の低い資産を中心に運用するといった商品類型を設計することも望ましいという考え方が示されており、そうした投資信託が販売される際には、投資家保護の観点から、投資家の投資資金の性格やリスク許容度等に応じて、投資家の適合性が適切に判断される必要があるとともに、非上場株式への投資に関するリスクについて投資家に対し十分な説明がなされることが求められると示されています。
■募集・私募制度、投資型クラウドファンディング(CF)の制度整備
①少額募集・開示の簡素化
スタートアップ企業の資金調達に係る情報開示の負担軽減・合理化の観点から、当該届出書に係る開示内容等をより簡素化することが適当である。
②投資型CFの活性化
資金調達ニーズの動向を踏まえ、1億円以上の資金調達をする企業が必要な開示を行うことを前提に発行総額上限を引き上げ、5億円未満とすることが適当である。
簡素化された有価証券届出書等の開示書類の様式が利用可能となる制度整備ならびに適正確保のためCF事業者による発行者や事業計画の審査に関する項目が開示され、項目に沿った審査が適切に実施されることが重要である。
■非上場有価証券の取引の活性化
①プロを対象とした非上場有価証券の仲介を行う金融商品取引業者の参入要件の緩和
非上場株式のセカンダリー取引の活性化は、スタートアップ企業等による資金調達(プライマリー取引)の円滑化に資することに加え、上場に偏っているスタートアップ企業の出口戦略がM&A(合併・買収)も含め多様化され、成長段階に応じた適切な規模の継続的資金供給を実現するためにも重要であるため、非上場株式のセカンダリー取引に係る制度整備を進めていくべきであると考えられる。
②非上場有価証券のみを扱う私設取引システム(PTS)業務の参入要件の緩和
非上場有価証券のセカンダリー取引の場を提供する事業者の参入を促進するため、PTS 業務の規制について、想定される取引量等に応じた参入要件とすることが適当である。
■株式報酬に係る開示規制の整備
株式報酬導入の開始時点である「株式報酬規程等を定めて取締役等に通知を行う行為」を有価証券の取得勧誘の端緒と捉え、当該行為が有価証券の募集又は売出しに該当すると整理することが適当である。事後交付型株式報酬は、会社から取締役等に対して他者へ譲渡できない形で報酬を前払いするという点でストック・オプションや譲渡制限付株式(RS)の経済的性質と類似していることを踏まえ、ストック・オプション及びRSと同様、有価証券届出書の提出に代えて臨時報告書の提出を認める特例を設けることが適当である。
■運用商品の多様化
①排出権を対象とする投資信託の組成
投資信託の主たる投資対象資産に排出権を投資信託の追加投資対象として、十分な流動性や円滑で適正な価格形成が確保されるかなど、まずはカーボン・クレジット市場の状況を精査し、将来的に投資信託の主たる投資対象への追加を検討することが適当である。
②外国籍投資信託の国内籍公募投資信託への組入れ
非上場の外国籍投資信託を主に組み入れる商品について、既存の公募投資信託とは別に商品類型を設計すること、ならびに、投資家に販売を行う際のリスクに関する十分な説明の実施など、十分な投資家保護のための措置が講じられるべきである。
③外貨建国内債(いわゆるオリガミ債)の発行の円滑化
外国口座管理機関が運用する外貨のDVP(Delivery Versus Payment)決済プラットフォームを国内投資家がより広く利用できるよう外国口座管理機関の下位に国内口座管理機関を設置できるようにすることと、その際には外国口座管理機関は口座管理機関の誤記録等をカバーする枠組みの対象外であるため、その下位の国内口座管理機関も対象外になるものと考えられる。そうした前提を踏まえ、投資家保護の観点から、DVP決済による取引を可能とする投資家は、リスク判断能力の高い投資家に限定することが適当であり、また、投資家の口座開設を行う国内口座管理機関等においては、投資家の属性等に応じ、投資家に対し誤記録等をカバーする枠組みの対象外であることについて適切に説明することが必要であると考えられる。
④投資信託における種類受益権
種類受益者ごとの利害対立調整や利益相反防止等、投資家保護の仕組みのあり方についての種類受益権の内容に応じた検討、ならびに種類受益権が生じることを前提とした計理システム等の整備等が必要と考えられることから、投資信託協会等における海外の事例・状況の把握を含めた具体的なニーズや実務面・投資家保護上の課題の整理の検討を行うことが適当と考えられる。
⑤投資信託約款の重大な変更に関する基準の明確化
顧客の利益に資する変更等、投資家保護に支障のない約款変更について、投資家の負担につながる過重な手続きを回避する観点から、当該Q&Aの更なる明確化を図ることが適当と考えられる。
⑥累積投資契約のクレジットカード決済上限額の引上げ
2024年から新しいNISA制度がスタートからつみたて投資枠が毎月の累積投資契約による場合の月10万円に引き上げされることから、翌月一括払いであること、累積投資契約であることの要件を維持しつつ、 信用供与の上限額について、現行実務が法令の上限額よりも制限されている状況が解消される必要な制度の見直しを行うことが適当と考えられる。
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